こころのこえ 探偵奇談13
「…すみません、」
莉子、いい子にね。そう言い残し、友代は救急車に乗り込んで去った。サイレンが遠ざかって聞こえなくなるまで、郁は莉子と母とその場に立ち尽くしていた。
「莉子ちゃん、おばちゃんちにおいで」
ね、と母がそう言って莉子を抱き上げた。母にしがみつき、莉子は頷いたようだった。寒空の下、三人で家に向かう。玄関では父が心配そうに佇んでいた。母は事情を説明しようとし、莉子に配慮してか郁に目配せを送る。それに頷き、郁は莉子の手を握って自分の部屋へ誘った。
「今日はお姉ちゃんと寝よ?」
「うん…」
莉子が不安にならないように、部屋の電気をつけたままベッドに入る。寒くないようにしっかり毛布をかけてトントンしてやると、青ざめた顔のまま莉子が郁を呼んだ。
「郁ちゃん…」
「なに?」
「あたしのおうちね、怖いの」
「え?」
囁くような声が、震えていた。
「お皿が跳んだり、お人形が動いたりするの…パパもきっと、おばけのせいで…」
母が言っていた怪現象のことだ。莉子もまた、その恐怖にさらされているのか…。
「パパが死んだら、どうしよう…どうしよう…郁ちゃん…あんな家嫌い…まえのおうちに帰りたい…」
声をあげずに、噛み殺すようにして莉子が泣く。小さな子が震えて泣く姿は、見るに堪えないくらいつらい。
「大丈夫だよ。ちゃんとパパ帰ってくるから。大丈夫…」
莉子の身体を優しくトントンする。しばらく鼻をすする音がしていたが、やがて静かになった。眠ったようだ。母親と離れ、不安で仕方ないだろうに。大きな声で泣いて母を呼ぶこともなく、じっと堪えている。そんな姿が、見ていて痛々しかった。
作品名:こころのこえ 探偵奇談13 作家名:ひなた眞白