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 感極まった瞬間、今際の際で真美はつぶやく、快感にも控えめな真美は、高ぶってくる快感を爆発させることなく、自分の中で吟味しているようだ。その時の顔を見るだけで、敏夫はたまらなくなってしまう。大人げなく、快感に声を立ててしまう自分に羞恥を感じるが、自分の声に少なからず快感を覚えている真美を可愛く思えることで、羞恥を甘んじて感じるのも、悪くないと思うようになっていた。
 男と女の快楽の中で、娘を思うのはいけないことなのかも知れないが、「禁断」という言葉に、敏夫は快楽を密かに爆発させていた。自分の性癖の真の意味を思い知った気がしてきたのだ。
「お前はおかしな性癖を持っているからな」
 と、オンナと身体を重ねる時にどこからともなく響いてくる声があったが、その時には何も聞こえなかった。
 元女房を抱いている時にも響いていた声である。次第に気にはならなくなっていったが、最初の頃は、その声のせいで萎えてしまう自分に自己嫌悪を感じてしまっていたくらいだった。
「敏夫さんって、意外と度胸がないのね」
 学生時代にそんなことを言われたこともあった。最初はショックだったが、次第に気にもならなくなった。
「誰だって人に言えない部分を持っているものさ。それが性癖というだけで、別に恥かしがる必要はない。今までにずっと羞恥を感じてきたのだから、もうそろそろ自分を解放してやってもいいんじゃないか」
 と、自分に言い聞かせていたのだ。
 真美の綺麗なストレートの黒髪が、透き通るようなきめ細かな肌に触れて、綺麗に光り輝いているようだ。それが汗なのか、それとも快感によるしずくなのか判断できないが、甘い空気の中で敏夫は、これ以上ない至福の時間に身を投じることで、
――もう、どうなってもいい――
 というくらいに思えてきた。そして無意識に真美の幸せとは何かということを考え始めている自分をいじらしく思うのだった。
 真美と一緒にいると、美沙のことが完全に頭から離れている、
 今まで結婚している時でさえ、頭のどこかに美沙がいて、美沙のことを思い出さない瞬間がないと思うほどであったにも関わらず、最近まで美沙のことを少し忘れかけていた。
 忘れ始めたのは、離婚してからのことだった。
 離婚の時には、しかたがないと思いながらも、なるべく離婚しないで済むように考えていた自分が我に返った時、敏夫は美沙のことも忘れてしまったようだ。
 自分が生まれ変わったわけでもないのに、今までずっと意識を持っていたはずのことを忘れてしまうのはどういうことかと思い悩んでいた。生まれ変わりの人生を敏夫は望んでいるわけではない。確かに節目では、
「もう一度人生をやり直したい」
 と思ったこともあったが、すぐに一蹴した。
――やり直すって、どこからだよ――
 当てもないのに、勝手な妄想は、思ったことにはならないと思うようになっていた。
「それでは妄想は思ったことにならないのだろうか?」
 と聞かれれば、
「思ったことにはならないのさ。思うということは、自分の意志で感じることであって、他力ではいけないのさ。もっとも他力から自力になった場合には、思ったことにしてもいいと思うけどな」
 と答えることだろう。
 美沙のことを思い出すようになったのは、真美と出会ってからだった。
――真美は美沙に関係のある女性なのかも知れない――
 と感じたほど、ドンピシャのタイミングで美沙を思い出したのだ。
 美沙のことを思い出した時に、美沙の何を思い出したかが問題だった。
 最初に思い出したのは、楽しかった時のことではなく、まわりから引き裂かれ、それでも真美は一人でも自分についてきてくれると思っていたのに、ついてくるどころか、離れて行ったことを、裏切られたと感じた、まさにその時のことを思い出さされたのだ。
――どうして、そんなことを?
 楽しい思い出を思い出せばよかったというのだろうか?
 確かに今まで燻っていた美沙の思い出は、楽しい思い出が多かった。楽しい思い出でなければ、覚えていたくないという思いもあったからだが、なるべく最後の後味の悪い思い出を消し去ってしまいたいという気持ちがあったことから、美沙との楽しかった思い出をずっと持ち続けていなければ、後味の悪さは永遠に消えない。裏を返せば、後味の悪さが発生した時点で、真美との楽しい思い出を、ずっと引きずっていかなければいけなくなったのだ。
 だが、真美と知り合うまでは、完全に忘れていた。忘れることができたということなのかと思ったが、真美と知り合った時に思い出した後味の悪さ、それは、美沙のことを忘れてしまったことへの報復のようなものとなってしまったことに、敏夫は後悔の念を抱かずにはいられなかった。
 敏夫にとって、美沙はただの過去の女というだけではなく、自分の人生に今でも関わっていることを示していた。
 敏夫はそう思った時、ゾクッとする胸騒ぎを感じた。
 それはきっと敏夫でなければ感じることのできないものであったに違いない。
 美沙のことを忘れてしまったのは、美沙の影響が敏夫に届かなかったことを示すのではないだろうか。それなのに、真美が現れたことで、今度は、さらに倍増した思いが敏夫に襲い掛かった。それはまるで空白の時間を補って余りあるだけの勢いのもので、敏夫に対し、
「これでもか」
 と言わんばかりのものである。
 さらに、今度の美沙の気持ちには、普遍性すら感じられる。当たり前のごとく敏夫のそばにいて、絶対に離れることのないもの。そこに平行線が敷かれているが、その平行線は。限りなく交わりに近いものである。敏夫自身には、交わっているかのような感覚であろうが、美沙にとっては、絶対に超えることのできない平行線の意義を、嫌というほど思い知っている感覚である。
 そこまで考えてくると、敏夫には、嫌な予感の正体が何であるか、分かってきた。
「美沙のことを、このままずっと死ぬまで思い続けなければならない。それは真美と一緒にいる時でもそうなんだ。しかも相手が真美であれば、美沙は許してくれる。美沙はそういう女だ。たとえ禁断であったとしても、それが修羅に繋がるとしても、今までの自分の気苦労に比べれば、幾分かマシなはずだと思っているかも知れない」
 敏夫は、美沙のことをそう思い続けていた。
 問題は、真美がどこまでその思いを感じているかである。
 敏夫は真美を抱きながら、その向こうに美沙を見ていた。美沙が二人を見つめているその表情は無表情だが、嫉妬を感じているわけではない。むしろ、自分も快感を貪っているかのように見えているようだ。
 真美は、美沙のことなど知る由のないはずだが、それだけに、敏夫が自分を抱いている時に、自分の向こうに誰か他の女性を見ていることに気付いているはずだ。それなのに、真美は別に嫌な顔一つしない。嫉妬どころか、快感に貪る身体は、従順さ以外の何者でもない。
――美沙は、すでにこの世の人ではないんだ――
 それを感じた時の敏夫の表情は、何とも言えない苦虫を噛み潰したような顔になっているかも知れない。
作品名:年齢操作 作家名:森本晃次