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 どうして人を殺したいと思ったのか分からなかったが、どうやら、家族関係の歪みが大きかったようだ。真美も父親がいないことで、彼女の気持ちを分からなくもない。彼女も父親のいない真美なら、気持ちを分かってくれると思ったのだろう。その気持ちが分かるまで、真美は少し自分の考えを変える必要があったようだ。
 話を聞いていると、人を憎む気持ちと、殺したいという気持ちが違っていることに気が付いた。
「殺したいほど、憎らしい」
 とはいうが、
「憎らしいほど、殺したい」
 というわけではない。いくら憎らしいとはいえ、殺したいとまで思うわけではないからだ。
 確かに殺したいという気持ちになるのは、憎らしいからに決まっているのだろうが、話を聞いているうちに、憎らしいから殺したいという気持ちになっているわけではない。むしろ、相手のことを好きだから殺したいという気持ちになるのだという。
「どうして、憎くもない相手を殺したいの?」
「最初は独占したいからだと思っていたんだけど、そうじゃないの。殺したからと言って独占できるとは思っていないの。確かに最初は、独占したいからだと思っていたわ。でもそれが違うと分かった時、私がどうしてその人を殺したいか、分かった気がしたの」
「どういうことなの?」
「それは、自分の中に従順な自分がいるからなのよ。誰に対しても従順なのに、彼に対しては特別だと思っている。でも、結局は従順のレベルが違うわけではないのよね。だから、そんな自分が嫌になった。その時、彼を殺したいと思ってしまったのかも知れないわ」
 その時は、友達の言葉の意味が分からなかった。でも、今は分かる気がする。従順だということには気付いていたけれど、彼に対してのものと、他の人に対しての従順な気持ちが同じであるなど、想像もつかなかった。もし、その話を聞いていなければ、
――彼を殺してしまいたい――
 という気持ちにはならなかったかも知れない。
 もし、なっていたとしても、理由を知るすべもなかっただろう。それほど発想は突飛なものなのだ。
――私がこんな想像をしているなど、敏夫さんは気付いているはずはない――
 と真美は思っていた。
 きっと従順な女の子に好かれて、気分は有頂天になっているに違いないと思っていることだろう。
 さすがに本当に殺すことはできないにしても、この気持ちは何だろう? このまま中途半端な気持ちでいると、自分が苦しいだけだった。
――それならば、夢の中で殺すくらいの気持ちになれば、少しは気が楽になるかも知れない――
 と思ってみたが、どうしても、殺せない自分がいる。
――何か、あの人は特別なんだわ――
 殺したいと思ったのも特別。けれども、どうしても殺せないと思ったのも特別。それぞれの特別は同じ意味での特別なのか、それとも違っているのかを考えてみたが、おもいつくところは、最終的に同じ場所だとしか思えなかった。
 真美は、敏夫に対して恋愛感情が強いと思っていたが、実際には父親を慕うような気持ちになっていることに、その時気が付いた。
――お父さんなんて、いらないんだ――
 という気持ちは、反動として自分が好きになる人は、年上が多く、どうしても父親を感じさせる男性であることは分かっていても、それが父親に対しての気持ちだとは思わなかった。
――あの人の私を見る目、あれは娘を見る目だわ――
 そんな目に、初めて出会ったような気がする。甘え下手の真美が、敏夫にだけは甘えられるような気がしていた。好きだという感情も男性として好きだというよりも、父親として慕いたい気持ちが強い。余計に殺したいと思ったのは、自分を一人ぼっちだという気持ちにさせた父親に対しての思いがあったからに違いない。もちろん、そんなことを他の人に言えるはずもない。母親に対しては言えない。
 真美の場合、複雑な家庭環境である。育ててくれた親は、今の母親ではない。今の母親は生みの親なのだと思っている。生まれた時は育てられる精神状態ではなかったということで、養子に出されたが、真美が小学生の頃に、母親に戻されたと聞いた。その時に少しひと悶着あったようだが、子供の真美に分かるはずはない。ただ、金銭的なことだということなので、生々しい修羅場があったのかも知れない。
 子供心に、理不尽さを感じていたのだろう。それまで親だと思っていた人が嫌になり、まったく知らない人を親だと思わなければいけない環境に追いやられたこと、殺したいと思うのも無理もないことだ。
――好きな人を殺したい――
 と思うようになったのは、きっとその影響が強いからなのだろう。
 母親を可愛そうだとは思わない。どんな理由があるにせよ。自分のそばにいてくれなかったことは、許せないに値すると思っていた。
――本当はお母さんも殺してやりたいと思うはずなのに、どうして、お母さんには殺したいという気持ちが湧かないのかしら?
 本当に好きな人ではないからなのかも知れない。そう思うことから、真美が殺したいと思う相手は、自分が好きになった相手だけなのだと思うようになった。実際に本当に好きになった相手しか殺したいとは思わない。
――私は一体、どうなってしまったんだろう?
 と、最初はキチンとした道を歩いていたはずなのに、どこかで道を間違えて、足を踏み外したような感覚になってしまった。きっとその分岐点がどこかにあるはずである。
――人は、人生の中で何度か分岐点にぶち当たるというが、皆同じ数だけの分岐点が存在しているのだろうか?
 真美はそうは思わない。少なくとも自分の分岐点は人よりも多いと思っている。
――不幸の数だけ分岐点があるんだ――
 そう思うと、圧倒的に人よりも多い気がした。
 だが、逆も感じている。感覚がマヒしていることで、意外と少ないのかも知れないと思う。気付かないだけで、本当は多いという考えもできるだろう。
 真美は、最近、
――自分の父親は、もうこの世にいないのではないか?
 と思うようになった。
 理由は、以前のように誰かを殺したいという意識が薄れていく気がしているからだった。ただ、感覚に慣れてきただけなのかも知れないとも感じていたが、感覚に慣れただけなら、薄れてきた意識の中で、突然、殺したいという気持ちが沸騰しかけることがあるような気がしたからだ。殺したい気持ちが薄れてくる一方なのは、本当にターゲットにしたいと思っている人が、すでにこの世にいないことを、虫の知らせのようなもので感じているのではないかと思うからだった。
 真美は、母親にそのことを確かめようとは思わない。知らないような気がするし、知っていたとしても、教えてくれないような気がするからだ。母親は、真美と父親を完全に切り離して考えているようで、同じ舞台の上に乗せることを極端に嫌っているようだ。
――生きる世界が違うとでも思っているのかしら?
 父親も娘も両方知っている人は母親だけだ。育ての親も母親や真美は知っているとしても、父親のことは知る由もないだろう。真美が育ての親の立場なら、絶対に知りたいとは思わない。ただでさえ娘のことだけで気苦労するのに、他のことまで抱え込みたくないと思うからだ。
作品名:年齢操作 作家名:森本晃次