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 実際に異性に対して意識し始めるのは中学に入ってからなので、かなり後である。本人に意識のないまま気になる女の子と一緒にいるだけで楽しいという気持ちになっていたのは、いわゆる初恋だったからだ。
「初恋は淡く切ない思い出」
 という人がいるが、敏夫にとっては、少し違った感覚だった。
 そばにいるだけで、くすぐったくなるような感覚というのが一番近い表現になるのかも知れない。
 好きだという感覚よりも、その女の子に対しては、自分が絶対優位でありたいという気持ちの方が強い。優位な相手に憧れのようなものを、女の子は持つものだという思い込みが、小学生時代の敏夫にはあったのだ。
――自分が相手を従わせたいという気持ち、そして、相手の女の子が絶対服従に何ら疑問を抱かない関係――
 敏夫は小学生の時に、すでに味わっていた。
 敏夫にとっての初恋が、まさにそれであったとすれば、淡く切ない思い出などではなく、自分の性癖に結びつく、
――性格の原点――
 と言えるのではないだろうか。
 そんな性癖が幼い相手であったり、従順な相手を自分の好みと思い込む。性癖が持って生まれたものだけでなく、初恋のように成長過程において結びつくものであることを、無意識に敏夫が知っていたのは、自分が経験者だったからだ。
 敏夫は最初、真美を見た時、一目で気になってしまった。まるで娘のようだという感覚だけではなく、自分の中にくすぐったい思いがよぎったからだ。その思いは今に始まったことではなく、以前からあったものだった。自分の短所とも言える性癖のせいだと思っていたが、それだけではなく、初恋のイメージを彷彿させるものだったのだ。
 さらに付き合っていくうちに、真美が男性に従順であることを知ると、
――もう、これは運命のようなものだ――
 と感じずにはいられなかった。
 ただ、そこに思いが嵩じて、まさか好きな人を殺したくなる性格であるとは思いもしなかったのだが、真美本人は、その思いを克服できたのに、殺されかけた敏夫の方が、大きなショックを残してしまい、真美といかに付き合っていけばいいのか、そして、これからの自分はどうすればいいのかというところまで、考えなければいけない気がして仕方がなかったのだ。
 真美は、今自分のまわりの人間を信じられなくなっていた。育ての親には感謝こそすれ、何ら恨みなどないはずなのに、どこか信用できないところがあった。
 やはり、小さい頃に子供の気持ちとして、
「真美の本当のお父さんと、お母さんは?」
 と、聞いても、決して教えてくれなかったことに不信感を抱いていた。子供の真美に対して、自分たちが本当の親ではなく、育ての親であることを、ある程度早い段階から教えられていたのに、それ以上のことは教えてくれない。
 今から思えば、その時の真美にとって、その状況が一番よかったのだと理解できるが、子供ではいかんせん理解などできる問題ではなかった。何を言ってもどこかに疑念が残り、絶対に話してもらえないことは多々あったはずだ。そういう意味ではその時の育ての親の態度は、一番話してもらえないことが少ない状態だったに違いない。
 話してもらえた中でも、今でも疑念に思っていることがある。それは、後から現れた実の母親だと名乗る女性のことだった。
 真美が中学生になってから、一人の女性が真美の実の母親だと言って名乗りを上げた。育ての親といろいろな話をしていたようだが、真美はそれを、真美のことを考えて、どうすれば一番まわりがうまくいくかという善後策を協議していたのだと思っていたが、本当にそうだったのだろうか?
 今から思えば、実の母親と名乗る女性の態度は不自然なところが多い。確かに育ての親に任せきりで、いきなり現れて、
「私があなたの実の母親です」
 と、言われても、
「はい、そうですか」
 と、簡単に承諾できるものであろうか。
 そして、長年一緒に暮らしていなかった実の母親との初めて一緒に暮らすという事実。十年間も放っておかれたと感じるかも知れない娘に、どのように接していいか分からないというのも無理のないことかも知れない。
 それを差し引いても、実の母親と名乗る人の態度は変だった。
 それでも、女性として見ると、本当に優しい人だ。少なうとも、真美とまったく関係のない人だと言うわけでもなさそうだ。
――せっかく一緒にいてくれるのだから、騙されてみるのも悪いことではない――
 と、真美は感じていた。
 騙されるという表現は人聞きが悪いが、生みの親だと思ってあげるのは悪いことではないと思っていた。疑念を残しながら付き合っていけば、それなりに家族になれるかも知れないという思いが真美の中にあり、実際に家族同然に暮らしてきて、違和感はあまり感じていなかったのだ。
 そんな真美を、まるで娘のように思ってくれる敏夫を好きになったとしても、おかしなことではない。生みの母親と名乗る女性を、それほど違和感なく受け入れた真美なので、敏夫の気持ちはさらに受け入れやすかった。ただ、その中に父親としての思いとは別に、男性として好きになってきていることに気付くと、恥かしい思いを感じる真美だった。
 父親を知らない真美なので、父親のイメージを持った男性に、男を感じても別に不思議ではない。ずっと父親と一緒に暮らしていた人であれば、父親と好きになる男性とを切り離して考えるのは当然であろう。しかし、真美にはそんなことはありえない。父親と好きになった男性を平行線で考えることはできなかった。逆に一緒であってくれれば、両方ほしいものを手に入れられることで、嬉しいと感じるのだった。
 敏夫が真美にとって、その理想に一番近い男性であった。知り合えたことを運命のように思う真美にとって、敏夫も同じ気持ちであった。
 敏夫にも元女房との間に子供はいなかった。当然娘を知らない。娘のような感覚で、好きな女性を想像できれば、こんなに嬉しいことはないと思っていた。そういう意味では真美と敏夫は、お互いに理想の相手に巡り合えた「相思相愛の仲」と言えるのではないだろうか。
 真美と敏夫の関係は、密かな関係だった。お互いに別に誰に憚る必要もないと思っていたのだが、どこかまわりに対してはよそよそしい。ただ、そんな関係を嫌だとは二人とも思っていなかった。
「スリルがあって、結構楽しいものね」
 と、真美が言っていたが、敏夫もニッコリと笑って頷いた。
 真美のようにスリルという気持ちにはなれないが、敏夫にとっては、今までに感じたことのないほどの新鮮な気持ちを味わっていた。ある意味では、敏夫にとって新鮮な気持ちはスリルの裏返しであり、真美にとってスリルは、新鮮な気持ちの裏返しなのかも知れない。ひょっとすると、一歩間違うと二人の考え方はそこで一致してしまうかも知れない。敏夫はもしそこで一致してしまったら、その瞬間に、自分は真美への今の気持ちを一瞬にして失ってしまうような恐怖を感じていたのだ。
作品名:年齢操作 作家名:森本晃次