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表裏の結界

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――俺は今までに、本当に女性を好きになったことがあったのだろうか?
 童貞というわけではないが、童貞を捨てた時、
「別にどうってことないな」
 童貞というものを重たく感じたことはなかったが、まわりの男子が皆必要以上に気にしていることを、和人は不思議に思っていた。
 一番まわりが意識していたのが中学時代だった。本当であればまだ早熟なのだろうが、すでに中学生というと思春期の真っただ中である。しかし、その頃はまだ、和人は思春期に入っていなかったのだ。
 まわりからは、経験もないくせに、セックスの気持ちよさを耳打ちされた。
――一体何がそんなにいいんだ?
 としか思わなかった。
 それまでに和人が性的興奮を感じたのは、子供の頃にずっとそばにいた千尋の身体だけだった。
――どうしてこんなにムズムズするんだ――
 と不思議に思っていた。
 その場所が口に出していうのが恥ずかしい場所であり、隠さなければいけない場所であることは分かっていた。それだけに神秘的であり、ムズムズしているのが興奮しているからだということだけは分かっていた。
 手が勝手にズボンの上から抑えている。普段ならまわりを気にしながらのはずなのに、気がつけば、まわりを気にすることもなく、無意識に弄ってしまっている自分にハッとして、顔が真っ赤になったのを思い出した。
 だが、その思いも嫌ではなかった。
――大人になって思い出すんだろうか?
 という思いの中、なるべく忘れてしまおうとしている自分に気が付いた。
 大人になるまでもなく、定期的に思い出していた。しかし、思春期でもない和人には、思い出しても、それがセックスに直接結びつくものではなかった。友達から耳打ちされた話とは別の世界で、自分の身体が反応していたのだ。
 しかも、和人はセックスというものを軽蔑していた。
 表に出して大っぴらに話をするものではないはずなのに、どうして皆、あんなに興味を持って話題と言えばそれしかないのか、本当に疑問だった。
 もし少しでも、子供の頃に感じた下半身のムズムズした感覚と結びついていれば、思春期は他の人と同じ時期にやってきたのかも知れない。
 だが、思春期がやってくると、和人はそれまで感じていたムズムズが、千尋に感じたものであることを思い出した。今まで思い出していたのは、身体が思い出していただけで、頭の中で思い出したことではなかった。思春期になると、身体が感じているムズムズ感を、頭でも理解しないと我慢できなくなるのだった。
 思春期になると、女の子の存在がどうしても気になってくる。その時に思い出すのが、中学時代に自分の耳元で囁かれたセックスの話だった。
「あんなに気持ちいいことってないらしいぞ」
 経験もないやつが、いかにも経験者のように、相手が興味を持つように話をする。和人はそれが不思議だった。
――どうせ人から聞いた話をそのまましているだけなんだろうが、どうして、こんなにリアルに話ができるんだ?
 と思ったからだ。
 思春期の想像力は、自分が思春期にいるという意識を持っていれば、まわりが感じているよりも、かなり広く深く、たくましくなるものだ。自分が想像していると、どんどん膨れ上がってきて、自分の仲だけで処理できなくなってしまう。そんな時、他の人に話して、自分もさらに興奮することで、気持ちを最高潮に高めようとするのだろう。高まった興奮は勝手に表に出ていく。問題は、どのように自分の気持ちを最高潮に持っていくかだ。
「思春期は想像力あっての思春期だ」
 心理学を専攻しているやつが大学時代に話していたが、やつらには遠い過去でも、晩生の和人にはまだまだつい最近のことだっただけに、その言葉はリアルで新鮮だった。
 和人が初めて童貞を失ったのは、本当に偶然だった。
 相手は、まったく知らない女性。雨の日に、傘を持っていなかった二人がちょうど同時にシャッターの閉まった店の前で雨宿りをしたという、実にベタな場面だった。
 和人は高校三年生。中学時代まではまだまだ子供だった体型が、高校二年生くらいになると、急に発育も進んだ。ちょうど思春期に突入したのとほぼ同時だったのだ。
 顔にはニキビが溢れていて、目はギラギラと輝いていただろう。学生服も中途半端な着こなしで、同級生の女の子に意識されるというよりも、年上の女性から意識されることが多かった。
 その時一緒に雨宿りした女性もそうだった。
 Tシャツにデニムのミニスカート、雨に濡れたので、ブラジャーの線もハッキリと見えていた。仄かな香水も汗に混じって香ってくると、和人の身体は反応し、目のギラギラも普段よりも激しかったことだろう。
 しかし、相手は大人の女性である。さすがにまだまだ大人の女性を相手にできるほどの自信などあるはずもない。特に童貞である意識が強いので、自分から踏み出すことはできない。
 そんな和人の雰囲気が、大人の女性を引き付けるのだ。
 その時いた彼女は、失恋した後だった。スナックに勤める彼女は、年上の男性と不倫をしていた。相手の男性に妻子がいるのを知っていて付き合っていたのだ。
 彼女の中では、不倫を悪いことだとは思っていないところがあった。
「不倫されるということは、相手の奥さんに悪いところがあるのよ」
 と嘯いていたほどで、それだけ自分にも自信があった。
 不倫する男性の精神的な弱い部分を可愛いと思い、いとおしく感じている彼女は、不倫相手の男性に対しても、いとおしさの目で見つめていた。
 精神的に弱っている男性にはそれだけで十分だった。彼女の身体に溺れ、貪るように抱き着く男性に対し、彼女はすでに上から目線だったのだ。
 次第に女性の方が態度が大きくなる。立場から考えればそれも当然のこと、相手には妻子があって、自分は独身で自由なのだから。
 彼女は、自分が相手の男性に惚れているという意識はなかった。むしろ、
――好きになったら、私の負けだ――
 というくらいに思っていたほどだった。
 そういえば、彼女は今まで男性を自分から好きになったことはないと思っているほど、男性から好かれることに対して快感を覚えていたのだ。
――相手をいとおしく思えたり、可愛く感じるのは、好きになったからではない――
 と感じていた。
 では、
――好きになったら、どんな感覚になるんだろう?
 と、自問自答をしてみたが、彼女には分からなかった。
「分からないくらいだから、男性を好きになることなんかないんだわ」
 と、自分に言い聞かせていたのだ。
 スナックで勤めていると、いろいろな男性から声を掛けられる。どの男性に対しても胸がときめいたことはなかった。その理由に、
――自分のことを好きになってくれた人を、私が好きになるということはないんだわ――
 という思いがあった。
 これも、
「他人と同じでは嫌だ」
 という性格を隠し持っている和人を見た時、彼女がドキッとした理由だったのかも知れない。
 今まで男性を好きになったことがない女性と、思春期を過ぎてからの和人は、知り合ったことがなかった。しかも相手は年上でスナックに勤めている女性だった。
作品名:表裏の結界 作家名:森本晃次