小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

年齢操作

INDEX|21ページ/40ページ|

次のページ前のページ
 

 性格の違いは溝を作る。特に一緒に住んでいるのだから、押し付けられた方は息苦しくて仕方がない。まるで拷問のようだ。
 そんな家庭しかイメージがないはずなのに、どうして今頃になって団地で家庭を作っている自分の夢を見るというのだろう?
 しかも、とっくに別れた女性と、最近知り合った女の子とが時代を超えて、家族になっているのだ。確かに美沙は今まで付き合ってきた中でも特別な女性だった。敏夫にとっての最初の女性でもあり、相思相愛を感じた、最初で最後の女性だったのかも知れない。
 元女房は確かに敏夫のことを好きだったのだろう。だからこそ、結婚したのだが、だからと言って、相思相愛だったのかと言われれば、今から思うと疑問が残る。
――いつもどこかですれ違っていたような気がする――
 元女房は、敏夫に逆らうことをほとんどしなかった。従順で大人しい女性だと思っていた。
 まわりからは、
「彼女は人当たりがよくない。不愛想だ」
 と言っている声を聞くこともあった。
 そういえば、敏夫に対しての最初も、人見知りする性格なのだということはすぐに分かった。それなのに彼女と結婚するまでに至ったのは、
「俺にだけは心を開いてくれている」
 と感じたからだ。いつも一緒にいれば、自然とお互いに馴染んでいって、彼女が敏夫のことを愛しているのだと感じた。
――他の人に対して人当たりがよくない分、一番自分が接しやすい女になってくれているんだ――
 という思いが、敏夫を結婚に駆り立てたのだ。
 この頃まで、美沙との思いを断ち切ることができなかった敏夫だった。元女房との交際期間も、美沙との思い出の中に成り立っていた。元女房はそんな敏夫のことを分かっていて、それでも結婚しようとしてくれたのだ。
 離婚の原因については、今でもハッキリとしていないが、自分では断ち切ったつもりでいる美沙との思い出が、二人の結婚生活に影を落としていたのかも知れない。敏夫に意識はない分、彼女の方では敏感に感じ取っていて、しかも敏夫に意識がないことへの憤慨も重なって、
「これでは、結婚生活など続けていけないわ」
 と感じさせたのかも知れない。
 結婚している時に、美沙のことが尾を引いていたことに気付いたのは最近である。そしてそれに気付かせてくれたのが、真美だったというのも、皮肉なことだ。
――真美を見ていると、どこか美沙を思い起させる――
 どこが似ているというわけではない。ただ、美沙も真美も元女房とは似ても似つかない性格であるということに違いはない。だが、根底では同じところもある。それは皆引っ込み思案で、口下手で、人当たりはあまりよくない。だが、敏夫にとって、これほど付き合いやすい相手はいないということだ。
 だが、実際の真美は結構人当たりがいい。そのことは分かっているはずなのに、どうして人当たりがよくないという感覚になるのか、それは、夢の中で団地の夢を見たからに違いない。
 この夢は今までに何度か見たような気がする。決して楽しそうな家庭ではない。会話があるわけではないし、皆ただ黙って食事をしている。食事をしている光景なのに、おいしそうに食べている雰囲気が湧いてくるわけでもない。全員不愛想な食卓で、おいしそうに見えるわけなどないからだ。
 夢を見ている敏夫は、まず自分の顔を見てみる。
――これじゃあ、自分の父親のようじゃないか。もっと違った表情ができないのか――
 と、自分のことだけに、夢を見ている自分がどうしようもできないことに腹立たしさがこみ上げてくる。まわりの二人の不愛想な表情も、すべての原因は大黒柱である自分の責任だ。
――そんな当たり前のことも分からないのか――
 この場の息苦しさは自分が一番よく分かっているはずなのにと思うと、やりきれない気持ちでいっぱいになる。
 そういえば、子供の頃にも、
――お父さんだって、自分が子供の頃があったはずだ。どんな子供だったんだろう?
 という思いを抱いたことがあった。
 おじいさんも堅物だったと聞いているが、父親もおじいさんから同じような目で見られていて、息苦しさを感じたはずだ。自分も子供の頃に、
――こんな家庭だけは作りたくない――
 と思っていたのだから、父親も同じ気持ちだったはずだ。
 それなのに、どこで変わってしまったというのか。変わったとすれば、大人になる過程で、まわりの環境の変化と、自分の経験してきたことが、
――家族の大黒柱は、こんなものだ――
 と思わせる何かを与えたに違いない。
 敏夫は少なくとも自分が結婚するまでに、気持ちを覆させるほどの環境の変化も、経験もした記憶はない。だから、家庭を築けば、まず会話から入ろうと思っていた。元女房とは、会話もできていて、うまくいっていたはずなのに、離婚の本当の原因について気付かなかったのは、父親の呪縛が憑りついたかのような感情に、こだわり続けたのが原因の一つだったのかも知れない。
 大黒柱の自分は、明らかに今の自分なのだが、心の中は、真美と知り合った頃のまま、まわりを見ていた。もし、今の自分であれば、このような不愛想な家庭を作るわけはないと思うからだ。
 美沙は、敏夫が知っている美沙だった。だが、こんなに不愛想な美沙を見たことはないはずなのに、不愛想な表情に違和感がない。それは、真美に対しても同じで、いつもニコニコ笑顔で接しているはずの真美は、まるで別人のようだった。
――この二人を見ているから、大黒柱の俺の表情は、こんなに堅苦しいものになっているのかな?
 と思ったが、そう感じてしまうと、結局は堂々巡りを繰り返すことになってしまう。
――まるで、ヘビが自分の身体を尻尾から食べていっているような感覚だ――
 堂々巡りとは少し違うが、何か、悪循環を繰り返す時、最後の結末を想像することができないと感じた時、敏夫は、ヘビが尻尾から自分の身体を食べていく光景を想像してしまうのだった。
 想像している中で、今度は美沙と真美の関係を考えてみた。
 二人が一緒にいるところを想像してみたのはこの時が最初だった。
 真美を見た時、一番最初に感じたのは、
――美沙の雰囲気がある――
 という思いだった。
 美沙を思い出すことで、自分が美沙と付き合っていた頃の自分に戻れるのではないかという感覚になったことは、夢の中だとはいえ、新鮮だったのだ。
――美沙に娘がいれば、いや、もしあれから結婚していて、子供ができれば、真美のような娘がいたのかも知れない――
 と思った。
 元女房との間に子供ができれば、どんな子供だったのかということも想像したことがあったが、その時に想像した子供は、完全に元女房そのものでしかなかった。それは、自分の目で見るからで、夢の中のように、夢に出てきている自分を、夢を見ている自分が見ているような客観的な目にならないからだ。敏夫にはどうしても目線を変えることができない性格があり、いいところでもあるが、悪いところの方が強いのだと思っていた。
作品名:年齢操作 作家名:森本晃次