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寿命神話

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「ということになると、結構、相手は頭のいい連中が揃っていることになる。向こうは頭脳集団だという意識を持っていないと、気が付けば洗脳されていたということにならないようにしないとな」
「ええ、分かっています。それについても、別にここではプロパガンダが行われているようなこともない。教祖というのが別に存在するわけではないんですよ。代表はいても、まるで民主主義のように、定期的に入れ替わる。ただ、一般の人には決める権利はない。独裁ではないように見えるけど、分からないことが多すぎて、漠然としすぎているんですね」
「オープンな環境なんじゃないのかい?」
「ええ、オープンなところは比較的多いんですが、それだけにどこまでが真実なのか、その規模まで分かりかねるところがあるんです。大きすぎて見えてこないというのなら分かるんですが、そんなに大きくは思えない。たぶん、端に行くほど、ここはハッキリと見えないようなそんな仕掛けになっているのかも知れません」
「それこそ、洗脳されているんじゃないのか?」
「中に入ったために見えなくなったこともあるかも知れないとは思っています。まだまだここには得体の知れない何かが蠢いているような気がします」
「気を付けるんだぞ」
「ええ」
 内通者である彼は、家族をこの団体に取られたと思っている。
 この団体に入信するという置手紙を残して。。高校生だった内通者の前から姿を消した。
 彼は、親の捜索を含めて、山内の内通者になったのだ。入信して半年経つが、親の行方は依然として知れることはなかった。
――すでに死んでいるのかも知れない――
 最悪の結果が頭をよぎる。
 下手なことを考えないようにしようと思えば思うほど、余計な焦りを生んでしまいそうになっていた。
 だが、その焦りこそ、山内の狙い目だった。まともな目では見えてこないものも、焦りを抱いている人が見れば見えてくるものもあると思ったからだ。しかし、下手な動きをしないように制することのできる人間だということを分かっているからこそ、内通者に選んだのだ。
 やまうちは、ある程度までの推理はできていた。十年前の変死体は間違いなく、この団体の仕業だった。
 十年前は、創生会という名前だったが、今では紀元研究会と呼んでいる。およそ宗教団体と思えない名前だが、基本は人間で、その紀元に焦点を置いている。ここでは「起源」という字ではなく「紀元」と書く。ここには、人間の原点は文明であり、他の動物にはない人間の特性を追求することが、この団体の形成理念であった。それが、名前を変更した最大の理由だったという。
 ただ十年前の変死体の半分近くは、のちの捜査で身元が分かった。そのすべては行方不明者として、捜索願が出ていた。残りの変死体の身元が分からなかった理由の一つは、今回発見された変死体のように、腐敗がひどかったからだ。
 十年前に腐敗の酷かった死体が最初に発見され、しばらくしてから、のちの捜査で身元が分かった変死体が発見された。腐敗のひどさが印象的だったこともあって、当時は同じ変死体でも、最初に発見された変死体と、後から発見された変死体とでは、まったく違った線から捜査された。しばらく経ってしまったことで、捜査本部も違うチームが担当し、警察の悪い癖として、お互いの縄張りを冒すことのないようにしていたことで、繋がりはまったく感じられなかった。
 しかし、十年経ってしまうと、その時のしばらくという時間の感覚は、あってないようなものに感じられる。それだけ腐乱死体とその後の変死体とを結びつけて考えるという思いも生まれてきたのだ。
 ただ、すでにどちらも迷宮入りとなってしまったことで、事件を口にする人はいなくなった。口にすること自体がタブーであるかのようで、気に病んでいる人がいたとしても、日々、起こっている事件を追いかけるだけで精一杯な状態で、すでに風化してしまった事件を掘り起こそうとする人は誰もいなかった。
 しかし、今回十年前と類似した、
「腐乱の激しい変死体」
 が発見されたので、初めて思い出した人もいるだろう。
 ただ、山内は違った。
 この事件は彼の中で、トラウマのようになっていた。それは、迷宮入りになってしまったということ以外に、事件の異様性からか、似たような事件が忘れた頃に起こるのではないかという漠然とした思いを抱いていたからである。
 しかし、まさか本当に起こってしまったのを目の当たりにしてしまうと、すぐに十年前の事件を口にするのが怖かった。頭では描いていたとしても、そのことを口にしてしまうことで自分から開けてはいけない「パンドラの匣」を開けてしまいそうで嫌だったのだ。
 十年前の事件で、二つの変死体集中事件が繋がっているかも知れないと考えた人はいたかも知れないが、どちらも迷宮入りになってしまい、関係者の頭の中から消えていくにつれて、繋がっていると思っている人も少なくなった。
「もう、どっちでもいい」
 と思うようになったのだ。
 山内は、今回の事件を追いかけながら、実は十年前の事件に首を突っ込んでしまったことに対し、少し後悔していた。
 やはり思いの中に、
――「パンドラの匣」を開けてしまった――
 という思いがあるからで、目の前の事件が自分の中で宙に浮いてしまっているのを感じていた。
 何しろ十年も経っているのだ。同じような死体だとはいえ、その二つを結びつけて考えるのは、少し無謀かも知れない。ただ、十年前の腐乱が激しくなかった方の事件で判明した身元の人を調査していると、どこかで当時の「創生会」と繋がっていることが分かった。
 山内は腐乱死体の方の捜査員だったので、こちらの事件はウワサでしか聞いたことはなかった。捜査の手は当然「創生会」に入ったが、決定的な証拠も何もないので、団体と行方不明者との関係性すら判明することができなかった。
 身元が分かっているのに迷宮入りになってしまったのは「創生会」があまりにも壁が強固であり、警察の捜査にも限界があった。
 さらに、どうやら上層部に圧力がかかったようで、捜査は完全に立ち消えになった。
 そもそも、変死体ということであり、殺害されたわけではなかったので、殺人事件ほど徹底的な捜査をしなければいけない必要性はない。社会通念上、影響が大きかったのは間違いないが、上からの捜査打ち切り命令に逆らうこともできない。腐乱が激しかった変死体を捜査していた山内の方も行き詰ってしまい、両方ともほぼ同じくらいの時期に捜査が打ち切られたのだ。そのせいもあって、二つの事件は同じランクに位置付けられ、一緒に捜査されたのだと後から入った警察官が思い込んでしまったとしても無理もないことだった。やはり、警察としては汚点を残した事件であり、警察組織のトラウマになってしまったのだろう。
 そんな「創生会」が団体名を「紀元研究会」に変えたのは、今から五年ほど前のことだった。
「創生会」に関しては、公安が目を光らせていたが、団体名を変えたことに関しては公安の方でも、
「なぜ今団体名を変更したんだ?」
 別に内部が何か変わったわけではない。
作品名:寿命神話 作家名:森本晃次