こころのこえ 探偵奇談13
残された瑞は、隣に座った莉子を改めて見つめた。二つに結った髪。黄色いコート。小柄な少女は鼻の頭を赤くして、走り去る郁の背中を目で追っている。
「あのさ」
声を掛けると、少女は瑞の方に顔を向けた。
(ん?)
目が合った瞬間、少女の輪郭が何か歪んでいるように見えた。錯覚?すぐにその違和感は消えた。
「俺、瑞っていうんだ」
「菊川、莉子です」
差し出した手を弱弱しく握り返してくる莉子。熱い、と瞬時に感じた。痛みのような。それは一瞬のことで、彼女の小さな手は雪の中で冷えていた。
「えっと……」
会話が続かない。参ったなあ、と瑞は頭をかく。小さい子なんて、どう扱っていいのかわからない。瑞は末っ子なのだ。
「えっと…お引越ししちゃうの?一之瀬が…郁ちゃんが寂しがってたから」
こくん、と少女は頷いた。
「だって、あのおうち怖いんだもん」
「怖い?どうして?」
「音がしたり揺れたりするの。他にもいっぱい変なこと起きるの。リビングが水びたしになってたり、お皿が割れたり、テレビがついたり消えたりするの」
淡々と話すその声は、諦めきって疲れ果てている声だった。もう仕方ないのだと、そう言いたげな。
「誰も助けてくれない。パパもママもケンカばっかり…。引っ越しなんてしなきゃよかったのに。そしたら、おばあちゃんとも毎日会えたのに。学校の友だちとお別れしなくてもよかったのに」
少女が初めて悲しい感情を見せた。
作品名:こころのこえ 探偵奇談13 作家名:ひなた眞白