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寿命神話

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 彼らの中には、山内に内通している者もいて、話はすぐに聞ける。彼らは必要悪であって、ある意味警察とは協力してくれる立場にいる人もいた。
 それは、表向きには言えないが、警察と宗教団体の間での密約のようなもので、表に出ると厄介だが、まさかそんなことがあるなど考える人はいないという思いが強く、それが山内の狙い目だった。
 何しろ彼らが必要悪であるということを一番よく分かっているのは、一般市民だった。彼らは洗脳されているわけでもなく、宗教団体で活動しているわけでもない。やはり、心の中で、
――何かに頼りたい――
 という気持ちが渦巻いているからではないだろうか。
 そんな宗教団体の中に、おじさんがいることはすぐに分かった。奥さんとも一緒にいて、どうやら、入信してから子供が生まれたのか、高校生の女の子がいるということだった。
 おじさんと会うことはそんなに難しいことではなかった。宗教団体としても、警察に対しては一定の警戒感を示していて、山内に対しては。
「最重要危険人物」
 というありがたくないランクを与えられていたが、一度潰された団体が元に戻りつつある中で、山内がそのキーパーソンであるということが分かると、お互いに相手を潰そうと思うことはなくなった。
 言葉でハッキリと示したわけではないが、それまでのやり方を見て、お互いに分かっていたのだろう。暗黙の了解の中で、山内は、警察の中での頭角を現してきたのだった。
 宗教団体としても、山内が送り込んだ内通者の存在も分かっている。山内の方も、相手が知っているということも分かっている。これこそ紛れもない、
――暗黙の了解――
 と言えるのではないだろうか。
 山内のおじさんとは、内通者を通して話をすることができた。これも、宗教団体に対しての配慮で、
――相手が分かっているんだから、こっちも礼儀を通すことにしよう――
 と思ったからだ。
 一応、宗教団体の中にいる人間を仲介していることを礼儀と考えていたが、相手も同じことを思っていたようだ。これは宗教団体だけではなく、権力組織にも言えることで、いわゆる、
――礼儀というよりも、仁義に近い――
 ということではないだろうか。
 仁義というと、古臭く感じるが、山内には古臭いとは思わない。
――利用できるものは何でも利用する――
 という考えが山内にはあって、それが、今までの事件解決の一番の力になったことだと思っていたのだ。
 会ったのは、普通の喫茶店だった。
 あまり騒がしい店では、何を言っているのか分からず、お互いに気が散ってしまうと思えたし、逆に客がいなければ、少々の声でも店内に響いてしまう。そんな環境での会話ではないことはどちらも分かっていたので、待ち合わせの場所は、相手側に任せたのだ。
「おじさん、ここは?」
「ああ、ここは、うちの団体が経営している喫茶店なんだ。今日は君が来るということで、半分は貸し切りにしてもらったんだ」
「そんなことができるんですか?」
「他の人も、面会がある時はここでしているようだから、大丈夫だ」
 ということは、ここも一応宗教団体の中にいるのと同じことになる。それでも、喫茶店がメインなので、そこまで気にすることはないのかも知れない。
「亮平君、大きくなったね」
 と、おじさんに言われて、
「ええ、ありがとうございます。僕はおじさんの記憶があまりないので何とも言えないんですが、おじさんというよりも、お兄さんという雰囲気だったのを覚えています
「そうだね。僕はまだ二十代だったからね。君のお父さんにもお母さんにも迷惑を掛けたと思っている。二人は元気かい?」
「ええ、何とか元気でいます」
 おじさんには、
――あなたのせいで、親とは確執ができました――
 などとは言えなかった。
 あくまでも、
――自分は自分、親は親なのだ――
 ということを、表に出しておきたかったのだ。
「おじさんがこの団体に入信したのは、いつ頃だったんですか?」
 何しろウワサでしか知らなかったので、質問するとしても、すべてが最初からになるのは当たり前のことだった。
「あれは、僕が女房と結婚した頃だったから、二十七歳の頃だったかな? 実は女房がここの信者だったんだ。入信するか、結婚を諦めるかというジレンマだったんだ」
「奥さんは、その時に初めてここの信者だと明かしてくれたんですか?」
「いいえ、最初は何も言いませんでした。何か隠し事をしているのは分かっていたんだけど、問い詰める勇気がなかった。次第に、彼女が自分から離れていくんじゃないかって衝動に駆られたことで、勇気を出して、問いただしたんです。しかも、その時にはすでに女房のことを愛するようになっていたので、それを察した彼女が明かしてくれたんです」
「衝撃だったでしょう?」
「ええ、もちろんショックでした。でも、彼女が自分を信用して明かしてくれたのも事実ですし、僕が彼女に惚れこんでしまったのも事実だったので、後戻りなどできませんでした。だから、思い切ってプロポーズしたんです」
「そうだったんですね。でも、僕はすでにプロポーズした時、おじさんはすべてを決めていたような気がするんですが」
 というと、おじさんは一瞬思い出し笑いを見せて、
「そうだね。君の言う通り、僕はプロポーズを決めた時、すでにすべてを受け入れる気持ちになっていたんだ。だから、もちろん後悔なんかしていないし、結婚できて幸せだし、ここでの生活も悪いとは思わない。思っていたよりも自由なんだよ」
「そのようですね」
 この宗教団体には、戒律というのはあっても、それさえ犯さなければ、別に自由であった。
 その戒律と言っても、別に厳しいものではなく、世間一般にしてはいけないと言われることを書いているだけだ。そのことも内通者から聞いていた。内通者自身も、
「俺も、このまま入信してもいいと思っているくらいだよ」
 と言っていたが、もちろん冗談なのだろうが、ありえないことではないと山内は感じていた。
「宗教と言っても、教祖がいるわけでも、ダメなものがあるわけでもない。人がどのようにして生きればいいかということを意識させずに、いかに自分が幸せになるかということがこの団体のテーマなんだ」
 聞けば聞くほど、怪しい部分はなくなっていく。
 ただ、それでも宗教は宗教、いつ暴走を始めるか分からないというのも頭にあった。何しろ、団体を組んでいるわけなので、それだけで「力」である。それを肝に銘じておかなければいけないと山内は感じていた。
 ただ、山内にも分かっていなかったことがあったのだが、そのことがこの事件でどのような影響を及ぼしたのかということを知るのは、まだ後になってのことだった。
 山内はおじさんとの話を続けた。
「おじさんが入信した時期というと、ちょうど宗教ブームだった頃ですよね。ひどい宗教が蔓延っていて、世間を騒がせていた。そのことについておじさんは、怖さのようなものはなかったんですか?」
作品名:寿命神話 作家名:森本晃次