こころのこえ 探偵奇談13
斎藤は普段は剣道部に所属しているのだが、趣味で映画同好会でも活動するというちょっと変わったクラスメイトだった。映画の話を聴きたいという伊吹らを、喜んで迎えてくれる。
「こういうストーリーなんですけど、知ってます?」
瑞がさきほどのホラー映画の話をすると、ああ、と斎藤は頷いて笑った。
「ポルターガイストだと思う」
そう言って、彼はデッキの棚に並ぶ膨大なDVDのパッケージから、一枚取り出した。
「あ、これこれ!なんか記憶蘇ってきた!」
瑞がそのジャケットを見てすっきりしたように言った。横から伊吹も覗き込む。
青白く薄暗い空間の中、砂嵐のテレビ画面に両手をくっつけ、こちらに背を向けた幼い少女が座り込んでいる。ぞっとする。不気味だ。
「1980年代の映画だよ。最近リメイクされたね」
「怖い話だろ?」
「うん。引っ越してきた家で、その一家が怪奇現象に見舞われるって話。呪われた映画って評判になったんだ。三部まで作られたんだけど、出演者やスタッフが次々怪死してね。そのジャケットの女の子も12歳で亡くなってる」
そんなことが本当に起きるなんて。
「で、この家の怪現象は何が原因だったんだ?」
「確か、その家がかつて墓地だった場所に建てられてた、とか何かだったな。はじめのうちは怖かったけど、ラストにかけてはなんだか現実離れしていって怖くなかったよ俺は」
ありがちな話だ。
「あの、ポルターガイストっていうのは、どういう意味なんですか?」
郁がおずおずと尋ねた。斎藤は淀みなく答える。
「騒霊現象っていいて、霊が起こすこの映画に出てくるような不可解な現象のことだよ。ポルターガイスト現象。手を触れていないのに物が動いたり、音が鳴ったり。俺、オカルトはあんま詳しくないけど、そういうやつ」
ポルターガイスト…。莉子の家で起きているのも、ポルターガイスト現象なのだろうか。
「うちのクラスで、夏の納涼会で観た海外映画にもあったでしょ。人間が浮かんだり、引っ張られたり、一瞬で部屋中の家具が逆さまになってたり」
「ああ、あれもポルターガイスト現象か!確か悪魔がどうとかっていう…」
伊吹は思い出す。あれも越してきた家で怖いことが起きる映画だった。住人が不審に思い、家じゅうにカメラを設置するのだが、恐ろしい現象が映り込んでいるというドキュメンタリー風味の話だった。
「映画の題材としてはありふれてるんだ。でもそれって、世界中でそういう現象が報告されているからともいえるね。わりと身近な心霊現象なんだと思う」
心霊現象か…。莉子の家にも、やはり何か原因があるのかもしれない。
作品名:こころのこえ 探偵奇談13 作家名:ひなた眞白