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寿命神話

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「それはきっと、最初思った時は、ものすごく僕に会いたいと思ったんじゃないかな? でも会って何を話すかずっと考えているうちに、その気持ちが次第に冷めていった。最初に急激に感じただけに、一度冷めてしまうと、再度気持ちを盛り上げることは、かなり無理があったはずなんだ」
 と、おじさんは冷静に話してくれた。
――やはり、おじさんは相当頭が切れる――
 おじさんに対して今まで想像していたイメージよりも、さらに強く感じた。
 もっと早く会ってみたかったという思いだけが頭にあったが、おじさんにそう言われると、再会した時期が今なのは、
――最初から運命だったのかも知れない――
 とも感じられた。
「おじさんは、宗教団体というのは、その人を苦痛から救うというものだと思っていますか?」
 山内は、敢えて宗教団体という言葉にして、団体を特定することを避けた。
 おじさんが、それをどう解釈して答えてくれるかというのも、興味があったからだ。
「その人を苦痛から救うなどというのは、思い上がった気持ちなんじゃないかって思っているよ。確かに苦しんでいる人がいれば助けてあげたいと思うのは人間だから当たり前のことだと思う。でも、それだって、打算の気持ちがないわけではない。『相手の身になって考える』ってよく言うだろう? あれだって、結局は『自分が同じ立場になった時も、人から助けてもらいたい』という思いがあるからなんだ。人は苦しみを感じると、『何でもいいから助けてほしい』と思うのが当然なんじゃないかな?」
「だから、人を助けてあげたいと思うのは、誰もが持っているものだけど、そこに打算が含まれていることを忘れてはいけないというわけですか?」
「そういうことになるね。だから、苦しんでいる人を助けたいと思うことを悪いことだとは思わないけど、単純に考えただけでは、却って大きなお世話になってしまうことだってあると思うんだ。すべてが相手の立場になってみないと分からないんだよ」
「なるほど、そういうことなんですね」
「そういう意味では、兄貴のように頑固で独裁的な人間には、そのあたりの理屈が分からない。すべてを自分の枠にはめ込んでしまおうとする。そうなると、相手は反発し、頑固な人間の本当の気持ちを分かることなんかないんだよ。いわゆる『決して交わることのない平行線』とでもいうべきだろうか」
「分かりやすいたとえですね」
 父親の話を持ち出されると、たとえ話としては、ちょうどいい。おじさんが何を言いたいか、少しずつだが、分かってきたような気がした。
「じゃあ、おじさんは宗教団体で、『苦しんでいる人を助ける』ということをスローガンのようにしているのは、怪しいと思っているんですか?」
「一概にはそうは言えないと思うが、要は一つだけを見て判断しない目を持って何事も見なければいけないということさ。それは宗教団体だけではなく、すべてのことに言えることだ」
 おじさんの話を聞いていると、ほとんどの話がもっともに聞こえてくる。
 よく宗教団体の教祖と呼ばれる人から、マインドコントロールされてしまうという話を聞くが、山内も、
――俺もマインドコントロールされないようにしないとな――
 と思ってきたはずなのに、少し気持ちが最初とは揺らいできていることに気が付いていなかった。
「ところでおじさん。この団体に入信している人の中で、行方不明になった人とか、今までにいたとか聞いたことがありましたか?」
 核心の話を振ってみた。
 いきなりだったかも知れないが、おじさんの顔色を見てみたいというのもあったからだった。
 するとおじさんは、思ったよりも冷静に、そして、さらにゆっくりと口を開いて、
「いや、僕にはハッキリとは分からないね。何しろ、ここでは入信も自由なんだけど、脱退することも、それほど難しくはないんだ。他の宗教では脱退を許さないところもあるという話だったけど、ここではそんなことはない。だから、もちろん脱退していく人もいたし、脱退して普通に生活している人も何人も知っている。僕らだって縛られているわけではないので、脱退した人に会いに行くことも自由なんだ。だから、何人の人にも会ったことがあったんだよ」
「そうなんですね。じゃあ、もう一つお聞きしたいんですけども」
「何だい?」
「ここに入信する時って、誰にも何も言わずに入信する人もいるんでしょうね」
「いると思うよ。入信に別に何かの制限があるわけではない。制限のありそうな人は入信してくるはずないしね。たとえば、他の宗教を信じている人が、ここに入信してくるはずなどないだろう? まさにそれと同じ発想なんだよ」
 言っていることは、至極当然のことだった。
 その話にウソはないだろう。ただ、言葉が足りないこともウソだとは言わない。おじさんが言葉を選んで話をしてくれていることは最初から分かっていることだった。
「なるほど、じゃあ、入信して来た人の中には、行方不明者として、捜索願いが出された人もいるんでしょうね」
「いるだろうね。入信してくるまで、家族にもまわりの人にも自分がここの信者だと悟られないようにしている人がいたとすれば、いなくなった後に残った人から見れば、失踪したとしか見えないだろうからね」
「そんな人は多いんですか?」
「どれほどかまでは分からないけど、いるんじゃないかな? ここの考えに陶酔した人の中には、俗世間にいる間、俗世間とはすでに縁を切っているつもりになって、余計なことを俗世間で話さないようになった人というのは、比較的多いと聞いているからね」
「おじさんは、その人たちの気持ち、分かるんですか?」
「分かるつもりだよ。自分の信じるものが決まったら、それまでの自分を否定はしたくないから、逆に俗世間にいた自分を傷つけたくないと思う。だから、俗世間の目を欺こうと思うのも当然ではないかと思うからね」
「なるほど、何となくですが、分かる気がします」
 その言葉は本当だった。
 宗教団体を、ある意味、十把一絡げで考えていたところがあった。
 例えば、子供の頃に見た特撮やアニメ番組で、地球人と宇宙人という枠組みについて、漠然と疑問を感じていた。
「地球人だって宇宙人の一部なのに、地球人同士では名前で呼ぶのに、宇宙人は、何とか星人としてしか言わないんだろう?」
 という疑問だった。
「それを言うなら、人間と動物にだって言えるんじゃないか? 人間には名前があるのに、動物には名前がない。動物園の動物に名前があるのは、勝手に人間が考えた名前だからね」
「そうだよな。人間だって、動物の一部なんだからな」
 そんな話を友達としていたことがあった。
 あまり友達のいない山内だったが、そんなおかしな話をする友達はいたのだった。
 山内は、そこまで思うとハッとした。自分が聞きたかったことから、少し話が離れてしまっていたからだ。
――おじさんは、俺の性格を分かっているのかな?
 と感じたが、それでも、うまくはぐらかされているという思いはなかった。
 ただ、自分がしっかりとした考えを持っていなければいけないというだけなのだが、どうもハッキリとしない。
作品名:寿命神話 作家名:森本晃次