パパはロボット
どれくらい時間が経ったのか? ぼくにはわからない。忘れてしまった。
しばらくして、自動車が走って行った。
犬を連れた飼い主さんも 通りを曲がって見えなくなった。
母さんは、パパに腕を押さえながら家に帰ってきた。
「パパ?」
「大きな犬で驚いたなぁ」
「さ、とりあえず おうちに入りましょう」
パパの服は、ところどころ擦れて破れていたけれど、パパの笑顔はいつもと変わらなかった。ただ、母さんが手を離したら パパの腕は、膝の辺りまでだらりと伸びてしまった。
でも、ぼくは、驚いたけれど、不思議と怖くなかった。
母さんは、電話を何度もかけていた。
その間、ぼくは、ソファでパパとお話をした。
パパは、大丈夫なほうの手でぼくの鼻水を拭ってくれた。
「パパ。手痛くないの?」
「大丈夫だよ」
「ぼくをいじめた犬なのに どうして助けたの?」
パパの表情はほとんど変わらなかったけれど、パパが哀しそうになったのを感じた。
「パパにとって光輝はとっても大切だ。怪我をしたら悲しい」
「守ってくれてありがとう」
「あの犬が怪我をしたら きっと飼い主さんは悲しいと思うんだ。だから捕まえてあげようと思った。わかるか?」
「でも、パパが怪我をしたよ」
「そうだね。これはパパの失敗だね。道路に飛び出してしまった。ははは」
「パパは怒らないの?」
「いけない事をしたら パパは怒るさ。でも大切なものを守りたいと思うのは悪いことじゃないだろ? わかるか?」
「うん」
パパのむき出しになった腕をそのままだ。ぼくは、少しだけパパの服を直してあげた。
人と違う身体。
可笑しなパパ。
誰かに話したら笑われてしまう。
だから、ぼくは、パパのことがそんなに好きじゃなかった。
一緒に遊ぶときは、おもちゃのようで面白かったけれど寂しかった。
だけど、ぼくのことも誰かのことも考えているパパは、ちょっと素敵だ。
いや、ちょっとじゃない、すごく素晴らしい。
そういうふうに作られているとしても ぼくにはわかる……
感情の芽生え。
パパは、学習できるんだ。
それは、ずっと一緒にいる母さんのおかげ。
人だから ロボットだから と分け隔てない母さんの毎日がきっとパパに感情の学習をさせているんだと ぼくは思う。
この時、ぼくはまだ小さかったけれど、ぼくもいつかパパのようなオトナになりたい、と思ったのかもしれない。
パパのことが、大好きになったんだ。