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寿命神話

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 そうなると、どのような捜査が行われていたのかを公表しなければいかず、それは秘密裏にせっかく捜査してきたことが水の泡になってしまうということであり、さらにそのやり方が、常軌を逸していることも公表しなければいけない。
 公安が扱っている捜査は、相手は一般の人間ではない。国家にとってその存在を危ぶませるほどの組織を相手にしているのだ。
 そんな組織を相手にするのに、通り一遍の捜査では賄えるわけはない。当然、警察で決められた捜査方法をかなりのレベルで逸脱している。
 こんな捜査ができるのは、警察だけの力では無理だろう。当然、政界や財界の力が働いている。
 ということは、宗教団体が転身している芸能界に捜査のメスを入れるということは、裏で暗躍している政界や財界の、
「代理戦争」
 の様相を呈していることになる。
 二十年前の事件が起こってから、警察組織の強化が必要ということで、国家予算の警察組織への大幅な増援は不可欠となった。
 国会でも国家予算委員会で、警察組織への予算増加は、満場一致で可決された。もちろんその時に、宗教団体への弾圧とも思えるような法案が次々と可決されたのも当然のことであり、
「宗教団体の行動は、国家転覆をも目論むものだ」
 と位置付けられ、宗教団体独自の法律が設立もされた。
 パソコン業界へ進出した元宗教団体が、完全に宗教団体と手を切っているのに対して、芸能界へ進出した団体は、
「元の状態への復帰」
 を目論んでいた。
 とは言っても、規制の中での行動となるので、今までのようにはいかないだろうが、それでも、市民権の復活は彼らの絶対的使命とされた。
 そのためには、どんなことでもやるという過激な連中も中にはいて、彼らが裏で暗躍するダークな部分を受け持った。
 特に政界、財界とのパイプを強固にする役目が多かった。
 だが、それ以外の構成員も、考え方は似たり寄ったりだった。
 構成員の中には、元暴力団の構成員だった人もいて、警察や世間に対して、
「反社会的な行為を行うことに対して、何とも思わない」
 と考えている人も多かった。
 特に自分のところのタレントを、人間と思って扱っていない。
 表向きは、タレントを大切にして、自分は裏方の目立たないマネージャーを装っていたが、その実は、自分の担当タレントを自分のものとして蹂躙し、
「言うことを聞かなければ、どうなっても知らない」
 と、脅迫のネタをいくつも用意して、逃げられないようにしていた。
 公安も、こちらの方の、非人道的な犯罪にも目を光らせているが、あまり細かいところに目を向けてしまうと、大義がおろそかになり、せっかくの捜査が水泡に帰することを恐れていたのだ。
 発見された腐乱死体の中には、そのタレントもいた。
 そのタレントは、当時二十歳の女の子で、そこそこ売れていたはずなのに、いきなり失踪し、行方をくらませていた。
 ファンの間では、
「だんだん顔色が悪くなっていて、最初の頃のような輝きがなくなっていたもんな」
 と分析している人が多く、その意見が主流を占めていた。
「でも、失踪してしまうほど、思い詰めていたなんて思わなかったな」
 という意見も多く、失踪に対して、いくつかの憶測が飛んだ。
 当時としては、ワイドショーでも毎日のように取り上げられたが、急に何も言わなくなった。
 捜査が進展しなかったことがその理由で、要するに、報道するネタがなくなってしまったのだ。
 ウワサなんてそんなもので、ワイドショーで騒がれた分、騒がれなくなれば、元々彼女を推していたファンも離れていった。
 彼女は忘れられた存在になってしまったのだ。
 そんな彼女の消息は依然として知られることはなく、生きているのか死んでいるのか分からなかった。
 しかし、今回死体が腐乱していたと言っても発見されたことで、事情が少し変わってしまった。
 どうして彼女の身元が分かったのかというと、警察に彼女の指紋が残っていたからだ。
 死体が発見される五年前、万引き事件があり、その時の犯人として彼女の指紋が残っていたのだ。
 彼女は本名と芸名が違っていたことや、その時の彼女の変わりようは、アイドル時代とはまったく違っていて、もし彼女のファンであったとしても、まず分かることはなかったに違いない。
 彼女の生存が確認されたのは、芸能界から失踪してからその時が最初で最後になった。
 万引きの時に身元引受人になった男がいたが、今回の死体発見で再調査が行われたが、その男はすでにこの世にはいなかった。彼女の身元引受人になってから数年後、病気で死んだということだった。
 もちろんウラを取ったが、間違いのない事実だった。
「身元引受人から、彼女の当時の背後を探るのは無理だったですね」
 新米刑事は山内にそう言ったが、その時は、彼女の死体が腐乱したことで発見されたことと、芸能界との結びつきが分かっていない時だった。
 そんな状況を打破してくれたのが、麻衣だったのだ。
 離宮公園でデートした時、麻衣はニュースで変死体が発見されたことを知っていた。
 ニュースと言っても、それほど大きく扱われたわけではなかったが、新聞には身元の一人が彼女であることを公表していた。
 ただ、その記事だけではまだ彼女と芸能界を結びつけるものはなかったし、山内もそれ以外にも事件を抱えていたことで、彼女の過去を捜査するまでには至っていなかった。
 もっとも、その頃は彼女の過去がどんなものであるかということが、今回の事件に大きな関りがあるなど、考えてもいなかった。
 そんな状態でのデートは、山内にとって絶好の気分転換だと思っていた。
 いろいろな事件が多発していたが、それほど大きなものはなく、地道な捜査で一つ一つ解決に導くという毎日だった。
 退屈な毎日よりもメリハリはあったが、どこか消化不良に思っていることがあった。それが腐乱状態で発見された死体に対しての意識であり、頭の中での引っかかりでもあったのだ。
「山内さんは、ここで発見された変死体の捜査にも関わっているんですか?」
 と言われて、ビックリした。
 彼女の口から自分の仕事の話が出てくるとは思わなかったからで、麻衣がこの事件に対して、何か気になることがあるのだろうと察した。
「ええ、関わっていますけど、まだ身元もハッキリしていない状態の人が多いので、まだまだこれからですよ」
 というと、
「今回発見された変死体のうち、一人の女性の身元が分かったって書いてましたよね。あれって、元アイドルじゃないんですか?」
 と聞かれてハッとした。
「アイドル? いつ頃のアイドルなんだい?」
「あれは十五年くらい前のアイドルだと思うんですよ。私はまだ中学生の頃で、アイドルに憧れていた時期でもあったので、名前を見てピンと来たんですよ」
「そうだったんだね」
「どうして、彼女だけ身元が分かったんですか?」
「以前に万引き事件があって、警察に指紋が残っていたんですよ。それと照合して身元が分かりました」
作品名:寿命神話 作家名:森本晃次