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 美沙を思い出している敏夫は、真美の中に快感を放出しようとして、すぐに堂々巡りを繰り返してしまう。これも美沙の力によるものなのかも知れないと思うと、背筋にゾッとしたものを感じるのだった……。

                   ◇

 真美の母親が美沙であるというイメージは突然湧いたものではない。真美と一緒にいることがこの上ない時間ではあったが、それは至福の悦びという気持ちの裏に、不安が募ってくる時間であることは、最初から分かっていた気がする。
 その不安がどこからやってくるのか、最初は分からなかった。不安というものは、募ってくるものだが、最初から意識しているとしていないでは雲泥の差である。
 意識はしていなかったが、真美に対して他の女性を好きになった時のように、手放しに喜びだけを感じられるわけではないことは分かっていた気がした。それがどこから来るのか分かるとすれば、そこに多少なりとも不安が見えてくるのは分かっていた。
 人を好きになって不安に思うということは、
――相手に誰か決まった人がいるのではないか?
 という思いか、
――俺が好きになってはいけない相手ではないか――
 という思いがよぎった時である。
 後者は、相手から嫌われるかも知れないという思いも含んでいる。自分が好きになっても、相手が自分のことを嫌いであっても好きになってはいけないわけではないが、敏夫の場合は、その思いも含んで考えてしまう。
 前者の主導権は、相手にあり、後者の主導権は、こっちにあると思っている。そういう意味では、
――相手が嫌いであっても、好きにさせればそれでいいんだ――
 という思いも頭を巡る。
 ただ、後者の感覚は幅があまりにも広い。一歩間違えると、堂々巡りを繰り返してしまうことになる。
 敏夫は、真美の母親が美沙であると思うと、父親は自分ではないかと咄嗟に考えた。だが、敏夫には真美が自分の娘ではないという確信のようなものがあった。もちろん、絶対的な確信ではないが、自分の娘であれば、絶対に違うという感覚が存在していることを感じていた。言葉にするには難しいが、それが時間の観念であるという意識があるのだった。
――俺にあって、真美にはない。これがあるから、真美は俺の娘ではないんだ――
 と、感じる。
 敏夫は時間の感覚に関しては、ある程度親からの遺伝のようなものを感じていた。それは、物理的にありえない感覚であった。
――平行線は絶対に交わらないんだ――
 敏夫の中にある平行線という感覚、それは、時間を巻き込むことによって、堂々巡りを感じさせる気持ちに値するのだった。
 敏夫は、美沙に会いたいという気持ちが強くなった。真美に聞いても多分知らないだろう。
――美沙の存在も知らないに違いない――
 育ての親に育てられ、生みの親と称する女性と一緒にいるが、真美はその人を本当の母親だとは思っていないようだ。
 そこまでして、本当の親を隠すのは、
――もう美沙はこの世にいないからではないだろうか?
 という思いが頭の中にあった。その思いはどんどん大きくなってくるのだが、それでも敏夫は、美沙に会いたいと思うのだった。
 会うとすれば、夢の中でしかないだろう。
 ただ、夢の中に出てくる美沙は、きっと本当の美沙ではないはずだった。
 夢は潜在意識が見せるもの。しょせん、見ている人間に都合よく見ているだけなのだ。
 怖い夢にしてもそうだ。確かに怖い夢を見たいと思ってみる人はいないだろう。それなのに見てしまうのは、その人の潜在意識とは別に、確かめなければいけないことがあって、その思いが夢となって見せるに違いない。ただ、ゆっくり考えてみれば、潜在意識が自分に都合のいいことだけを感じさせるものではないとすれば、やはり、怖い夢も潜在意識に属するものに違いない。
 真美を見ていると、自分の父親のことを知っているような気がした。知っていて、誰にも知っているという気持ちを言おうとはしない。きっと育ての親にも、生みの親と称する女性にも同じであろう。せっかく真美がショックを受けないように、真美の育ての親として存在している女性がいるのだ。敏夫はその女性が誰なのか、イメージとして分かっていた。
 美沙には、一人姉がいた。
 名前を朝子といったが、朝子は美沙のことで、よく敏夫に相談していた。
 本当は、美沙よりも朝子の方が、敏夫の考え方に近かった。従順な美沙とは違い、どこか危険なところがある女性で、すぐに、人を信じ込んでしまっては裏切られ、裏切った相手を殺したいという衝動に駆られる方だったのだ。
 真美の、すぐに誰かを殺したくなる性格を感じた時、朝子のことを思い出し、さらに敏夫自分のことを顧みた。敏夫もすぐに誰かを殺したいと思うところがあり、自分でも危険だと思っていた。
 そして朝子の性格の中に、時間に対して、独特な考え方を持っていた。
「時間って、進んだ分だけ、元に戻ろうとする一面を持っている気がするんです。私は時々堂々巡りを繰り返していることを感じるんですけど、そんな時、時間が戻ろうとしているんじゃないかって思うんですよ」
 と言っていた。
「確かにそうかも知れないね。でも、時間って戻れるのかい?」
「いいえ、決して戻ることはできないんですよ。だから考えだけが堂々巡りを繰り返してしまう。気が付いたら、時間だけが過ぎていることがあるんですけど、それが堂々巡りがあったことを無意識に思い出そうとしているんじゃないんですかね」
 という。
 その話も、敏夫には痛いほど感じる感覚だった。
「時間を戻すことができない代わりに、ゆっくり動いている時間が元に戻ろうとする搬送のようなものを僕は感じることがある。それは、朝子さんが感じているものと少し違っているのかも知れないけど、同じものだと思いたいんだ」
 この話をした時、まだ敏夫は美沙と身体の関係を結んでいなかった。美沙を好きだという気持ちに変わりはないのだが、この時の朝子は、その後美沙とどんなに愛し合った時よりも、絆としては激しかったかも知れない。
――取り返しのつかない時間があって、その時間さえなければ、もっと違った人生が人がっていたとしても、俺はこの時間だけは、絶対に繰り返したくはない――
 それは、唯一であればこそ輝いている時間であり、やり直すに値しない時間である。ひょっとすると、自分にとって今までの中で一番、そして今後これからも、無に一つの時間であったと胸を張れる時間であると思っている。
 今まで、朝子のことを思い出さなかったのは、無に一つの時間を朝子に感じたからだった。敏夫にとって、そして朝子にとってお互いに最大の時間であったことを信じて疑わない。だから、思い出すことは、本当に人生を振り返る唯一の時だと思っていた。
 朝子であれば、真美の生みの親として存在することもありえるだろう。
「私は、一生結婚しないと思うの」
 それは、敏夫が美沙を好きになり、朝子を裏切る形になったことが現実になったからだ。
 美沙は朝子にこれ以上ないというほどの罪悪感を感じていたことだろう。そして、朝子がすぐに、
――殺してやりたい――
作品名:年齢操作 作家名:森本晃次