こころのこえ 探偵奇談13
帰宅すると、弟の響と莉子がテレビゲームの真っ最中だった。ケラケラと笑っている莉子を見て、郁は少しだけ安心した。年相応の無邪気さを見せる莉子は、昨夜に比べずいぶん顔色もよくなっている。
「母さん病院行ってるよ。シチューあっためて食べなさいだって」
「わかった。すぐ用意するね」
「郁ちゃん、あたしお手伝いする!」
ゲームを響に託し、手を洗った莉子が一緒に台所に立ってくれる。
「おっかしいんだよ、響くん。ゲームに夢中になりすぎてジュースこぼしちゃったんだよ!」
皿を並べながら、莉子が嬉しそうに言う。雑でずぼらな弟だが、莉子の心を癒せたのなら花丸である。
「響って、いっつもそうだよ。もう四年生なのにさ」
「さっきお外で友だちと雪合戦してて、びちゃびちゃになってた」
「うそでしょ響!あんた濡れた服洗濯機入れた?」
入れてねえー、着てたら乾いたー、とテレビから目を離さず答える弟。
「もー!長靴かわかしとかないと、明日学校いけないよ!」
「靴で行くからいいー」
「明日も大雪だっての!」
姉弟のやりとりをくすくすと笑いながら見ていた莉子が、やがてぽつんと呟いた。
「郁ちゃんち、いいね」
「え?」
「楽しいもん」
怖いことばかり起きる家。父親も入院し、母親は付き添いで帰れない。幼い莉子の心中を思うと、郁は気の毒になるのだった。せめてこの家にいる間は、心が休まればいいのだが。
三人でテレビを見ながら夕食を囲んだ。弟が学校であった他愛もないばかな話で莉子を笑わせる。和やかな時間が過ぎていった。
作品名:こころのこえ 探偵奇談13 作家名:ひなた眞白