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 夢というのは潜在意識が見せるものだというが、これが潜在意識であれば、見つめられて恥じらいを感じる自分の性格が、本当の自分なのではないかとも、考えられるのであった。
 電車の中で見かけた彼女を、また今度も見ることができると感じたのは、夢を見たからである。正確に言えば、夢の中で感じたことだった。
 夢を見ている時に、
――今、俺は夢を見ているんだ――
 と感じることがあるが、その時もまさにそんな感覚だった。夢を見ているからこそ、自分を客観的に見ることができると思うのであって、客観的に見ている自分を感じると、その時、夢を見ているということに気付くのだ。
 夢で見た光景を、今度は現実に見るということもある。実際に数日してから、この間の女の子が同じ席に座って、本を読んでいた。この間とは違う本のようで、厚みが違っていて、この間よりも分厚い本を読んでいた。
 彼女の視線を感じた。痛いほどの視線である。これは夢で見たのと同じ視線で、夢と同じように恥かしさで顔が赤くなるのを感じた。
――正夢だったのか?
 夢で見たのを思い出したのは、見つめられたのを感じた時で、彼女を発見した時ではなかった。夢とは、潜在意識が見せるだけではないものもあるのではないかと感じたのは、その時が初めてだったのだ。
 制服なので服装に変わりはなかったが、髪型が前と変わっていた。以前は前髪を下ろしていたが、今回はポニーテールにしていて、少し活発に見えた。
――よくこの間の女の子だと分かったものだ――
 と思うほど雰囲気は違った。夢で見た時にも雰囲気が少し違った気がしたが、髪型が違ったわけではなく視線が違ったからだ。実際に見た時は髪型も違ったし、視線も違った。それでも、以前に見た女の子だと分かったのは、夢を見た時に感じた視線を自分の中で覚えていたからに違いない。
 あの時、どうやって声を掛けたのか、自分でもハッキリと覚えていない。ただ、彼女の視線に吸い寄せられるように近づいていくと、気が付けばすでに会話になっていたのだった。
 彼女の名前は、門倉真美と言った。
「可愛らしい名前だね」
「おじさん、ありがとう」
 と、名前を褒められて、嬉しかったようだ。きっと気に入っている名前なのだろう。敏夫も自分に子供がいたら、真美と名付けるかも知れないと思った。
 真美は、敏夫のことを「おじさん」と呼ぶ。敏夫もおじさんと呼ばれて、嫌な気はしなかった。
「おじさんって呼びたいんだけど、いいですか?」
 さすがに名前で呼ばれるのは照れ臭い。まだおじさんと言われる方がいい。真美も最初はおじさんと呼ぶことに照れ臭さがあったようだが、慣れてくると、わざと呼ぶことで楽しんでいるようだった。
 敏夫は自分のことも「おじさん」と呼ぶようになっていた。
「おじさんはこれでも、気分的には二十代のままなんだよ」
 というと、
「二十代でおじさんって言うの、おかしい」
 と言って、真美は笑っていた。
「おじさんって自分から言うのは、真美ちゃんと一緒にいる時だけだよ」
 と言うと、
「真美って呼んで」
 と、甘えてくる。
 最初は、物静かに見えていた真美は甘え下手だと思っていたのに、一旦話が合ってくると、甘え下手どころか、本当の娘であったかのような雰囲気に、すっかり若返った気持ちが再度リセットされ、父親になった気分になることで、至福の悦びを感じるに至るのだった。
 娘が本当はいるのに、今までは意識していなかった。真美を意識するようになると、今度は娘がいたことを認識はするのだが、意識はしない。自分の娘は真美なのだと思い込んでしまうのだ。
 本当の娘を意識していなかったのは、意識してしまうと、寂しさが募ってくるからなのだと思っていたが、どうも違うようだ。寂しさは自分から見た勝手な発想であり、娘がしてほしいことを自分が父親であった時にしてあげられたかどうかも分からない。父親らしさなど、自分の中にかけらもないのだ。
――それは今までのことで、真美を知った俺は違うんだ――
 今まで自分の性癖を、ロリコンだと思っていた敏夫だったが、実際は娘を見ているつもりだったことに気が付いた。
「お前はロリコンだな」
 と言われるより、
「自分の娘のような目で見ている」
 という風に思われる方が恥かしかったのだ。だから、自分でも娘を見ているような目をしているということを認めたくないという思いから、ロリコンを装うようなイメージを、まわりに植え付けようとしていたのかも知れない。
 真美という少女は、謎が多かった。
――なるべく、真美のすべてが知りたい――
 と思いながらも、慎重に聞いているつもりでも、敏夫の質問に対して、一喜一憂を繰り返す真美には、人に言いたくないような過去が潜んでいるように思えていた。
 それでも、何か気持ちのつながりを感じるのは敏夫だけではなく、真美の中にもあるのだろう。甘え上手な姿は敏夫を快楽の世界に導いてくれる。
 敏夫は、以前から本を読むのは苦手だった。本というよりも文章恐怖症であり、読み始めると、すぐに挫折していた。
 しかし、最初に挫折しなければ、そこから以降はスラスラと読めてしまう。つまりは、最初のある段階を通り超えるまでが難関だということだ。
 敏夫には結論を急ぐ習性がある。読んでいて回りくどい書き方をされてしまうと、斜め読みになってしまい、答えだけを求めようとする。本当であれば、文章でしかないので、情景を思い浮かべたりできるわけではないので、クドクドとした説明があるのも当然のことであるが、ついセリフだけを拾って読む癖がついてしまったことで、最初に情景が浮かばなければ、そこで読むのを断念してしまうようになってしまっていた。
 真美にも同じところがあったのだという。
「小学生の時、国語のテストは最悪だったわ。文章を読まずに、すぐに答えを出そうとしてしまうですからね」
「時間はたっぷりあるのに……、だろう?」
「うん、そうなの。どうしてこんな風になっちゃったんだろうな? おじさんはそんなことなかったでしょう?」
「いやいや、おじさんだって同じさ、時間配分よりも何よりも、問題の題材になる文章よりも先に、問題の方を読んでしまうんだ。最初に問題を読んじゃうと、今度は本文の方を読む気力がなくなってくるんだ。おかしなものだよね」
「でも、真美は本をちゃんと読めるようになったんだよね?」
「ええ、そう。今では読むだけではなく、自分でも書いてみようと思うようになったのよ。人が書いた本を読むにしても、きっと他の人とは違った観点から見るようになっているのよ」
「どういうことだい?」
作品名:年齢操作 作家名:森本晃次