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記憶の十字架

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 その時、ユキのお姉さんを想像してみた。
 冷静沈着で、物動じしない。ただ、まわりのことに気を遣うことはない。それが家族であっても同じこと……。
 そこまで考えた時、フッと感じたのが、
――家族だからこそ、気を遣わないのかも知れない――
 遠慮しないというよりも、家族であろうと、他人と差別することなく、絶えず自分が中心だという考え方だ。
 どうして、分かるかといえば、
――それは、自分も同じだ――
 と思ったからだ。
 森山も、家族だからと言って、他人と差別することはない。絶えず自分中心だからだ。
 ユキの話を聞いていて、ユキの姉に、自分と同じものを感じていた。
 森山は、自分中心の考えを悪いことだとは思っていない。
――自分を犠牲にしてまで、人に尽くす――
 というのが美学のように言われているが、それがすべてではない。
 森山は、一つのことに対して得た結論が、他のことにまですべて影響してくるという考えは嫌いだった。それは人間同士の繋がりにも言えることで、
「一人の人に通用することが、他の人にも通用するとは限らない」
 と言っている人でも、ついつい、自分の型に嵌めようとしてしまうところがある。
 特に家族間では言えることではないだろうか。
 兄弟がいれば、
「上の子に通用することは、下の子にも通用する」
 と親は思っているだろう。
 確かに兄弟なら、似た性格であるかも知れないが、実際には正反対であったり、まったく違ったりする場合も少なくない。頭では分かっているのに、一度の成功に味をしめてしまうと、誤った道を選んでしまうことが往々にしてある。
 そもそも、最初の子供に対しても、成功したと断言できるのだろうか?
 結局は、自分の目から見た裁量でしか、物事を測れないのだ。
 ユキは、自分の姉とどのように接してきたのか分からないが、姉に対して、あまりいいイメージを持っていないことを知ってから、あんな夢を見てしまったのかも知れない。
 ユキの中にある記憶を垣間見た時、
――普段のユキではない意識が存在している――
 と最初に感じたのは、姉に対しての意識だったが、次第に、姉に対しての意識とは違う意識を感じるようになっていった。
 それが、睦月の中にあった記憶なのではないかと思ったのは、睦月が二十歳にこだわったからだった。
「私、二十歳になるまで結婚は考えていないの」
 と、言った時だった。
 だから、交通事故から目を覚ました睦月が、記憶を失っていることをいいことに、
「年が明けたら結婚の約束をしていた」
 と言ってみたのだ。
 二十歳にこだわっていたはずの睦月は、どこかに行ってしまっていた。
 ちょうど睦月が、交通事故に遭う少し前頃になってから、ユキがやたらと、
――大人のオンナ――
 に対して意識するようになっていた。
 それは、睦月が二十歳を意識している時に話をしていたのと同じ感覚で、ユキと話をしているのに、まるで目の前にいるのが、睦月のような錯覚に陥っていたのだ。
――あの時夢に見た、後ろから覗いていた女性を、ユキの姉だと思っていたけど、本当は睦月だったのかも知れない――
 夢で会った人が誰だったのか、夢を忘れてしまっていても、そのことだけは覚えていることが多かったにも関わらず、顔を見たのかどうかすら、覚えていない。後ろを振り向いたという意識はないのだから、顔を見たということはありえないのだろうが、
――本当は見ていたのに、見ていないと思いこんでいるだけなのかも知れない――
 と感じるのだった。
 森山はユキが、
「私は、まだまだ子供でいたい」
 と言っていたにも関わらず、途中から急に、大人のオンナを意識し始めた理由が分からなかった。ただ、
「お姉さんは、私から逃げるために結婚したくせに、結局、自分の運命からは逃れることはできないのよ」
 と、言っていたことが気になっていた。
 誰かを好きになるから結婚するというのなら分かるが、誰かから逃げるために結婚するというのは、森山には分からなかった。だが、森山は今睦月との結婚を考えている自分が、結婚の意義について確固たる理由を持っているようには思えない。
――ひょっとすると、私も何かから逃げるために結婚を思い立ったのかも知れない――
 森山はそう考えると、
――まさか、ユキから逃れようと思っているのではないか?
 少なくとも、ユキはそう思うかも知れない。
 ユキは森山が睦月との結婚を決意したという話を聞いた時、抗う様子は一切なかった。
「そうなんだ。お兄ちゃんも結婚しちゃうんだ」
 と、少し寂しそうではあったが、それも森山の想定内のことだったので、別に驚くことではなかった。
 ただ、気になるのは、
「お兄ちゃんは」
 と言ったわけではなく、
「お兄ちゃんも」
 という言葉を発したところだった。
――他に誰か、自分に関係のある人が結婚したということなのか?
 と、その時にそう思うべきだったが、その時は普通に聞き逃してしまった。それが、ユキの姉だということに気が付いたのは、ユキの口から、姉が結婚した理由について聞いた時だった。
 森山はユキのことを、妹以上でも妹以下でもないと思っている。
「女性として見たことがないのか?」
 と聞かれたとすれば、
「ない」
 と答えるだろう。
 理由は、
「妹以上でも妹以下でもないからだ」
 と、答えるに違いない。
 しかし、妹という言葉は、実に都合のいい言葉である。もし、相手を女性として見ていたとしても、そのことをまだ悟られたくないと思う時に使える。それは、言い訳ではなく、正当な理由に聞こえると森山は解釈していたが、それが、
――都合のいい言葉――
 という認識がないからだった。
――実際に妹として意識しているのだから、間違いではない――
 森山は、相手がユキだから、都合のいい言葉だという認識がないということに気付かなかった。もし、ユキ以外の女性、たとえば睦月から、
「お兄ちゃん」
 と言って慕われたとして、本当に妹のように思うことができただろうか。きっとできなかったような気がする。
 森山は妹としての定義を自分の中で考えていた。
――わがままを許せてこそ、妹として意識できる――
 この考えは、自分を十分に納得させられるものだった。睦月は時々わがままをいうが、
「分かった」
 と言って、睦月の言うことを聞いてあげることもあるが、きっぱりと否定することもある。
 だが、ユキはなぜか森山に対して、わがままを言ったことはなかった。もし、わがままを言われたならば、
「しょうがないな」
 と、言いながら頭を撫でて、聞いてあげるつもりだった。それこそが、
――ユキが自分の妹だというゆえんだ――
 と思っていたが、一度もユキが自分の望む「妹」としての反応をしてくれないことが大きな不満だった。
――ひょっとすると、睦月との結婚を考えたのは、ユキに本当の妹になってもらいたい――
 という意識があったからだろうか?
 もし、自分が結婚するとなると、ユキは今まで自分にしていた遠慮という壁を自分でぶち壊してくれると思ったのかも知れない。そういう意味で行くと、
――お兄ちゃんが結婚するのも、私から逃げるため――
作品名:記憶の十字架 作家名:森本晃次