小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

寿命神話

INDEX|10ページ/33ページ|

次のページ前のページ
 

――どうしても、おじさんと話していると思うと、子供の頃の自分のイメージがよみがえってきてしまうからなのかも知れないな――
 と感じていた。
 それと、人と話をしていると、どうしても発想が余計なところを捉えていることが多い。それは刑事として、発想を豊かにしないといけないという思いもあるからだったが、それだけではない。刑事になって、
――これは俺の天職だ――
 と感じたことがあったが、どうしてそう感じたのかすぐには分からなかった。
 しかし、豊かな発想を持つことができるのが自分の性格だと思った時、天職だと思ったのも無理のないことだと思ったのだ。
 おじさんは、何も考えていないように見えるが、実は山内が何を考えているのかを、探ろうとしている。そのことは刑事である山内にはすぐに分かったが、それよりも、おじさんが何も考えていないように見える素振りを、本当に表面上でしか見せておらず、山内のような刑事が見れば、みえみえと思えるほど、明け透けな感じだった。
――どうして、こんなにも警戒心がないんだ?
 そう、他の人なら、もう少し警戒心を持つはずだった。
――相手がいくら自分を見定めようとして意識を集中させても、しょせん、あんたにはこちらを見透かすことなどできるはずがないという余裕の表れなのだろうか?
 とさえ思えた。
 普段の山内なら、そんな素振りを見せられたら、怒りが込み上げてきて、感情的になるのだろうが、相手がおじさんだということもあってか、それほど怒りが込み上げてこない。もっとも、ここで怒りをあらわにしてしまうと、相手の思うツボに嵌ってしまうことは分かり切ってもいた。抑える必要もないほど、怒りが込み上げてこなかったことに、ホッと胸を撫で下ろした山内だった。
 だが、ここは何と言っても宗教団体の巣窟、下手なことをして帰ることができなくなってしまうのも困る。
――まだ自分にはしなければいけないことがある。こんなところでくたばるわけにもいかない――
 というのは建前で、正直宗教団体などという得体の知れない連中の巣窟に入ってしまったことを、後悔したくなかったのが本音だった。
 だが、不思議なことに、やつらの巣窟に入ってしまうと、死ぬことを考えても、
――死が怖い――
 という感覚はなかった。
 むしろ、得体の知れないものの正体が分かることの方が恐ろしかった。その後に死が待っているのか、それとも、生きて帰ることができるのか、そこまで考えが及んでいるわけではなかった。
 おじさんを見ていて、みえみえの態度に覚えるはずの怒りが込み上げてこないのも、この場所の独特の雰囲気によるものであるとすれば、早く話を切り上げてこの場所から退去しないと、思考回路を狂わされてしまう。その原因が独特と思える雰囲気にあるのだろうが、元々持っている自分の中の何かと共鳴して、感覚が狂わされているという考えもないわけではなかった。
――これ以上、おじさんと話をしていても、埒が明かないかも知れないな――
 と、山内は考え、帰ることにした。
「今日はありがとうございました」
「いえいえ、また会いにおいで」
 そう言ってくれたおじさんの顔は、今日の中で一番安心して見れた顔だった。
 もし、この時少しでも不安を感じているような表情をしていれば、自分たちの会話が盗聴されていたかも知れないと感じたことだろう。少なくとも、おじさんは盗聴という事実があったとしても、そのことを知らなかったのは事実だ。山内はそれだけでもよかったような気がした。
 おじさんと話をして分かったことはあまりなかった。
――いや、ひょっとすると、ここの内部の話は、一般の信者には知らされていないことが多いのかも知れない――
 という思いだった。
 逆に言えば、今までに共謀で何かがあったから、信者に対して秘密にする必要があったとも考えられる。そこに、過去に失踪した人がいて、失踪が共謀によるものであれば、かん口令を敷く意味も分かるというものだった。
「それにしても、俺が来るくらいで貸し切りにするというのは、本当に何かがあるからなのかも知れないな」
 と感じた。
 宗教団体を信じてみたいという思いもあったが、頭の中ではグレーというよりも黒であった。そんな団体を信じることは、刑事としてはできなかった。
 それからしばらくして内通者からもたらされた情報は、興味深いものだった。
「山内さん、今回見つかった変死体に関してはまだよく分かりませんが、十年前に見つかった死体に関しては、どうやら、元々ここの信者だったことが判明しました」
「えっ、それは本当か?」
「ええ、ただおかしなことに、死んだ人は皆、この団体から脱退してすぐに死んでいるんです。しかも、この団体にいた時期も非常に短い。だから、この団体にいたことを知っている人は、ここの上層部くらいなんですよ。しかも、十年も経っているので、さらにその時の人はそれほど残っているわけではないんですよ」
「確か、あの集団は、入信も脱退も、それほど厳しくないと聞いていたが?」
「そうなんです。少しおかしな気がしたので、そのあたりから調べてみたんですが、脱退が簡単な割には、あまり脱退する人はいない。それで脱退した人のリストを作って調べてみると、変死体が見つかった時と、脱退した時との間が、皆ほぼ同じなんです。脱退してから、一か月くらいになっているんですよ」
「どうしてそんなことまで分かるんだい?」
「脱退した人は、入信した時に作った名簿に、赤い線を引かれるんですが、実はそれとは別に脱退者リストなるものが存在しているんです。普通は極秘資料になっているんですが、それほど厳重に保管されているわけではないので、僕にも見ることができたんですが、そこに、脱退後のことも書かれていたんです。例えば、『何年何月何日に死亡』ってですね」
「やつらは、脱退した人のその後まで監視していたわけだ。しかも、死亡日時まで明記しているなんて……」
「そうなんです。その死亡時期が、ちょうど脱退してから一か月という人が、十年前には十人以上もいたんですよ。しかも、それが十年前の変死体発見の時期と一致している。こんな偶然ってあるんでしょうか?」
「宗教団体がひょっとして、殺人事件に絡んでいるとすれば、これは少し厄介だな。そうじゃないと思いたいんだが、そうでなければ、慎重に捜査しないと、上からの圧力が掛かってくるかも知れない。そういえば、ここの宗教団体は、どこから派生してできたものなんだろう? 急に湧いて出たような宗教団体だと、もう少し早く問題が大きくなっていたような気がするんだ。とにかく謎が多すぎる」
「そうですね。僕も内通はしていますが、入信した時に、別にこの団体のことについて、詳しく教えられたわけではないんです。かといって、何かを隠そうとしているようには見えない。もしかすると、一般の人は誰も詳しいことを知らないのかも知れない。過去のことには興味がないという考えの人がたくさんいる団体だと思っていますが、秘密主義じゃないだけに、知りたいという意識にはならないという人間の心理を逆に利用しているのかも知れませんね」
作品名:寿命神話 作家名:森本晃次