交わることのない平行線~堂々巡り③~
SFチックな「タイムトラベル」であれば、そこまで計算しているものもあるかも知れないが、ほとんどの映画やドラマでは、飛び出した場所について、多くの時間を費やしていない。
ストーリーの中で、さほど重要ではない描写ということであれば仕方がないのだろうが、実際に研究をしている人間からすれば、それではすまないのだ。
タイムマシンには、その計算ができるだけの『頭脳』が必要だ。それを一般的にタイムマシンとして一人乗りのマシンでどこまでできるだろうかと思うのも無理のないことである。
義之サイボーグの行方を義之自身が掴めなかったのは無理もないことだった。義之本人がタイムトラベルを行い、沙織に会いに行った時、ちょうど、未来に戻っていた義之ロボットにすれ違ったのだ。
もし、これがまったく違う人間がタイムトラベルをしているのであれば、タイムマシンが反応するのだろうが、ほぼ同じ感覚を持ったサイボーグがすれ違ったのでは、すれ違ったことすら意識がないのだ。
義之の開発したタイムマシンでは、時間を飛び越える意識を持ったままのトラベルになる。昔から信じられているような、
「気が付けば、違う時代に飛び出していた。その間に時間は掛かっていない」
というものとは違っていた。
タイムマシンを開発する人の中には、この発想を原点にして、
「この感覚を感じることができれば、タイムトラベルは可能だ」
と考えることで、開発に成功した人もいた。義之の場合は、最初から昔から言われているような発想では、タイムマシンを作ることは不可能だと思っていた一人だった。どちらにしても、
「開発されたものの使用目的は同じものである」
と、言えるだろう。
義之サイボーグは、元の時代に戻っても、そこに義之本人がいないことを分かっていた。分かっていての行動だったのだ。
なぜ、それが分かったのかというと、義之サイボーグは、義之が自分を香澄の元に送った理由を成長する過程で分かった。それは、考えてみれば分かることであって、結果から考えるという考え方を義之サイボーグは、自分の得意とするところだと思うようになっていた。 サイボーグは、義之から、
「自分はタイムトラベルができないから、お前に香澄のところに行ってもらう」
と言っていたが、
――それは嘘なんだ――
ということが分かっていた。
沙織に会うために行くという目的のために、香澄を放っておくわけにはいかないからだった。自分にハッキリ言わなかったのは、
「まだ、やつには理解できるまで成長していない」
ということが頭の中にあったからだろう。
実はそれが「予知能力」と同じ効果を生むのだということを知ったことで、サイボーグは「予知能力」を持った沙織をいずれ意識することにもなるのだった。
元の時代に戻ったサイボーグには確かめたいことがあった。
それは、人間の歴史についてである。
人間の歴史として、今一番確認したいことは、未来の人間に埋め込まれている、
「他の人を傷つけてはいけない」
という回路が組み込まれていないことでの、彼女への疑念が、彼がサイボーグであるがゆえに増幅させるのだった。
一種の、
「無限ループ」
に突入したのかも知れない。
このまま香澄のそばにいれば、自分はそのうちに動けなくなってしまうと考えたのだ。
そのため、未来に戻って、未来の人間の頭の中と、それが組み込まれるようになった背景をまず、確認する必要に迫られた。
「本当はこのままずっと香澄と一緒にいたかった」
という思いが後ろ髪を引かせたが、動けなくなるわけにはいかない。
香澄には確かに、
「人を傷つけてはいけない」
という回路は組み込まれていなかった。
「どうしてなんだ? 人間は自分たちロボットとは完全に違うもので、何も組み込まれていない自由な存在だというのか?」
サイボーグは混乱した。
自分たちの回路の中には、人間の中に回路が含まれているということは当然のことであり、だからこそ、人間と一緒に成長できたのだと思っていた。そして、ロボットを造った創造主は本当は人間ではなく神ではないかという思いも、義之サイボーグの中にはあったのだ。
それは、彼が人間でもなく、他のロボットでもないということを示していた。他のロボットは最初から完成品であり、しかも、そのほとんどに、「自分の役目」というものが決まっていて、その通りに動くことが本懐なのだ。しかし、義之サイボーグには、これと言ってハッキリと決まった役目はない。役目というのは、そのロボットの特性を生かした、人間で言えば「生きがい」のようなものである。義之サイボーグには、何かに特化した才能があるわけではない。最初は「未完成」だったものが、成長を遂げることによって、「完成品」となっていく、発展途上ロボットなのだ。そういう意味では彼は他のロボットに比べて自由であり、高度なロボットなのだが、彼にはその意識はない。
「俺には、他のやつらのような特化したものがない中途半端な存在なんだ」
という意識があるだけだった。
彼が過去に行くことになったのも、
「この時代では役に立たないんだ」
という思いが最初にあった。被害妄想なのだが、それは自分がロボットだという意識が人間から比べて、劣っているということをハッキリ理解させているからなのかも知れない。
ただ、自分が成長を続けていることだけは分かっていた。そのうちに、
「他のロボットとは違うんだ」
という思いも、いい意味での優越感であった。この間までの劣等感がウソのようである。彼の成長は、「自分に自信を持たせる」という意味で、大きな効果があった。それは、ロボットの中で、彼が先駆者として成長している証拠に違いなかった。
まず、義之サイボーグは、義之本人がいないことをいいことに、本人の知らない人のいる場所を選んで、調査することにした。義之本人でしか入ることのできない場所にも、彼なら入れる。それだけ義之はサイボーグを精巧に作り上げていた。
大学の図書館でも、関係者以外には入ることのできない場所にも、入ることができた。元々、資格はあっても、ロボット研究に忙しく、なかなか大学の図書館などに近寄ることのなかった義之だ。
「珍しい人が来たものだ」
という程度で、他の人は怪しむことはない。義之はまわりから怪しまれるような人物ではなかった証拠だ。
だが、それは友達が少ないことを示していて、この場合はそれが功を奏したということだろうか。
図書館にも無事に入り込むことができた彼は、そこでまずは、ロボット工学のところへ立ち寄った。
そこには、ロボットの歴史が書かれていたのだが、ロボットはサイボーグが感じていたよりもずっと後になって人間によって開発されたものであることを知る。
そして、ロボットには大いなる期待と、その裏腹に危険性を孕んでいるものだとして両方の面で研究が行なわれていた。
義之が時々、
「諸刃の剣」
作品名:交わることのない平行線~堂々巡り③~ 作家名:森本晃次