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 それでも、別れる時はいつも同じ感覚だ。本当は相手の二本のレールにそれぞれの個性を感じなければいけないものを、相手との距離を測るバロメーターに見えてくると、一度広がった距離が近づいてくることはありえない。相手が見えなくなるまで遠ざかってしまうと、もう後は別れるしかないのだ。
――また同じことを繰り返してしまった――
 こう感じるのもいつもと同じであり、別れてしまえば、そこに未練も付き合っていた時に感じた感情も、まったくなかったもののように、敏夫の目の前から風化してしまったかのようだった。
 敏夫は、付き合う女性に共通性がなかった。
――好きになりそうなので、付き合ってみよう――
 という程度の感情で、相手も似たようなものだったのかも知れない。
 最初はお互いに探り合いの感情だったので、同じようなことを考えているということで、付き合い始めの印象としては悪いものではなかっただろう。手探りの中での付き合いというには、ちょうどいい付き合い方だった。相手も、
――今まで男性と付き合ったことがない――
 などというウブな女性であるわけはないし、人に言いにくいような経験や感情をいくつも持っていたことだろう。
 探り合いから少しずつ近づいて行こうとするタイミングが同じであれば、少し長く付き合うことにもなるのだろうが、必ずどこかで一緒に歩いている相手が見えなくなることがある。それが別れを感じさせる最初なのだ。
 そこから先は別れの方が意識を強めてくる。台頭してくるといってもいいだろう。感情が表に出てくると、自分が感じるよりも先に相手が悟ることもあるようで、
――相手が別れたく思っている――
 と、相手に悟られてしまうと、後は別れに向かってまっしぐらである。
 冷めた感情は、そのまま、
――時間の無駄――
 という意識を誘発する。
 別れを考えている相手を引き戻そうとしても、結局無駄なことは、今までの経験で一番自分が分かっていることだろう。時間の無駄を感じてしまうと、付き合いが形式的なことにしか思えなくなるのだ。
 付き合いが形式的なことにしか思えなくなるから、時間の無駄だと最初は思っていたが、時間の無駄を感じるのは、理屈ではない。感情として湧いてくるものがないと感じないだろう。
 それが、冷めた感情である。
――冷静であり冷徹な感情――
 今までに何度となく感じてきたことで、今さら何度も感じるのは、
――成長や学習をしていないからではないか?
 と思うと、また、これからも同じことを繰り返すという思いに至り、結局堂々巡りを繰り返してしまうことになるのだ。
 堂々巡りを繰り返すと、慣れが次第に惰性に変わっていき、
――どういう女性を好きになるのだろう?
 という思いを感じても、それを不思議に思わなくなってしまう。
 惰性に変わっていくと、好みの女性がハッキリしなくなり、
――誰でもいいんじゃないか――
 と感じるようになってくる。
 誰でもいいのであれば、付き合う女性の幅が広がってくるように見えてくるが、意外と女性から寄ってくることはなくなるのだ。
「まるで上から目線で見られているようだわ」
 という声が聞こえてきそうだ。本人にはそんなつもりはなくても、
「誰でもいいと言ってやってるんだ」
 というような態度に見えてしまうのかも知れない。そう思われてしまうと、付き合う相手としての歩み寄りはありえなくなるだろう。
――一人が決まれば、他の女性を考えるなど、ありえないことだ――
 と、浮気や不倫という言葉は、自分にはありえないと思っていた。実際に、最近まで一人が決まれば他の女の子は眼中になかったのだが、最近は、誰かと付き合っている時であっても、気が付けば、他の女の子を見ていることがある。
――あの娘、可愛いな――
 と、ただ思っている程度なら別に問題ないのだが、それだけにすまないようだ。本人にはそこまで感じていないが、まわりから見ると、かなり見ている目が露骨なようである。食指を伸ばしているような目で見つめられた女の子は戸惑いを隠せない。見つめている敏夫には、戸惑いを隠せない様子が、自分を気にしている証拠だと思い、その気になりかけることもある。もっとも戸惑いを隠せない様子を見ていて、それを楽しみだと思っている自分もいて、その性癖をまわりの人が気持ち悪く思っていることなど知る由もなかったのである。
 性癖の気持ち悪さだけで、まわりの人は敏夫を浮気性だということに疑いを持たなくなった。
――知らぬは本人ばかりなり――
 一人だけ暴走しかねない状況になってしまうのだった。
 敏夫は、一時期そんな自分に嫌気を差していた。
 さすがに感覚がマヒしたといっても、その時期はいつも自分のことを顧みていた。それも昔の自分と比較してしまっていることで、
――堕ちるところまで堕ちてしまった――
 と感じるだけだったのだ。
 そのうちに人との関わりを拒絶するようになった。人と関わっていると、さらに他の人と比較して、自分が惨めになるだけだからだ。そうなってくると、男女問わずまわりの人との関わりの拒絶を考えるようになり、自分が孤立してくるのを感じる。完全に一人になってしまうとそこに待っているのは鬱状態だった。
 鬱状態は、人も自分ともどちらも比較しないことで訪れたもののはずなのに、絶えず何かに怯えている自分を感じる。
――こんな気持ちになるために人との関わりを拒絶したわけではないのに――
 と考えるようになるが、その思いを裏付けるように、夢の中でも鬱状態であるのを感じるのだった。
 夢の中で出てくるのは、決して今のことではない。どちらかというと、結婚していた頃の夢が多く、考えてみれば、
――この時に、もう少し違った考えをしていれば、今のように苦しまずに済んだはずなのに――
 という思いが頭を巡るのだった。
 夢の中で見る鬱状態は次第に薄れていった。夢を見なくなったからである。だが、本当に夢を見なくなったのだろうか? 夢を見なくなったというよりも、
――見た夢を覚えていない――
 といった方が正解かも知れない。
 夢を見なくなると、今度は眠りの時間が短くなった。ぐっすりと眠れなくなったのだ。そのせいもあってか、毎日少しずつの睡眠を何回も繰り返すようになった。
 夢かうつつか分からないようになっていき、起きている時間だけが、すべての時間のように感じるようになり、一日があっという間に過ぎるような気がしてきた。
 それが一週間、一か月と重なるうちに、気が付けば時間だけが経ってしまっていたのだ。
 だが、一年経てばどうだったのかというのは分からない。なぜなら、こんなおかしな期間は一年と続かなかったからだ。
――もし、一年間続いていれば、少しは違った方向に変わっていたかも知れないな――
 と感じたが、逆に
――いや、変わったというわけではなく、もし一年続いていれば、そのままずっと抜けることなく、いつまで続いていたか想像もつかない。それがいいことだったのか悪いことだったのか、その答えを生きているうちに見ることができるだろうか?
作品名:年齢操作 作家名:森本晃次