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 真美は父親がこの世にいないかも知れないという意識を半分は信じていたが、半分は疑っていた。
 なぜなら、敏夫が本当の父親であってほしいという風に思い始めたからだ。今までの真美なら、
「本当のお父さんなんていらない。好きな人がいればいい。そしてその人がこれからの私のお父さんになってくれればそれでいいのよ」
 と自分に言い聞かせていた。
 その思いは自分から逃げていることにならないだろうかという思いが頭に浮かんだからなのだが、逃げているというよりも、本当の父親を知らずにこのまま生きていく自分を客観的に見ると、可哀そうに感じたのだった。
――本当に可哀そうなのは、一体誰なのかしら?
 と、自分を客観的に見ていると、自分だけが本当に可哀そうなだけなのか、疑問に感じてくる真美だった。
 真美にとってのもう一つの事実、母親に対しての事実は、次の章で、敏夫が明らかにするのだが、そんなことを知る由もない真美だった……。

                   ◇

 真美は、結局敏夫を殺すことはできなかったが、敏夫を殺そうとしたことがあった。真美の中ではすでに解決済みの感覚だったのだが、敏夫の中では、解決しているわけではない。
――どうして、真美は俺を殺そうとしたのだろう?
 敏夫は真美を愛し始めていた。敏夫の性癖と、自分の気持ちが抑えられない状態に来たことで、愛しているのだと思うようになった。
 愛とは一体どういうことなのか?
 妻と離婚したことで、女に対して感じ始めた疑問を解決してくれる人がいれば、その人は愛するに値するのだと思っていたが、まだ二十歳そこそこの真美に、疑問を解決できるほどの力があるとは思えない。
 力が、すべて年齢に関係があるわけではないし、愛するというのは、ある程度の年齢を超えてからは、誰もが平等に持つことができ、若さはエネルギーとして愛情に深く関わっているのだと思っている。経験を補って余りあるエネルギーを、真美は持っているのではないかと敏夫は見ていたのだ。
 真美が敏夫を殺そうとしたことは、真美の中では、すでに過去のことになっていた。それは、敏夫を殺そうとして、殺せなかったことで、最初は自分に対しての苛立ちと自己嫌悪で鬱状態に陥った。敏夫とも距離を置いて、一人で悩んだ。鬱状態を何度となく乗り越えてきた真美は、今回も鬱状態を抜けることで、敏夫を殺そうとして殺せなかったことを、よかったとして、自分の中で解決したのだ。
 真美が鬱状態の間、敏夫が関わってこなかったことがよかったのかも知れない。ただ、それは真美にとってよかっただけで、敏夫は何が起こったのか分からないまま、愛し始めた相手が自分を殺そうとしたことのショックを、ずっと引きずっていた。何よりも訳が分からないことが、ショックを長引かせたのだ。
 真美も自分の中で訳が分からないと思っていたのだが、相手を気にしなければ、自分の中で解決できる術を持っていたのだ。鬱状態に陥ったり、まわりとの接点を完全になくしてしまって自分の世界に入り込むことで解決できるのだが、当事者である敏夫は置き去りにされた格好だった。
 勝手に殺されかけて、勝手に解決されたのでは、敏夫とすればたまったものではない。どうして自分を殺そうとしたのか分からないことでは、これから先、真美とどう接して行っていいのか分からない。
 そもそも、このまま真美と一緒にいていいのだろうか?
 自分を殺そうとした危険な相手をさらにこれから愛していけるなど、ありえるだろうか?
 敏夫は、真美が自分に対して恋愛感情を抱いてくれているということは、最初から感じていた。その中に父親のイメージが湧いてきているのも分かっていた。自分には子供がいないので、
――もしいたら、この娘のようだ――
 と思っていた。
 恋愛感情と、親子の愛情、どちらも同居できるものなのか、相手が真美だからできるというのだろうか? 敏夫は自分の中に潜んでいるもう一人の自分なら、真美に問いかけることができる気がしていた。
 真美が苦しんでいるのを敏夫は声も掛けられずに見ていた。付き合い始めから、躁鬱症の気があることは何となく分かっていたが、鬱状態に陥った真美を初めて見たが、近寄れる雰囲気ではなかった。
 ただ、近寄ることはできないが、見守ってあげることはできたはずなのに、まさか自分を殺そうとするなんて、何がどうなったというのだろう。
 真美のその時の形相は凄まじかった。引きつった表情からは、涙が溢れていて、明らかに泣いている。敏夫は真美の顔をまともに見ることができなかった。
――あの時、しっかりと向き合ってあげていれば、真美は俺を殺そうとするのをもっと早く思いとどまったかも知れない――
 そう思うと、敏夫自身も、ここまで真美を恐ろしいと思わなかったに違いない。
 あれだけ恐ろしいと思っていた真美なのに、真美の鬱状態が抜けると、今までのように真美への愛情が戻ってきたような気がしてくるのは、自分でも不思議だった。それでもショックを払拭することはできず、真美から見ると、近寄りがたい雰囲気になっているに違いない。
 気まずい雰囲気を最初に打破したのは真美だった。男と女の違いからなのか、若さによる違いなのか、それとも、元々の二人の性格の違いなのか、それぞれが入り食ってしまった環境に、敏夫が順応できなかったのかも知れない。順応できないという意味で、敏夫が堂々巡りを繰り返していることを、真美には分かっていた。
 敏夫は、自分のショックがなかなか抜けないのは、真美から殺されかけたことだけが気になっているからだと思っていたが、実はそうではない。途中で真美は敏夫を殺すことをやめた。それは、殺人ということに対しての罪悪感や、我に返ったことでの呵責からだと思っていたが、そうではないのだ。
 本当は真美は殺したくて仕方がないのを抑えているだけだったのだ。そこには罪悪感も我に返った感覚もない。敏夫には分かりかねる感覚だった。
――彼女には、本当に人間の血が通っているのな?
 と思うほどで、真美の中での葛藤が、何によるものなのか分からないところがショックだったのだ。
 そのくせ、敏夫は真美を諦めきれない。ここまでされていても、好きな気持ちに変わりはないという自分の本心を分かりかねているところにも、自分に対してのショックがあるのだった。
 最初に真美と会った時に感じた、
――初めて会ったような気がしない――
 という思いを、今さらのように思い出していた。
 その思いが、今またよみがえってきたのだ。諦めきれないという思いの元はそこにあり、真美がどうして苦しんでいるのか、分かったような気がした。
 敏夫にも、子供の頃の記憶の中に、
――可愛さ余って憎さ百倍――
 という思いが強く根付いていたのを思い出した。
 ガキ大将というところまでは行かないが、ワンパク坊主だったことは認めよう。そんな敏夫にも好きな女の子がいた。
 彼女は、いつも引っ込み思案で、自分を表に出そうとしなかった。そんな女の子を好きになったのだが、その時はまだ異性に対しての気持ちにはなっていなかった。
作品名:年齢操作 作家名:森本晃次