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交わることのない平行線~堂々巡り③~

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 そんなところが、自分が感じている、
――人間になんかなりたくない――
 というジレンマを感じているところであり、誰にも相談できない思いを感じている孤独感に苛まれるところだと思っていた。
 ロボットは、人間よりも肉体的には頑丈で優れているが、頭脳としては、絶対に追いつけるものではない。
――創造主よりも、優れるなどという発想こそナンセンスだ――
 という思いも当然で、いくら成長する回路を組み込まれているとはいえ、人間ほどの成長ができるはずもない。
 なぜなら彼らのまわりにいる成長できる手本は、人間しかいないからである。手本は創造主であり、創造主より優れた機能を発揮できるわけがないのだから、当たり前のことである。
――人間が有限なら、ロボットも当然有限である――
 人間のように、考えていることと意識で隔たりがあるというのは、
――理想と現実――
 という言葉に置き換えることができるだろう。
 そういう意味では、考えていることと意識で隔たりを感じないロボットには、いくら意志を持つことができたとしても、そこにあるのは現実だけで、理想というのはありえないことになる。つまりは、
――理想という概念を持っているのは、人間だけだ――
 ということになり、そのことを、人間は分かっていない。いや、気付いてはいるだろう。だからこそ、
――自分たちが一番の高等動物だ――
 という意識があるのだ。
 それに間違いはないだろうが、潜在意識の中で絶対部分になっているのは、自意識過剰なところを導き出す要因になっていることだろう。
 ただ、人間は「絶対」ということに対して信じている人と信じていない人のどちらが多いのだろう? 普通、
――絶対などありえない――
 と思うものなのだろうが、場合によっては、その人にとっての「絶対」もありうるだろう。
 たとえば、同じ親から生まれた子供は、同じ男の子であれば、先に生まれた方が「兄」で、次に生まれた方は「弟」ということになる。これは絶対に変わることはない。それを「絶対」として認識しているかどうか、それはその人の意識次第だ。
――人間に限らず動物は、心臓の鼓動がなくなると、死んでしまう――
 これも絶対のことである。
 ただ、心臓の鼓動など、普段から意識している人はいるだろうか。当たり前のこととして、もし意識はしていても、それは潜在意識の中のことであり、いちいち確認したりすることはない。
「絶対」という感覚は、無意識の中にこそあるのではないだろうか。
 そういう意味では、人間が自分たちのことを、一番の高等動物だと思っているのは潜在意識の中でだけのこと、ただ、それが自意識として溜まってくると、表に出てくることもある。
――人間は他の動物とは違う――
 この発想が、同じ人間の中の種族の中で起こってしまうと、避けられない戦争に突っ走ってしまう。
 それこそ、義之と香澄の間の時代に起こった戦争であった。
 香澄の先祖から、ずっと人間は戦争を繰り返してきたが、それも、最終兵器の存在により、
――最終という意識の存在が「パンドラの匣」を開けることなく、紙一重の平和の均衡を保ってきた――
 それでも紙一重の平和は、恒久なものではなかったのだ。幾度も危機と呼ばれる状態を紙一重で潜り抜けてきたが、タガが一度はずれると、後はズルズルいくだけだ。
「こっちが滅ぶなら、相手もろともだ」
 と言わんばかりの心境は、その時のその状態になった人でなければ分かるはずもない。
 ただ、そんな極限状態で張りつめていた心境が爆発したたった一人の行動が、一気に世界を破滅に追い込む。復興できたのが信じられないほどだが、そこには、未来からやってきた「発達した科学」持参で、復興を手助けした。
「よくパラドックスに触れなかったな」
 と、学者は考えたが、そもそもパラドックスというのも理論だけであって、実際に証明されたわけでもない。
 これこそ「人類にとっての永遠のテーマ」として、ずっと受け継がれていくものなのだろうか。
 未来から来た技術者や、ボランティアの人たちは、考えてみれば当然の行動だ。
 もし、このまま人類が滅亡してしまえば、自分たちの存在もありえないことになる。ただ、未来からの人たちは、全員覚悟の上だろう。未来にも「パラドックス思想」は存在する。いや、思想というよりも、むしろ「神話」というべきであろう。彼らの行動が未来にどのような結果をもたらすか、パラドックスでは説明がつかないことだろう。
 そういう意味で、技術者やボランティアの人たちは、
「俺たちは、自分のいた時代に戻れないかも知れない」
 という覚悟を持ってやってきた。
 それは、
「もし、俺たちがこっちの時代で、歴史上の余計なことをしてしまえば歴史が変わってしまう。つまりパラレルワールドに入りこみ、自分たちが戻るべき時代が『変わってしまっている可能性』がある」
 ということが十分に考えられるからだった。
 彼ら全員がパラドックスの理念を信じ、その発想に伴う結論を、皆それぞれに持っていて、それが覚悟に繋がっている。
 パラドックスの理念を分かっていなければ、自分の時代に帰れなかった時のショックが大きすぎて、精神的に耐えられなくなってしまうだろう。そのまま気が触れてしまうこともあるだろう。そうなって、過去を勝手に変えてしまうと、それこそ、過去の復興の意味もなくなってしまう。
――世界で未曾有の大戦争が起こり、滅び掛けたところを、未来からやってきた人たちが復旧に携わることで、人類は滅びずに済んだ――
 ということを、予知した人がいた。
 それが他ならぬ沙織だった。
 沙織は、自分に予知能力があるのを意識していたが、この発想はさすがに予知能力だとは思わなかった。
 ありえないことではないと思った発想だったが、これを予知能力によって予知したものだとすれば、自らが「パンドラの匣」を開けてしまうような気がして、ありえないことだという発想に変えてしまうしかなかった。
 沙織の予知能力は、他の人から見れば羨ましいものに見えるかも知れないが、本人にとっては頭痛の種であり、自分を困らせるだけのものだった。
 戦争復興のために過去にタイムスリップした人の多くは、犯罪を犯して、刑を軽減するために、止む負えずやってきた人たちだった。覚悟は仕方がない。ただ、その人たちも最初から犯罪を犯そうとして犯したわけではない。香澄の時代であれば、
「情状酌量の余地」
 というものがあるが、未来になると、その発想は薄れていった。
 未曾有の戦争が復興してから新しく生まれた法律は、
「被害者保護」
 の観点から作られている。
 すなわち加害者には、きわめて罪は重い。それは、犯罪を未然に防ぐという役割もあるが、かつての時代のように、
――被害者の遺族の気持ちが反映されない時代――
 それがあったからこそ、人間の心が歪んできたと思われる時代があった。そんな時代を経て、戦争に突入したこともあり、
「新しい時代の法律は、まったく新しい発想から」
 というスローガンが存在し、
「被害者保護」
 という考えが大きく浮上したのだ。