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寿命神話

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 という質問をした時に見せたあの態度、いかにも、そんなことはないと口では言いながら、軽く笑って見せたところなど、どこかわざとらしい。誰の目にもそのわざとらしさが感じられるということは、みえみえの芝居をしているように思わせるには一番だ。
 もし、それが芝居であるなら、カマを掛けたことが事実ということになる。
 山内は、内通者から、
「立ち入った話はしないでほしい」
 と言われたが、それは、
――立ち入った話を聞いても、彼は何も知らない――
 ということなのか、それとも、
――彼は知っているけど、話そうとはしない――
 ということなのだろう。
 後者であれば、
――話をしてしまって、秘密をばらしたことで、今度は自分がばらされてしまう――
 という恐れもあるから、聞かない方がいいと言われた可能性は否定できない。
 それでは、二十年前の社会問題と同じではないか。そう思ったことで、慌てていろいろなことを聞かないようにした。変死体の多いことを口にしなかったのは、正解だったかも知れない。
 それから山内は、そのジャーナリストと会うことはなかったが、彼の表情の中で、カマを掛けた時に見せた笑った顔が、しばらく忘れられなかった。
 山内がジャーナリストから、何ら情報を得ることができなかった次の日、また変死体が数体見つかった。
「そういえば、最近変死体が見つかっていなかったですね」
 と後輩の刑事が山内に言った。
 彼はまだ刑事になってそんなに経っていないこともあって、目の前の事件に当たるのに精いっぱいで、少なくなってきて、最近ではほとんど発見されなくなった変死体のことなど、きっと頭の中にはなかったに違いない。
――そうじゃないと、そういえばなんて言葉が口から出てくるわけもないしな。まあ。それもしょうがないことだな――
 と、新米刑事に対して大目に見ようと考えていた。
 今度の死体は、五体が発見されたというが、同じ場所で発見された。その場所は誰もが立ち入ることのできる場所で、発見されるのは時間の問題だったのだろう。
 つまりは、前日にはなかったということを意味している。したがって、その五体の変死体は、誰かが何かの目的をもって、その場所に遺棄したということになる。まだ死体を見たわけではない山内だったが、それくらいのことは見当がついた。
 だが、横にいる新米刑事はどうだろう?
 変死体というと、普通考えれば、自殺を思い浮かべるが、集団自殺でもあったのかと思っているかも知れない。最近ではネットで一緒に死んでくれる人を募集するものもあるというが、自殺募集サイトの画面でも思い浮かべているのではないだろうか。
 実際に死体を見ると、山内の考えが正しかったことは明白だった。
「なんだこの死体。完全に腐乱しているじゃないか」
 と言って新米刑事は驚いている。
 山内刑事は十年前の事件を知っているだけに、こんなことではないだろうかと、最初から感じていたので、それほど驚きはしなかった。
 だが、それよりも、十年前とまったく同じ現象だということが気になっていた。
――ということは、ここで事件を解決しておかなければ、今後も続く恐れがあるということか――
 十年前に解決できなかった事件と酷似した事件が起こった。近年であれば、何かの目的を持っての連続犯罪か、模倣なのか、すぐに判明するだろうが、十年も経ってしまっていると、どちらも可能性は極めて低いが、それ以外には考えられない。判断も難しいところである。
 監察医が腐乱具合を見て、
「う〜ん」
 と、頭をひねっていた。
「どうしたんですか?」
 と訊ねてみると、監察医はおかしなことを言いだした。
「これは実際に解剖してみないと分かりませんが、どうも、全員の死亡推定日は違っているように思えるんですよ」
「こんなに腐乱していても分かるんですか?」
「ええ、腐乱していると言っても、これは死んでから腐乱したんではなく、生きている間にこんな風になってしまったんではないかと思えるんですよ。つまりは、最初に腐乱し始めた時は生きていて、死んでからその腐乱が進行したというべきでしょうか?」
「そんなことがありえるんですか?」
「普通は考えられません。だから余計に気になるんですが、腐乱具合だけに気を取られていると、まるで一気に寿命まで年を取ってしまったような感じに見えますね」
「それって、まるで浦島太郎の玉手箱のような話じゃないですか?」
「そうですね。何かの辻褄合わせなのか、次元が違っているのか、まるでSFのようなお話になってしまいます」
「医者の立場で、それを認めちゃっていいんですか?」
 新米刑事が茶化すように言った。
 すると、監察医は一瞬ムッとした表情になったが、すぐに気を取り直して、
「いや、状況だけを見ると、そうとしか表現できないというだけですよ」
 と、答えた。
 内心では、ムカついているのかも知れないが、新米刑事の茶化しに対し、まともに相手にするのも疲れるだけだと思ったのではないだろうか。
 遺体発見現場では怪しいと思われたことが、解剖されるとハッキリしてきた。
「やはり、それぞれの遺体は、死亡時期は違っていますね。一番古いものは二年前くらいで、一番新しいものは、数か月前です。またこれも不思議なんですが、一番古いはずの二年前の遺体なんですが、腐乱状況は、二年も経っているとは思えないほど、綺麗なんですよ。腐乱はしているのに、どこかでその腐乱が止まってしまったとしか思えないんですよ」
「それは、人の手が加わって、腐乱状況が遅れたというんじゃないんですか?」
「いや、二年も経っていれば、顔など見れたものではないはずなのに、特徴は残っている。しかも、身体のすべてが同じ時期に死んだものとは思えないようなところもあるんです」
「というと、殺しておいて、身体を切断し、また元に戻したとでも言いたげな感じですね」
「いえいえ、そんなことをすれば、見ればすぐに分かるでしょう。接合した後があるはずだからですね。しかも、いくら接合したとはいえ、一旦切り離したのであれば、どんなに綺麗にやっても、切断部分から腐乱が始まるはずなんですよ。その気配はないですからね」
「とにかく、科学的に診断すればするほど、分からないことが明るみになってくるというわけですか?」
「そういうことになりますね。私もずっとこの仕事をしていて、こんなことは初めてです。一人でいるのが怖くなるくらいですよ。普段死体と向き合っているはずのこの私がですね」
「何か、オカルトっぽくなってきましたね。何かの怨霊でも憑りついているいるんでしょうか?」
「私は医学者なので、非科学的なことは認めたくないのですが、世の中には常人がとても想像できないような恐ろしいこともあるんでしょうね。事実は小説よりも奇なりということわざもあるじゃないですか。まさにその通りなんでしょうね」
 オカルトという言葉を自分で言っておきながら、どうしてすぐに宗教団体が思い浮かばなかったのか、自分でも不思議だった。内通者まで入り込ませて紀元研究会を探ろうとしたのが何のためだったのか、今回の変死体の発見が、さらに頭の中を混乱させる結果になった。
作品名:寿命神話 作家名:森本晃次