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表裏の結界

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――まさか、この混乱は、他のどこかの国からもたらされた攻撃だったりしないだろうか?
 というものだった。
 そのことを山本教授も分かっていた。分かっていて敢えて触れないのは、このことを話題にすると、デマや中傷が飛び交ってしまい。必要以上に懐疑的な様相を国家ぐるみで呈してしまうことを恐れたからだ。特にテレビなどのマスコミの前で余計なことを言って、混乱を招くことは、評論家として一番やってはいけないことだった。
 その時間の討論は、それ以上の新たな発想を口にすることなく終了した。だが、山本教授の予感は半分当たっていた。そのことをアナウンサーは後になって思い知らされることになったのだ。
 自治体に調査を任せることで、意外と早くマイナンバーの確認は進んでいった。ひと月も経った頃には、約半分の人の確認は終わっていて、
「このままなら、案外と早く確認ができるかも知れないな」
 と、政治家連中も考えていた。
 ただ、
「抹消されていた人の数が想定よりも多かったらどうしよう?」
 という思いは、誰もが持っていた。
 本当なら、そのことに対しての対策もそろそろ考えておかなければいけないのに、なかなかいい案が浮かばないし、出てきても、すぐに打ち消されて、堂々巡りを繰り返すだけになっていた。
 そういう意味では、あまり早く自治体の調査が進んでくれるのも善し悪しだった。
「どうすればいいんだ?」
 誰もが、各々口にしていて、堂々巡りを分かっていながら、どうしようもない状態に、苦悩の毎日だった。
――既成観念に凝り固まっているからなのかも知れない――
 そう感じている人が一番多かった。
 まさしくその通りなのだが、その通りであるからこそ、堂々巡りが抜けられない。分かり切っていることを当たり前として受け止めて考えるのだから、抜けられないのも当然のことである。
 そして誰もが自覚していることとして、
――いくら時間があったとしても、解決にはならない――
 という思いだった。
 全貌が明らかになるにつれ、まるで自分で自分の首を絞めているような気がしてくる。
――どうして、こんな時に政治家になんかなったんだ――
 と、政治家になったことを後悔する人も出てきた。
――それなら辞めればいいじゃないか――
 と自分に問うてみるが、辞められるはずもない。辞めてしまうと、自分が自分ではなくなってしまうからだ。
 そんなことを考え始めると、時間が経つのは早いもの。
――なんて無常なんだ――
 と考えないわけにはいかなかった。
 だが、もう少しで全貌が明らかになるという寸前、今度はなかなか照会に時間が掛かるようになった。
 今回の調査は、依頼してきた人だけを調査していたのではいけなかった。全貌を完全に明らかにしなければ、問題は解決しない。
 消されたかも知れないという人が誰なのか、そして、どれだけの規模のものなのか、そもそも、消されたという噂に信憑性があるものなのかということを考えると、調査依頼してきた人だけを調べていたのでは、問題解決にはならないのだ。
 依頼者のほとんどの確認が終わってくると、今度は依頼してきていない人がどれほどいるのかということへの調査に入ることになる。
 それは相当な困難であった。政治家連中は、そこまでは想定外だったようで、
「依頼者のほとんどの調査が、まもなく終了します」
 という報告を受けたことで、自分たちの焦りは最高潮に達した。
 そして彼らは腹を決めて、いよいよ開き直っていたのだ。
「そろそろ結論を出さないといけなくなりましたね」
「ええ、我々も腹をくくりましょう」
 と、政治家同士で話し合われていた。
 彼らも百戦錬磨を潜り抜けてきた人たち、修羅場は覚悟の上だった。開き直ることで、何とかなってきた経験も過去には持っている連中ばかりだ。それが、政治家としての「命」と言えるのではないだろうか。
 だが、この問題では何度目の想定外の出来事なのか、
「いよいよだ」
 としてせっかく腹をくくったのに、なかなか全貌が明らかにならない。
 完全な肩透かしだった。
「どういうことなんだ?」
 部下をなじる姿が事務所の中を駆け巡る。
 ほとんどの政治家の事務所で、同じような光景が見られたことだろう。
「はい、依頼者以外の確認には、かなりの困難が見込まれています」
「というと?」
「実際の住民票とマイナンバーの照合をしていますが、元々の住民票は古いものです。身元不明の人も中にはいて、住民票もないような人もいました。マイナンバーはそんな人たちにまで仮の番号をつけて、管理するようになった。新たな試みです。しかし、元々の住民票にないのだから、マイナンバーから消えていたとしても、それは分かりません。しかも、それ以外にも、非合法で住民票を不正に取得していた人もいました。そんな人は元々の住民票が細工されているので、その人の存在自体が怪しいものです。そこまで照合するとなると、至難の業となります」
「そんな連中は放っておけばいいじゃないか?」
「そんなわけにはいきません。週刊誌の内容としては、誰か分からないが、マイナンバーから抹消された人がいるというかなり曖昧なものです。それに対して、マイナンバーの正当性を訴えるには。完璧に調べ上げる必要があるんです」
「だが、そんな連中は、前のシステムでは存在自体怪しい人だったわけだろう? マイナンバーになって便宜上取り込んだというだけで、そこまで面倒を見る必要はないんじゃないか?」
「先生、それは違います。マイナンバーはそれらの人々も国家として管理するということが一つの触れ込みだったんです。いいですか、『国家として』という言葉を明記してある以上、国家ぐるみで掛けられている疑いを解消するには、この問題は避けて通ることのできないものなんです。そのあたりはしっかりとご理解ください」
 部下と言っても、将来は立派な政治家を目指している。実務に関しては誰よりも分かっているので、今の状況を一番理解しているのは、政治家の部下たちではないだろうか。
 住民票は、自治体管理だった。実際には、国家が携わることのないもので、マイナンバーは逆である。
 このあたりがマイナンバーの構想が始まって最初にぶち当たった壁だった。
 中央集権と、地方分権とでは、それぞれに一長一短がある。時として中央集権であり、場合によっては地方分権と、それぞれに汎用性を持たせることが国家運営には必要であった。
 ほとんどの国はそれで成り立っている。よほどの独裁国家でもないかぎり、地方の意見を無視することはできない。下手をすると、どんなに強大な独裁国家であっても、翳りが見えると、クーデターが起こりかねないのが、世界情勢だった。
 一旦クーデターが起こってしまうと、まわりの国から干渉されてしまうことも少なくなかった。
「この機に乗じて、あの国の体制を、我が国と同じにしてしまおう」
作品名:表裏の結界 作家名:森本晃次