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 という感情を抱く女性であるということを感じたことから、朝子に見つからないところに身を隠したに違いない。
 敏夫は、美沙とのことの精算という名目で、朝子の前から姿を消した。表向きは、敏夫と美沙の間だけの出来事なのだが、本当は朝子を巻き込んだ三角関係だったのだ。
 だが、敏夫には朝子が誰も殺すことができないことは分かっていた。しかし、殺さないことで、却って当事者に与えるプレッシャーというのは凄まじいものがある。
「好きになった人を殺してしまいたい」
 という思いを、どうして真美が持っているのかは分からないが、ひょっとすると、美沙にも同じ思いがあったのだろう。
 しかも、美沙にしても真美にしても、朝子とは違っていた。本当に殺してしまいたいという衝動なのだ。朝子はその思いを感情にして相手にぶつけることで、却って強烈なプレッシャーを与え、精神的に苦しめる。どちらが厳しいのか敏夫には想像もつかなかったが、やはり朝子と美沙は姉妹だった。
 敏夫は、真美を抱いたことを後悔はしていない。しかし、抱いてしまったことで、時間を引き戻された気がした。
 自分は二十歳代に戻り、抱いている相手は、美沙ではなく、朝子だった。
――俺が本当に好きだったのは、誰だったのだろう?
 今まで、朝子ではないことは確かだと思っていた。だが、美沙が一番だとしてしまうと、朝子の存在が自分の中から消えてしまうように思えたからだ。
――朝子の存在を絶対に消してはいけない――
 この思いは、自分の存在意義にすら関わってくることで、朝子のことを意識していなかったのは、下手に意識してしまうことで、朝子の存在を安易に消してしまいかねないと感じたからだった。
 真美が一体誰の子なのか、いろいろ考えてみた。
 朝子、美沙のどちらかであることは疑いないと思っている。それも本当は元々が突飛な発想から生まれたものであった。証拠のようなものは一切ない。
「好きになった人を殺したい」
 という発想だけで生まれた妄想だったのだ。
 だが、好きになった人を殺したくなるような発想は、そう簡単にあるはずもない。遺伝するものかどうかもハッキリしないが、確か美沙の母親にも同じ発想があったと、美沙から聞かされたことがあった、
 それなのに、美沙は自分にもそんな発想があることは一切明かしていなかった。今敏夫は恐ろしい発想を巡らせている。
――好きな人を殺せなかったかわりに、自らを殺してしまった?
 自己愛というものが、美沙にあったことは付き合っている時に感じたことがあった。それが自己顕示欲のようなものだったことで、自己愛に直接つながっていることにどうして気付かなかったのかと思ったが、美沙は、自己顕示欲を隠そうとはしなかった。隠そうとしなかったことを、直接素直に信じてしまう敏夫は、美沙に対して、余計な疑いを向けることはなかった。
――俺が美沙を好きだった理由は、素直なところにあったのかも知れない――
 他の人から見れば、
「彼女は変わり者だ」
 と思っているかも知れない。
 だが、敏夫は美沙が変わり者であることを素直に受け止め、そのおかげで、変わり者とまわりが言っていることをまったく信じることはなかったのである。
――素直な人ほど、まわりから誤解を受けるものなのかも知れない――
 と、敏夫は思うようになっていた。それが、美沙の特徴であり、一番気になっているところであり、一番好きなところだったのだ。
 朝子に対して、持っていた、
――危険な香り――
 美沙に対しては従順だと思えるのに、朝子に対しては、どうしても、その裏を見てしまう。
――この二人は本当に実の姉妹なんだろうか?
 と、感じたことがあった。
 従順で素直な美沙に対し、危険で疑いたくなる朝子、それぞれに極端であるが、姉妹だと言われて、学生時代の敏夫はまったく疑う余地はなかった。従順な美沙に対してはもちろんのこと、朝子は、自分に似ているところはあることで、身体の相性も美沙より、朝子の方にあった。
 それなのに、敏夫は美沙との結婚を決意した。
「俺たちはあまりにも似ているところが多いんじゃないか?」
 敏夫が朝子よりも美沙を選んだことに対して、朝子に対しての言葉だった。誰が聞いても言い訳にしか聞こえない気がしたが、敏夫は真面目だった。
 最初、この言葉を口にした時、敏夫は自分が言い訳をしているのではないかという自己嫌悪に襲われていた。しかし、話しているうちに、言葉の信憑性に気付くようになり、言い訳ではなく、説得になっていることに気が付いた。
 言い訳であれば、相手に分からせるなど、おこがましい。自分がどれほど情けないことをしているのか、すぐに分かるというものだが、説得であれば、相手に気持ちが伝わりさえすれば、
「ええ、分かったわ」
 と、朝子なら納得してくれると思ったのだ。
 しかし、これは都合のいい解釈だ。もし、朝子が分かってくれたとしても、敏夫にとって後ろめたさが消えないだろう。
――俺は一生、この後ろめたさと一緒にいなければいけないんだ――
 それが、朝子ではなく、美沙を選んだ結論だった。
 だが、最悪の展開が待っていた。
 美沙を選んだはずなのに、美沙とも結局別れさせられることになった。確かに朝子との間で美沙を選んだのは、子供ができたこと以前の問題だったはずだが、美沙も自分についてきてくれようとはしなかった。
 今から思えば、それは朝子という姉に対しての遠慮も、十分に含まれていたのかも知れない。
「敏夫は姉を裏切る形で私を選んでくれたんだ」
 本当は嬉しいはずなのに、どうしてなのか、
 しかも自分のお腹の中には敏夫の子供がいる。本当であれば、第一に子供のことを考えて、敏夫と一緒になるのが一番いいはずだ。
――いや、一緒にならなければいけないに違いない――
 そう思ったはずの美沙は、次に考えたのが、子供を一人で育てることだったのだ。
 それは、自分が素直で従順な女性であるということだけではなく、もう一つ、敏夫はその時知らなかったが、
――好きになった人を殺してしまいたくなる性格――
 が、敏夫に向いてしまうことを考えてのことだろう。
 親が敏夫と美沙を引き離したのは、親自身が、好きになった人を殺してしまいたくなる性格であり、そんな苦しみを娘に味あわせたくなかったからに違いない。ただ、その時の親はそんな意識もなく暮らしていたということは、人を殺してしまいたい性格は、一過性のもので、時期を過ぎればなくなるのではないかと思えた
 そう、まるで思春期のニキビのようなものなのかも知れない。
 その特徴があったのは、やはり母親だったのだろう。だが、そのことを考えていると、少しずつ気持ちが分かってきたのだ。
 すると、さらなる突飛な発想が思い浮かんだ。
――どうして、俺はこんなにあの家庭のことが分かるんだ? 俺も誰かを殺したいという性格が潜んでいるということなのか?
 今になって思えば、人を殺したいと思うよりも、まわりに対しての反発は絶えず抱いているように思う。まわりの人の考えが焦れったく思えてきたり、自分を蔑んでいるような思いを抱くことがある。
作品名:年齢操作 作家名:森本晃次