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寿命神話

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 発見された変死体の身元は、今回も相変わらず簡単に分かるものではなかった。しかしいずれあることがきっかけで分かることになるのだが、やはり紀元研究会が、今度の事件に深く関わっているという考えは、グレーよりも真っ黒に近かったのだ。

                 武藤部長の訪問

 山内が初めて麻衣とデートをしたのは、ジャーナリストと話をしてから、今回の変死体が発見されるまでの間だった。最初に連絡を入れたのは、麻衣の方からで、さすがに山内の方から連絡を入れるのは恥ずかしかった。山内にとって度胸と恥じらいとは別のところにあるようで、恥ずかしさが先に走ると、度胸などまったく影に隠れてしまうのだった。
 麻衣がデートに誘ったのは、離宮公園というところで、その中には、綺麗な庭園や噴水、小さな動物園や植物園、さらには森のようになったところに囲まれた池があり、その奥に西洋の宮殿が聳えていたのだ。
 山内は、以前にもこの場所に来たことがあった。
 遊びに来たわけではなく、捜査に来たのだが、そこで発見されたのが、前回重なった変死体の一体だった。
 その時のことを、山内は思い出していた。
 その時に発見された変死体は全部で八体だった。毎月のように発見されたが、それらの遺体の特徴としては、まず争った跡がない。そして、彼らには自殺をする動機もない。そして、薬物が使用された形跡がない。それは睡眠薬も服用したというわけでもないということだ。十年前の事件では、全員が毒殺されていたというのがハッキリしていたのに、今回は、その形跡はない。
 もう一つ気になるのは、彼らの遺体がどうしてこんなに腐乱しているかということだった。そして、腐乱はしていたが、死亡時期というのは、発見された時がバラバラだというのに、調べてみると、皆同じ頃に発見されたことになるということだった。
 このことは、その後に腐乱死体が数体発見されなければ分からなかったことなので、この時には、共通点として分かっていなかったことだった。
 確かに後になって発見された数体の死体すべてを解剖してみると、それぞれの死亡時期は異なっていた。さすが監察医、これだけ腐乱しているのに、所見しただけで分かってしまうのは、神業に近かった。
「神業? そんなことはないさ。死体にだってモノを言わないだけで、表現があるのさ。そうじゃなければ、自分たちのような商売は成り立たない。当然警察の捜査にも限界があり、すべてが憶測だけになり、科学的にも医学的にも根拠がなければ、物的証拠しかないことになる。そうなると、刑事さんの方でも、検挙率というのは、かなり下がるんじゃないのかい?」
「ええ、その通りです。僕たちも感謝しているんですよ。それだけ時代が変わったとでもいうんでしょうか。昔の刑事ドラマのような時代は、本当にカビの生えた時代遅れでしかないのかも知れませんね」
 というと、自分で言いながらも照れ臭かった。今でこそほとんど昔気質の捜査をする刑事はいなくなったが、十年前であれば、まだ残っていた。捜査から取り残されている人たちを見て、一部の口の悪い連中は、
「ガラケー」
 と呼んでいた。
 スマホについてこれない時代遅れの携帯電話を、悪意はないのだろうが、
「ガラケー」
 と呼ぶ。
 本当は、
「ガラパゴス携帯」の意味、実際には素晴らしい自然を有しながら、孤立してしまってとり残されたガラパゴス島をイメージした風刺言葉なのだが、昔気質の刑事も、同じ感覚で読んでいた。これはバカにしているというよりも、敬意を表しての意味の方が本当は強かったのだが、敬意を表してそう表現している人がどれだけいるというのだろう。不思議なものだった。
「ガラパゴス刑事」
 まさしくガラケーである。
 山内はそんなことを想像していると、宗教団体に対して、自分たちが抱いていたイメージが昔のままであることに気が付いた。
――本当は、宗教団体ほど、科学的なことには敏感なのではないだろうか?
 と感じた。
 そして、さらには、
――宗教を隠れ蓑にすれば、昔からのイメージで見てくれるだろうから、目をくらますことができる――
 と思っているのではないか。
 そう思うと、二十年前のスポークスマンが、自分が出ていくことで時間稼ぎをしていたのを思い出した。今回の事件にも、何か時間稼ぎが含まれているのではないかという嫌疑すら思わせた。
 宗教団体の中にはパソコン業界に参入し、生き残ることに成功しているという話を前述したが、現在では、まったく元の宗教団体とは無縁で、元いた信者はすでに離れてしまっていた。宗教団体としての生き残りではなく、まったく違う会社として生まれ変わったと言った方がいいだろう。
 二十年前の事件は、社会問題を引き起こしたことで、事件にまったく関係のない宗教団体までも巻き込んだ。一番大きなことは、それまである程度寛大だった宗教団体への規制が強まったことである。
 それ以降、新しい宗教法人の設立は、ほぼ不可能になった。よほどバックに大きな企業などのスポンサーが控えてなければ、設立にはおぼつかない。大手企業の方も敢えて社会問題になりかねない宗教団体を抱え込むようなことをするはずもない。
 また、既存の宗教団体に対しての規制も極めて厳しくなった。
 完全な開放型でなければいけなくなり、国家機関として、
「宗教規制委員会」
 なるものが設立され、定期的な監査が必要となったことで、経理面はもちろんのこと、法人としての企業理念をハッキリさせ、その目的達成に対しての努力が見られなければ、粛清される運命にあった。
 ただ、表向きは憲法で思想、宗教の自由が認められていることもあって、宗教団体がなくなるということはなかった。それでも徐々に宗教団体は減っていく傾向にあり、少なくとも水面下で何かを暗躍することは不可能になった。何しろ、公安g絶えず目を光らせていたからだ。
 宗教団体の中にはパソコン業界に進出しただけではなく、芸能界にも進出していた。
 この企業は、パソコン業界に進出した企業とは少し事情が違っていて、大切なのは、
「人脈」
 だったのだ。
 芸能界というと、どうしても華やかな世界であり、政界や財界とのパイプが不可欠だ。しかし、一旦パイプを結んでしまうと、そのパイプは強いものだった。どちらも手放したくないという思いから、結束は厚いもので、それだけに秘密主義が発生し、どちらも外部へ秘密が漏洩することに危機感を覚えていた。
 この結束は、公安と言えども、なかなか突破することはできない。下手に手を出してしまうと、公安の捜査員が秘密裏に消されたり、身元不明の死体が発見され、実際に調査すると、公安の人間であることが判明することがあった。
 しかし、この判明は警察内部のみで処理されて、一般的には、
「身元不明の死体」
 という形で処理されるしかなかった。
 なぜなら、公安の人間が死体で上がったということが公になると、世間が騒ぎ出す。そもそも、公安には秘密にしなければいけない捜査がいっぱいあり、公安の人間の死体が発見されたということは、明らかに、
「組織に消された」
 と考えていいだろう。
作品名:寿命神話 作家名:森本晃次