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 被害妄想のようなものなのだろうが、それよりも、従順に自分に従わない人たちを憎らしく思っているのかも知れないと思うようになった。ただ、元は被害妄想、まわりに対しての不安から、自分中心でなければ嫌な性格が形成されていったとすれば、それは遺伝によるものというよりも、育ってきた環境によるものが強いであろう。
 だが、美沙の親を思い出すと、特に母親は、米軍キャンプで浮気をしていたのではないかと思うようになっていた。以前に美沙の親の話は聞いていた。
 それは父親に対してのわだかまりのようなものを相手が解消してくれるからであると今では思っているが、それよりも、自分に従順な相手を探していたのかも知れない。別れるに際してさほど揉めなかったのは、米軍兵士が母に対して従順ではあったが、従順な気持ちが好きだったという感情よりも強かったからである。母も彼を愛していたわけではなく、従順な彼に惹かれていただけだった。それが相手の男を殺さずに済んだ証拠ではないだろうか。
 朝子と身体を重ねた時に、美沙や家族のことが何となく分かってきたような気がした。血の繋がりのようなものが、朝子との間に結合し、美沙や美沙たちの親の気持ちも一緒に分かるような気がしたのだ。

                  ◇

 美沙がこの世にいないとすれば、その気持ちが分かる気がしたのは、敏夫と別れさせられたことよりも、子供と引き裂かれたことがショックだったに違いない。子供の父親は間違いなく敏夫だったと思いたい。しかし、美沙には自分が団地に住んでいたことを思い出していた。
 団地は、同じ棟の建物がいくつも並んでいて、特に当時としてはマンモス団地だったこの場所では、昼間でも迷ってしまうことだろう。
 美沙は、中学の頃に住んでいた団地で、うっかり間違えて他の人の部屋に入ってしまったことを思い出した。
 その時に入った部屋には一人の男性が住んでいて、酒浸りだったのだが、ちょうどその男は奥さんに逃げられて、一人すさんだ生活をしていた。
 美沙はその男がジロリと睨んだ顔が恐ろしく、何も言わずに踵を返して部屋から飛び出したのだが、その時の動悸は、美沙のトラウマになっていた。
 美沙が敏夫と知り合う前、それまで誰とも付き合ったことがなかったと言っていたが、それはどうでもいいと思いながら、何かトラウマのようなものは感じていた。それが何であるか分からなかったが、今では分かるような気がした。
 そういえば、敏夫には、誰にも言えない過去があった。女房に出て行かれ、一人で妻と住んでいたマンションにいた時のことである。離婚が完全に成立していなかったので、マンションを出るわけにもいかず、そのまま女房の面影のあるマンションで住むのは、少し違和感があった。
 そんな時、一人の女の子が飛び込んできた。
 彼女は、ただ部屋を間違えただけのようだったが、敏夫を見て、足が竦んでしまったのか、そこから動けなくなってしまった。
 女の子は、何とか愛想笑いを浮かべようとしていたようだが、引きつってしまい、実に歪な表情でしかなかった。
 まだ、高校生くらいだっただろうか? 救いを求めようという表情は、明らかに敏夫に恐怖心を抱いているのだが、それ以上に歪ではあったが、浮かべていた笑顔には、まるで懐かしい人に出会った時のような表情があった。
 それを敏夫は勘違いしたのだ。
 本当なら、懐かしい人に出会ったという表情をしていたのであれば、絶対に必要な表情が、彼女からは見られなかった。それは「安心感」を含んだ表情である。
 安心感はホッとした表情を含んでいる。ホッとした表情がなければ、安心感には繋がらないだろう。引きつった表情の中にであっても、ホッとした表情があれば、安心感を感じることができるし、ホッとした表情がなければ安心感などありえないのだ。
 敏夫は彼女にホッとした表情を感じることができなかった。それなのに、懐かしそうな表情だけで、安心感を抱いてくれていると思い込んでしまった。それが大きな間違いであった。
 彼女が訴えなかったことで、敏夫は罪に問われることはなかったが、相手は十八歳未満、事なきを得たということだろうか。
 彼女は寂しそうな表情をしていた。それが勘違いに拍車を掛けた。寂しそうな表情をしている女の子をいとおしいと思ったのは、自分が寂しいということを自覚していたからだ。自分の寂しさと人の寂しさを照らし合わせて、寂しそうにしている人を放っておけないという気持ちになったのも今から思えば無理のないことだったのかも知れない。ただの言い訳ではあるが、それが、誰にも言えない大きな汚点を作ってしまった。
 女の子は涙を流していたが、決して抵抗していたわけではない。涙の理由が敏夫には分からなかった。その時初めて会った相手の涙の理由など、分かるわけはない。
 ただ、敏夫はもらい泣きをしてしまった。
「どうして泣くの?」
 彼女は敏夫に聞いてきた。敏夫はハッとして、彼女を見つめる。
「今、あなたにここで泣かれたら、私の涙の意味が無になってしまうということが分からないの?」
 と、かなり叱責した言い方だった。
「すまない」
 と、敏夫は謝るしかなかったが、それは何に対しての謝罪なのか分からなかった。彼女の言葉に対して素直に謝っただけだが、理屈が分かっているわけではない。彼女はしばらく敏夫を見つめていたが、表情は次第に和らいでいく。
――この時の顔――
 真美を見て、初めて見る表情ではないような気がしていたが、この時の女の子の顔が真美に似ていた。もちろん、真美でないことは分かっている。もし、真美であるなら、今から十数年も前の話である。十歳ほど年齢に違いがあるからだ。
――十歳……。
 敏夫は、この時、十歳の違いを意識したことを後になって思い返していた。その思いは、節目となる歳月を敏夫に初めて植え付けた時のことで、それからしばらくは忘れていた。そのことを今思い出すのは本当に忘れていた証拠だろう。こんなインパクトの強いことを忘れてしまうなど、やはり、罪の呵責があったのか、それとも、歳月の違いに関係があることだったのだろうか。
 突然思い出したのは、真美が敏夫と身体を重ねた時である。
――もしかして、自分の娘だったら――
 という罪の意識が良心の呵責をくすぐったのだ。
 その時に、過去に犯してしまった過ちを思い出したとしても、それは無理のないことだ。いくら強引ではなかったとはいえ、まだ高校生の女の子を抱いたのである。しかも、いくら違うと自分に言い聞かせても、妻と別れるかも知れないという状況で、正常な精神状態だったのかということを、ハッキリと断言できない自分がいる。そんな敏夫は、自分がまたしても、自分の娘かも知れないという女性を抱いてしまったことに、罪悪感がないわけではない。
――どうして罪悪感が残ると分かっていることをしてしまうんだ?
 衝動的な行動ではないことは自分が一番よく分かっている。むしろ衝動的な行動であった方が、抑えが利いたかも知れない。それが利かなかったということは、何か目に見えない力が働いて、当時の高校生や、娘かも知れないと思う真美を抱いてしまったとしか思えないではないか。
作品名:年齢操作 作家名:森本晃次