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浄化

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――マリという女性に似ていた気がする――
 マリを初めて見た時、どこかで会ったことがあると思ったのではなかったか、その時の一瞬の思いに、今の発想が結びついたのだ。マリを初めてみた時に、そこまで感じなかったのは、マリ自身の中に、克之のことをまったく知らないという感情を、今まで感じたことがなかったからだ。前世と思しき夢の中に出てきた女性とは、初対面の時から、お互いに結ばれることを予感していた仲だった。それは前世の人間が、皆運命を最初から分かっている世界に住んでいたからなのかも知れない。
 身体の大きな男が、今から思えば七夕男、そして、自分の運命から逃げようとした原因を作った女が、マリだとすれば、マリの弟は、克之とはどういう関係になるというのだろう? 前世でマリは弟などいなかった。やはり、前世だと思っていた世界は、自分が夢の中で勝手に作り出した妄想の世界でしかないのかも知れない。
 妄想の世界は、傀儡の世界でもあった。
 克之は、七夕男を傀儡とし、他の人も、表に出ている人間と、裏から操っている人間の二通りがある世界。そう思うと、マリと弟というのも、克之の妄想の世界では、どちらかが表に出ていて。どちらかが、傀儡だったと考えられる。克之は、傀儡は弟だったのではないかと思っている。
「篠原さん、あなたには姉がいるようですが、お姉さんが心配していましたよ」
 と、克之が言うと、誠は少し訝しそうな表情を克之に向けた。そして、何か気だるそうな雰囲気は、投げやりな感覚にも見て取れた。
「姉と会ったんですか?」
「ええ、お姉さんが私を訪ねてきたんですよ」
 というと、驚いていた表情が、諦めの表情に変わり、フッと溜息をついているのが分かった。
――姉に対して、余計なことをしたとでも思っているのだろうか?
 何も知らない克之は、姉妹にありがちな、姉の心配をおせっかいだと思っているのだと感じた。
 だが、諦めのような表情をする前に、なぜ驚きの表情になったのか、そこが納得の行かないところだった。
「新田さんは、どうやら何も分かっていないようですね」
 ムッとした表情を相手が察したのか、
「自分はすべて分かっているんだ」
 と言いたげであったが、だからと言って、それをひけらかしているわけでもない。憐みに似た溜息に、克之は完全に相手から優越感を持たれていることに憤慨していた。それは、こちらに対してなるべく感情をあらわにしないようにするためではないかと思える溜息の尽き方に、克之は劣等感を抱かぬわけにはいかなかった。
 それにしても、誠は何を分かっていないと言いたいのだろう?
 やはり、最初に感じたように、マリとは初対面ではなかったということだろうか?
 さらに誠を見ていると、姉のところに帰ろうとせず、じっと影に収まっているところをみると、自分の妄想の世界を誠が証明してくれそうな気がして仕方がない。
――誠は、一体自分にどのような関係があるというのだろうか?
 それは誠に対して思うというよりも、その後ろに控えている姉のマリに対してのことの方が強い。
――マリと誠は一体どんな姉弟なのだろうか?
 と考えさせられる。弟のことを心配する姉、しかし、弟は心配されることを快く思っていない。マリが表にいて、誠が裏に控えている方が、自然に思えてきた。
「君は、僕が何も分かっていないというが、君はそんなに何もかも分かっているというのかね? 確かにいろいろ分からないことが多いし、不思議なことをいう男が現れたりとかで、これで分かれという方が、どうかしていると思うけどね」
 と、ムッとした勢いで、誠に突っかかっていった。
 すると、誠は今度は首を傾げるような表情で、しばし考えていた。だが、すぐに何かしらの考えが頭の中で統一されたのか、表情に開き直りのようなものがあった。
「やはり、あなたは何も覚えていないようですね。ただ、それが突発的なことなのか、誰かの手によるものなのか、判断がつかない」
「それはどういうことなんだい?」
 誠は申し訳なさそうな表情になり、
「先ほどは失礼なことを口にして、申し訳ございませんでした。どうやら、私の考えていることが、半分は的中しているようですね。あなたは、記憶の大部分が欠落しているようだ。本当は大事な部分だけでもお教えしなければいけないんでしょうが、それはもう少し待っていただけないでしょうか? 今お話しても、多分、あなたにはご理解いただけないと思います」
「それは、この間、不思議な男がやってきて、話をしてくれたことと関係があるのかな?」
「不思議な男とは?」
「一年前に、実は私はあなたが黒づくめの男たちから追われていて、殺されそうになっているところを偶然見かけた。そして、あなたが、一瞬消えて、五分後に姿を見せるところも見てしまった。ちょうどその時に、同じように追われている男を見かけた。その男が一年経ったら、ここで話すと言って、どこかに行ってしまった。そして一年後、約束通りここに現れて、彼が住んでいる別世界の話をしてくれたんだ」
「どんな世界だって?」
「そこは、荒廃した世界で、こちらにいるもう一人の自分を殺すことが伝説になっているような話だった」
「なるほど。新田さんは、その話を信じたわけだ」
「ええ」
「あなたが信じてしまったことで、記憶が戻るのがまた遅れてしまったんだな。その男の目的の一つは、新田さんの記憶が戻るのを恐れているため、少しでも記憶が戻るのを遅らせようとしているんだ」
「消すことのできない記憶ということですか?」
「いや、記憶というもの自体、消すことはできないのさ。封印することはできても、決して抹消することはできない。だから、死を覚悟した時、俺たちの世界では、他の人の脳に、その記憶を移すことも許されている。ただ、それは誰にでもというわけではない。血の繋がりのある人でなければ、してはいけない法律があるんだ」
「じゃあ、記憶を他の人に移すというのは、あなたの世界では、合法的なことなんですか?」
「ええ、そうです」
「信じられない」
「それはそうでしょうね。自分の身体に他の人の記憶を公然と移すんだから、どうなってしまうかを考えると、信じられるものではない」
 ないはずの記憶が格納される。格納されて、表に出すことはないのだろうが、ふとしたことで、飛び出してこないとも限らないだろう。
 それはまるで「デジャブ」のようだ。こちらの人間にだってデジャブというものがある。本当に自分の記憶なのかと疑いたくなるような記憶を、一つくらいは誰でも持っているものではないだろうか。誠は話を続けた。
「新田さんはデジャブのことを考えているんでしょうが、今の話、信じられないというのは、露骨に記憶を移植するという大胆さばかりが目に映っているのでしょうが、考えてみてください。人間は輸血だってするんですよ」
「輸血と、記憶の移植とが関係あるんですか?」
作品名:浄化 作家名:森本晃次