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表裏の結界

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 送り込まれた連中も、軍隊と同じような専門集団である。ボロを出すことはなかった。しかも、近づかれた政治家や資産家は、自分たちには向かうところ敵はないと思っているのだ。そんな連中を丸め込むなど、彼らからすれば、赤子の手をひねるかのようなものだった。
 そうやって、この国は影でも首長国が裏から操作する国に成り下がってしまった。経済的には完全にこの国のものではなかった。
「知らない間に侵略されて、植民地になってしまった」
 まさにそんな感じである。
 しかし、政治的には、まだまだ同盟国だった。
 さすがに政治ともなれば、経済のように影だけで何とかなるものではない。大っぴらな動きをすることはできない。せめて、
「相談役」
 という程度の立場で受け入れるくらいのもので、完全な独立国として君臨している国としての体裁を整えながらの行動にしかならない。
 ただ、国民の関心のなさにはさすがに首長国も平衡していた。
「簡単にいいなりにできると思ったが、ここまで国民が政治に興味がないと、却って難しい部分もある」
 という意見もあった。
 それでも経済での成功に気をよくしているので、政治も何とかなると思っていた。いろいろな政策が協議され、国家機密として案が保留となった。
 一体彼らは、この国をどのようにしようというのか、腐敗しかけている国の誰も知る由もなかった。
 もちろん、この国の全員が全員、感覚がマヒしているわけではない。討論番組が成立していて、山本教授のような人もいた。ただ、放送局とすれば、討論番組をまるでショーのように考えていたのも当たり前のことだ。政治家も、
「しょせんは政治に興味もない連中が見るんだから、適当にいなしていればいい」
 と思っていたことだろう。
 また「フロンティア研究所」のようなところは、この国の発想だけでできるものではない。同盟国から派遣された連中の指導の下に作られたところだった。
 この国には、一般国民のように、まったく政治経済に縁のないところと、指導の下に作られたプロフェッショナルの集団の施設が共存するという、一種異様な雰囲気を醸し出す世界が存在していたのだ。
 ただそれも、この国の地理的な問題が大きく影響していたこともあった。
 この国は列島国家で、元々鎖国主義を唱えていた。他の国が植民地化されていく中で、この国は独立国家として歩みを進めてきたのだが、その状態は薄氷を踏む思いだった。
 大陸にある隣国が、先進国から植民地化され、腐敗していく姿を目の当たりにし、政府は、どうしても自国だけでの生存は無理だと判断していた。そのため先進国に頼って国の体裁を整えながら、国家運営を行っていかなければならない。本来なら国民主権を憲法で謳っているのだから、表向きは国民が政治に参加することになっていて、選挙権も先進国並みの制度が整っていたが、実際には裏で政府は先進国と繋がっていた。
 経済危機の時は、さすがに先進国も手を焼いたが、何とか乗り切ることができ、今は元のように、先進国にすがって生きる国に逆戻りしていた。
 この国の歴史は、単純なものではない。
「表があれば裏がある。裏があれば表がある」
 というような多重構造の政治が繰り広げられてきたのだ。
 ただ、先進国ではあまり見られないが、発展途上の国では、よくあることだ。体裁としては独立国家として先進国の仲間入りをしているが、その実、今でも先進国の中の大国の傘の元に入っていたのだ。
 そのことが今回のマイナンバー制度導入においての問題と重なってくるのだが、それにより一人の人間の運命が変わっていく。これはそんなお話なのだ……。

                  第二章 初めての相手

 片倉和人が勤めている「フロンティア研究所」では、これから導入が決定しているマイナンバーのデータベースが保管される場所が増設された。
 元々、研究所のまわりは田畑が広がっていて、増築するにはいくらでも可能なことだった。
 しかも、「フロンティア研究所」は元々の民間企業から、国家が買い取り、半分は国家機密の保持を目的とした建物に生まれ変わっていた。もちろん、ここがそんな施設になっていることは政府でも一部の人間しか知らないことだ。元から研究所にいた人たちも、ここが公営となり、国家が何かを研究するための施設であることは分かっていたが、詳しくは分かるはずもなかった。ただ厳重な警備体制に、
「まさか核施設なんじゃないだろうか」
 と噂されるほどだったが、装備は普通なので、核施設や細菌研究所のような物騒なものではないことは分かった。それでもここが国家機密に抵触するような場所であることは想像がついていた。
 特に最近では、人の出入りが激しくなっていた。黒い高級車が出入りしていて、SPが警備を怠らない。どうやら、新しい部署が新設されるのか、それに合わせて、増築していた新社屋が完成していた。
 そこがマイナンバーを保管する場所であることは明らかだった。表には一切そのことは公表していないが、同じ研究所にいる人たちには、別に隠そうとしているわけでもなかった。もちろん、一番問題となる個人情報が詰まっているのだから警備は厳重であろうが、表に対しての慎重さと、内部に対してはそこまで気にしていないこの落差は、和人には少し気がかりだった。
 和人たち、元々の研究員は、この建物で生活をしているが、別に外部との接触ができないわけではない。外出も門限さえ守れば自由だし、セキュリティがしっかりしているので、外部のものの持ち込み、外部への持ち出しこそ厳重だが、それ以外は別に何でもない。内部のことを漏らすことは当然のタブーであり、彼らにはレコーダーを持つことを義務付けられている。
 プライバシーを侵すことはできないが、禁止ワードを口にすれば、レコーダーのセンサーが働き、その後の運命は保証されないと、脅かされている。
 しかも、そのレコーダーを開発したのはこの研究所のメンバーだった。
 民間企業では採算が取れないとして生産化には至らなかったが、国家機密を保守するという意味では、これほどしっかりした研究はない。
「俺たちは、自分で自分の首を絞めたようなものだ」
 元々は、浮気を心配する夫婦の猜疑心を解消するためとして開発されたものだったが、今から思えば、却って波風を立てるものでもある。開発している時はあれだけ、
「世の中のため」
 と思っていたにも関わらず、それが自分たちに向けられると、
「こんなもの、研究しなければよかった」
 と後悔の念でいっぱいだった。
「フロンティア研究所」は、あくまでも民間企業が表向きだった。しかし、この場所に国家が介入しているということを嗅ぎつけたマスコミもいた。
 一部の週刊誌でスクープされ、最初は国家も、関与を否定していたが、ある時期になると、取って返したように、
「今まで、あの研究所は国家とは何ら関係ないと言ってきましたが、申し訳ございません。あの施設は国家予算が使われております」
 という爆弾発言が飛び出した。
 新聞は号外を出し、政府を糾弾したが、政府は一人の高官を部署替えするという形の責任の取り方だけで、それ以降問題を収束させようとした。
作品名:表裏の結界 作家名:森本晃次