小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

交わることのない平行線~堂々巡り③~

INDEX|9ページ/32ページ|

次のページ前のページ
 

 感情にはたくさんの種類があり、人間であれば、成長のスピードは感情の違いごとにさほど差はないものだ。
 しかし、義之サイボーグに関しては、かなり成長に差があった。
 本当は、義之本人が、他の人と違っていたことで、それがサイボーグにも影響したことなのだが、人間というのは、悲しいかな、
「人のことはよく分かっても、自分のことにはなかなか気付かない」
 という生物である。そのことを、義之は「忘れていた」のだ。
 義之は、子供の頃に、そのことを意識し始めて、ずっと意識してきたことだったはずなのに、いざサイボーグを作り始めると、そんな大切なことを忘れてしまったのだ。
 だが、忘れていたと言っても、記憶の方に移動していただけで、その理由をすぐには理解できなかった。
 しかし、
「あの時だ」
 と、義之に感じさせた時があった。
 それは義之が自分の脳の中や考え方をサイボーグに移植した時であり、
「自分がサイボーグに対して、思い入れが激しすぎたからだ」
 と言っても過言ではないだろう。
 サイボーグには、
「俺よりも優秀じゃなければいけないんだ」
 と、言い聞かせていた。
 それは、自分の考えを移植しているからであり、自分の分身だと思っているからこそ、ロボットに対して語り掛けることができた。
 それを聞いてサイボーグは、
「俺は、人間よりも優秀なんだ」
 と思うようになった。
 しかし、彼には、自分が成長するロボットであり、つまりは、まだまだ未完成であるということは分かっていた。それなのに、人間よりも優秀だという考え方を植え込まれてしまっては、自分で自分を理解できなくなる。最初の頃はそのジレンマで、かなり悩んだ時期があった。それを救ってくれたのが、香澄だったのだ。
 彼にとって香澄は、
「好きになった女性」
 というだけではなく、
「自分を悩みから救ってくれた女性」
 というニュアンスもあった。だから、創造主が義之であっても、香澄は何よりも大切な存在になってしまったことを、後悔したりはしなかった。
 彼の成長は、「人間」の成長が基本だった。そういう意味では、
「彼は、人間に近づいている」
 この意味は、サイボーグ本人にも、香澄にも分かっていた。サイボーグが悩んでいるのは、自分が人間に近づいていることにも原因があった。
「俺が人間に近づいていいのだろうか?」
 という思いが、一つ大きく存在した。
 それは、自分の創造主である人間に近づくというのは、自分の存在意義である、
「人間のためになることだ」
 という意識を、迷わせるものだった。
「自分が人間になってしまったら、何を信じて、何を目指せばいいのだろう?」
 という思いに至るからだった。
 そして、もう一つは、
「自分は人間のためになるために生まれてきたが、決して人間が好きではない。このままロボットでいる方がいい」
 と思っていたからだ。
「人間は、支配階級と、支配される階級に分かれ、支配階級の一存で、勝手にこの世を滅ぼしてしまうではないか」
 人間の個性は、なるほど、成長や進歩を呼ぶものだ。自由な風潮の中で、自分たちだけが文明を築き、ここまで生物の中で一番の高等動物として進化してきたのだ。
 しかし、そのためにエゴや妬み、そして自分たちの都合だけで、滅ぼしてしまうのだ。
 もちろん、滅ぼそうと最初から思っている人は誰もいないだろう。なるべくそんな事態にならないように努力しているはずだ。
 それも人間なのだという意味では悪い面ばかりではないが、やはり、悪魔の兵器を開発し、「パンドラの匣」を開けてしまうのも人間なんだ。
――成長するロボット――
 である彼には、おおよそ想像のつくことではなかった。そんな人間に近づいているなど、彼には、悩みでしかなかったのだ。
 香澄が、彼のことを好きになったのは、
「最初は、気になる存在だった」
 という意識が強かったからである。
 出会った時はまさか彼がサイボーグだなどと、信じられるわけもなかった。いつ、最初に彼がサイボーグだと気付いたのかは、曖昧であったが、
――人間だったら、こんなことを言われたら、普通なら、ムッとするはずだ――
 と、思うようなことを、思わず口走ってしまった時、
――しまった――
 と感じたが、後の祭りだった。
 それなのに、彼からは怒りの感情が伝わってこない。ただ、言われたことに、悩んでいるのは分かった。まるで母親に叱られることをやらかした子供が、
「一体僕は何をしたから、お母さんに怒られたんだろう?」
 と、悩むのに似ていた。
――初めて出会った時に感じた彼は、まだまだ子供のような無垢な考え方をしている人だ――
 ということを、香澄は今でも思い出すことができる。
 彼が香澄の前から姿を消した時、最初は、
「一体、どうしてなの?」
 誰に言うともなく、呟いた言葉が、その時の香澄の心境を物語っていた。
 だが、彼がいなくなって数日過ぎれば、少し落ち着いてきた。
「彼はきっと帰ってくる」
 と、香澄は自分に言い聞かせた。
 ただ、その気持ちに根拠があるわけではなかった。もし、根拠があるとしても、裏付けのない根拠であり、彼が帰ってきたとしても、いなくなった理由を突き詰めようとはしないだろう。
――でも、それでいいのかな?
 という思いは半分あった。
――またいなくなったりはしないかしら?
 と感じるはずだからである。
 彼がサイボーグだから、自分が好きになったのだと思っていた。だが、いなくなってしまって、ここまで辛いと、相手が人間だとしても、思うだろうか?
――それもやはり彼がサイボーグだから?
 そう思うと、どこか発想が堂々巡りしてしまいそうだった。
 香澄は自分が寂しい人間であることを知っている。だが、寂しさがそのまま辛さに繋がってしまうとは思っていない。
「寂しいと思っているのは、孤独の中にいることへの錯覚なのかも知れないわ」
 と、感じるようになっていた。
 錯覚というのは、最初に何か思いこみがあって、思いこんだことが違っていた時、
「錯覚だ」
 と感じるものだ。
 しかし、もし、最初に思いこみがなければ錯覚とは言わないのだろうか? 確かに寂しいということを感じたこともあったが、他の人がいう、
「寂しいから、誰かを求めてしまう」
 という感覚とは少し違っているような気がする。
――誰かを求める理由が明確だったことってあったかしら?
 そばに誰かにいてほしいと思う時、自分の話を聞いてもらいたいと思うことがある場合を思い出すことができるが、そんな時、寂しいという感覚になったことはない。一人では堂々巡りを繰り返してしまいそうな気がした時、誰かと話したいと思うのであって、堂々巡りを繰り返すということは、寂しいと感じないほど、一つのことに集中している時であった。
 寂しさの定義は人それぞれで違うのだろうが、彼がいなくなってポッカリと空いてしまった心の隙間をどう表現すればいいのか、香澄は悩んでいた。
 香澄が彼をサイボーグと知りながら好きになったのは、人間の男性が信じられないという思いもあったからだ。