こころのこえ 探偵奇談13
それを聞いてほっとする。しかし母の顔が浮かび、慌てて郁は付け加える。
「あ、えっとね、その友だちのこと、お母さんたちには秘密ね」
「秘密?」
「うん、秘密のお友だちだから…ね、」
我ながら無理があるなあと莉子に申し訳なく思う。しかし莉子は、くすっと笑って頷いた。
「秘密のお友だちね、わかった!」
早速瑞に連絡をとると、もう近所の公園まで来ているという。郁とともにその公園へ向かうと、東屋の下のベンチに瑞が座っているのが見えた。黒いマフラーで顔の下半分を覆っている。寒がりの彼は、ここのところ着ぶくれしていてなんだかかわいらしかった。
「須丸くん、ごめんね。ありがとう」
「ん。この子が、莉子ちゃん?」
莉子が郁の手を握る指先に力を込めた。目を丸くして瑞を見上げている。見惚れているのかもしれない。瑞は、じっと少女に視線を注いでいる。ぴんと張りつめた緊張感に、郁は不安になってきた。そのとき。
「……エックショ!」
唐突に盛大なくしゃみをかます瑞。その間抜けな声に、莉子がぶぶっと吹きだした。緊張感が一気に緩み、郁も笑った。
「ごめん、寒くて」
瑞が鼻をすする。
「あたし、何かあったかいもの買ってくるね」
二人を残し、郁は自販機へ向かった。
(くしゃみかわいい。ちっちゃい子みたい)
笑みが零れる。
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作品名:こころのこえ 探偵奇談13 作家名:ひなた眞白