こころのこえ 探偵奇談13
恋は雪化粧
「うわ!すごい!ほんとに積もった!」
朝、縁側の雨戸をあけて瑞は思わず歓声を上げた。雪だ!真っ白になった庭、絶えず降り積もってくる綿雪。なんだかテンションが上がってしまう。めちゃくちゃ寒いというのに。
祖父はといえば、もう玄関前の雪かきを始めている。瑞はそれを手伝いながら雪玉を作ったり新雪の中にダイブしたりと、初雪を満喫したのだった。朝練がないので、いつもよりのんびりと朝を過ごす。祖父と談笑しながら朝食をとった。
「瑞。今日は自転車は無理だから、バスで行くといい」
「うん」
しっかり防寒して家を出る。雪を踏む感触が楽しい。なんだかわくわくしている自分に笑ってしまう瑞だった。
夜中からの除雪作業により、市内の交通機関に大きな乱れはなかったようだ。伊吹が言ったように、学生も社会人もいつも通りの朝を迎えている。クラスメイト達もみんな登校しており、ベランダに干してあるカッパや、ストーブの前に並べてある長靴を見て、瑞は雪国っこたちのたくましさを感じた。
「郁、遅かったね。雪大丈夫だった?」
「平気平気、ちょっと寝坊。朝練なくて助かった〜」
郁がやってきて、友だちと話しながら手袋やマフラーをストーブのそばで乾かしている。
(昨日先輩が、一之瀬がどうって怒ってたけど)
郁をなんとなく眺めながら、瑞はぼんやり考える。そんな瑞の視線に気づいたのか、郁がにこっと笑みを返す。軽く手を振り返すと、彼女は笑ったのち、さりげなく目を逸らして友人らの中に戻っていった。
(…なんか…あれっ?)
ふと瑞は思う。
(いつからかな…)
もやっとした不安のようなものが心に落ちてくる。何か、彼女の気に障ることをしたのかもしれないと。郁の自分への態度がどこか変わったことに、いま瑞は気づいた。少し前までは、もっとあっけらかんと付き合っていたような気がするのだけれど。
(…なんか気に障ることしたのかな。うーん…)
作品名:こころのこえ 探偵奇談13 作家名:ひなた眞白