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浄化

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 克之は、いつもは他人事のように聞いているような話なのに、この話に関しては、身体が反応してしまうほど、身近に感じながら話を聞いている。
――怖い――
 という感覚が迫ってくる。すぐに死を意識させられるわけではないが、その恐ろしさは、夢の中でもう一人の自分を見た時に似ていた。あれは正夢だったというのだろうか? それとも、予感めいたものが見せた「予知夢」というべきであろうか。
 予感というには、あまりにも以前に見た夢だったような気がする。予知夢というには、少なくともここ一月ほどの間のことでなければいけないのではないかと思う。ただ、一年前に見た光景、七夕男の存在、そして誠の出現、それぞれ話が繋がっているのを考えると、以前に見たもう一人の自分の夢を鮮明に思い出す。
――あの夢を見ることができた自分だから、七夕男や、誠と出会ったのだろうか?
 という考えも頭を過ぎる。潜在意識の中にもう一人の自分がいることで、異世界の人間が、克之に目を付けたとも考えられる。ただ、もしそうなのだとすれば、
――何のために?
 という疑問が残る。
 事は秘密裏に、隠密で行った方がいいに決まっているのに、なぜこの世界の、それも克之に対して接近する必要があったのだろう。
 逆に、克之が知っていることを、克之だけしか知らないというのも、克之の考え方にしか過ぎない。ひょっとすると、他にも知っている人がいて、その人もあまりにも発想が突飛すぎて、誰にも話せずにいるのかも知れない。
――あるいは、脅迫を受けて、口止めされているのだろうか?
 そういえば、一年前のあの日も、普段通る道ではなく、体調の悪さなどあって、偶然通っただけだと思っていたが、偶然ではなく、最初から克之があの場所に現れるのを察知して、舞台を演出したのではないかと思うこともできるだろう。
――何しろ、彼らは僕の想像をはるかに超えた科学力を持っているのだ。異世界から超えてくるだけの力があるのだから、時間を超えることも難しくないはずだ――
 と、七夕男と出会った時に感じたではないか。それに、七夕男は、かなり克之のことを調べたと言っていた。行動パターンを読まれていたとしても、それはそれで不思議なことでもない。
――僕に何を悟らせたいというのだろう?
 確かに、七夕男の話、誠の話を聞いていると、異世界の話もまんざら夢物語ではない気もしてきた。
――あっちの世界の僕は、どんな人物なのだろう?
 克之は、昨年聞いた七夕男の話を思い出していた。
――やつらの世界は、悲惨な世界だと言っていた。破壊や殺戮が横行していて、どうにもならないようになっているって言っていたっけ――
 と、そこまで考えると、克之は少し不思議に感じた。何か思い当たるところを感じたとでも言えばいいのか、克之にはその話に疑問があった。
 克之は、歴史が好きだった。戦国時代、明治維新、好きな時代には詳しかった。大学時代には、対外戦争について興味を持ち、世界大戦などの、帝国主義時代の文献などを結構読み漁ったものだ。
「国家ぐるみの殺戮と破壊の時代」
 それが、帝国主義の定義と思っていた。
 克之が七夕男の話を聞いた時、帝国主義を感じていたが、その時どこか違和感があった。まるで自分が、その時代に存在していたかのような感覚になったのだが、どこに違和感があるのかをずっと考えていたが、答えが見つからなかった。
――七夕男が消えてしまったので、永遠の謎になってしまったかな?
 と思っていたが、ふと考えると、
――どうしてこんな簡単なことに気付かなかったのだろう?
 という思いを感じた。逆の発想すればいいだけのことだった。
 帝国主義は、国家ぐるみだったではないか。克之の潜在意識の中にある「破壊と殺戮」は、国家ぐるみというわけではなく、組織よりも狭い範囲。下手をすると、個人レベルでの問題だったということである。
 七夕男の話を聞いていて、気付いたはずだったのに、今から思えば、七夕男の消滅は、克之の記憶装置の中から、若干の記憶を消す効果があったようだ。すべてを消すことは不可能だが、消去しなければいけない記憶を消してしまっていたのだ。
――今の僕の疑問は、消滅した記憶の中に真実が存在しているに違いない――
 と思った。
 本当は消滅さえしなければ、七夕男は、克之にすべての事情を話していたかも知れない。一人の男の消滅がどれほど克之に大きな影響を与えたのか、まだ他にあるかも知れないと思うと恐ろしかった。
 ただ、どうして七夕男は消滅してしまったのだろう? 向こうの世界の話を克之に話したからであろうか? 昔話や言い伝えなどでは、別世界が存在し、そこからエージェントとしてやってきた人間は、自分の世界の話をしてはいけないという暗黙のルールが存在し、話してしまったがゆえに、元の世界に戻れなくなったり、記憶を消されたりして、最悪、命を落とすことになるのが、定説のようになっている。
 それが一つではなくいくつも存在し、定説のようになっているのであれば、本当に別世界が存在するのだとすれば、定説として十分成立する。
「火のないところに煙は立たぬ」
 というではないか。
 七夕男が克之に話したことで、時空間の約束事が崩れたと思われても仕方がない。いや、元々七夕男や、もう一人の誠が、こちらの世界をウロウロすることの方が、十分約束事を破っていることではあるが……。
 克之がそう思えば思うほど、まるで自分が言い訳をしているように思えてならない。
――七夕男とは、本当に一年前が初対面だったのだろうか?
 それ以前にも遭っているのはないかと、今になって思えば、そう思えなくもない。それも一度だけではない、何度か会っている。日常的に会っていたといっても過言ではないくらいだ。
 克之は、自分の記憶の中に、ポッカリと空いた部分があることを、以前から意識していた。
 しかし、それは、
――僕だけではなく誰にでもあることなんじゃないだろうか――
 と思っていたことだった。
 記憶力の低下を気にしていた時期があったが、それも、最初から記憶が欠落しているのであれば、思い出そうとしても思い出せるものではない。子供の頃の記憶はいつ頃から残っているかというのは、個人差があって人それぞれ、ただ、時々前世の記憶ではないかと思うようなものすらあった。記憶の欠落が、前世の記憶を残す隙間になっているのかも知れないと思っていた。
 前世の記憶があるのは、前世も自分が人間だったからだ。同じように男であり、違うのは、記憶の中の自分は、いつも誰かの指示だけで動く、まるで操り人形のようだったからだ。
 指示をしている人間が誰なのか、おぼろげでしかなかったが、逆らうことなどできないことがすぐに分かるほどの身体の大きな男だった。
 ただ、そんな自分も恋をした。その人の言うことも聞きたいのに、大男の存在が邪魔だった。
「僕はその時、逃げ出したんじゃなかったのかな?」
 逃げても追いつかれてしまうことは分かっていたが、どうしようもない。好きになった女性と手に手を取って、どこに逃げようとしたのかも覚えていないが、彼女と二人、確かに逃げた。
 その女性のことを今思い出してみると、
作品名:浄化 作家名:森本晃次