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交わることのない平行線~堂々巡り③~

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「特殊能力は確かに人間の潜在意識の中にあるものだが、それを引き出すことは自分にはできない。かといって、他人にもできない。つまりは、特殊能力を持った人間というのは、自分の子孫が自分の時代にやってきて、その能力を引き出す力を与えることだ。その能力の存在有無を、与える人間が知っているかどうかは、その限りではない」
 と、そんな話が書かれていた。
 つまり、予知能力は、自分だけでは力を発揮できない。自分の子供か、あるいはタイムマシンでやってきた自分の子孫かのどちらかによって引き出されるもののようだ。
――沙織の場合は、俺ということになるのだろうか?
 しかし、沙織の時代に来る前から、沙織には能力があった。
 しかも、一度、先祖のある時代にやってきてしまったら、他の時代に行って、何かの影響を与えるようなことはないという。なぜなら、二度目は、相手から自分を見ることもできないければ、意識することもできないからだ。
 沙織のことを気にしながら、義之は香澄も気になっていた。
 いずれ、二人は一緒になる運命だとは分かっているが、今の時点での二人は、性格が違いすぎる気がした。
 二人の時代の人間から見れば、さほど違いを感じることはないというが、義之には分かった。違う時代の人間だからだろうか。それとも、自分は子孫だという意識があるからだろうか?
 どちらにしても、二人は平行線を描きながら、いずれは交わることになるのである。
 香澄に会った義之本人の第一印象は、
――自分とは、合わないな――
 というものだった。
 この時代の人間とは、
――元々、種類が違う――
 という意識を持っていた。種類というのは、同じ人間であっても、生まれ変わりでもなければ、突然変異というのでもない。
――一度滅んだ種別――
 という意識を持ちながら、心の奥では自分の先祖だと思っている。どちらの気持ちが大きいのか、実際に会ってみて確かめたかった。
 沙織に会ってみて感じたのは、
――やはり自分の先祖だ――
 という意識だった。考えていることが何となく分かるし、話をしていて繋がる話も結構あった。
 だが、それは沙織が三十歳になってのことで、今の香澄が、
――沙織の中に入っている――
 という意識で見ていたからなのかも知れない。
 もし、沙織だけしか意識しない相手だったらどうだろう? いずれ昔の沙織を見に行きたいと思っているが、今は香澄が気になっている。この時代にも沙織はいるはずだが、まだ香澄と知り合っているわけではない。まずは、自分のサイボーグと一緒にいた香澄を見てみることで、サイボーグから得た香澄の印象と、実際に見る香澄の印象がどれほど違っているかが、義之にとって大きな問題であった。
 実際に会ってみた香澄の印象は、サイボーグから送られてきた印象とはかなり違っている。
 サイボーグから送られてきた印象は、
――大人しくてどこか弱弱しいところを感じる。自分がそばについていてあげないと、彼女は精神的にまいってしまう――
 というものだった。
 しかし、実際に会ってみた香澄は、義之本人に対して挑戦的な目をしている。
――この目は、初対面の相手を威嚇するような目だ。確かにこんな挑戦的な目を最初にする人は、精神的にそれほど強い人ではないだろう。それだけ気持ちに余裕がないから、相手を最初に威嚇して自分を鼓舞しようと考えるだろう――
 そう感じた義之だが、香澄には、その奥に、
――他人には絶対に負けない――
 という思いが隠されているのを感じた。
――サイボーグは気付かなかったんだろうか?
 最初は気付かないにしても、途中から気付きそうなものだが、もし、彼女が相手によって態度を変える人ならありえることだが、だとすれば、香澄には自分がこの間まで一緒だったサイボーグとは違うと、瞬時に気付いたことになる。
 長く一緒にいれば、気付くこともあるだろうが、そう簡単に見分けがつくとは思えない。それだけ、義之がこの時代の人間を甘く見ていたからなのか、それとも、香澄という女性を甘く見ていたのか。それとも、香澄自身が、サイボーグに対して、かなりの思い入れがあり、真剣に好きになってしまったということなのか。サイボーグの送ってきたデータには、自分が香澄を好きになったという意識は垣間見えたが、香澄がどう考えているかということを送ってきてはいなかった。本当はそのことが一番知りたかったのに送ってこなかったということは、分からなかったからだというよりも、わざと送らなかったからなのだと、義之は感じていた。
 香澄の目に、母性本能のようなものが芽生えていた。
――分からない――
 香澄は、義之サイボーグがそばにいるのに、彼を好きになった印象は感じるのに、なぜ他の男性と付き合うことになったのだろうか?
 その人は余命いくばくもない状態だったということを、最初から知っていたかどうかが、問題ではないかと義之は感じた。
 もし、そのことを知っていて付き合ったのだとすれば、香澄は自分が悲劇のヒロインになったような気がしているだろう。それはメルヘンの世界の女王様のような憧れに似たもので、実際にその人が死んでしまった時、どのように自分が感じるかなど、考えもしなかったかも知れない。
 だが、もし、好きでもない相手と「同情」で付き合ったのであれば、死んでしまってからしばらくはショックが残るだろうが、ある瞬間を境に、まったく感情が変わってしまうかも知れない。
――冷めた感覚――
 というより、
――冷静さが冷徹さに変わったような感覚――
 と言えるだろう。
――香澄はきっと、彼が死んでから自分がショックを受けることは分かっていただろう。すべて分かっていて受け入れた。そんな彼女が自分が想像していた立場に追い込まれた時、ちょっとでも想像と違えば、その小さなアリの穴から、大きな落とし穴ができてしまう――
 そんな状況を、義之は頭の中に描いていた。
――交わってしまう平行線――
 義之は、遠くに消えて行く二本の線を、ずっと眺めていた。それは、どこまで行っても消えることのない、
――限りなく細い二本の直線――
 だったのだ。
 香澄は、しばらくして自分の前に現れた義之が、ずっと一緒にいてくれたサイボーグとは違っていることを、一瞬にして見抜いた。
 それはきっと香澄にしか分からない何かを感じたからなのかも知れないが、香澄にとっても、自分が分かるのは、義之サイボーグだけだった。義之本人が本当は自分の子孫であり、恋愛感情を抱いてはいけない相手であるということに気付いたわけではなかった。
――ただ、彼とは別人なんだ――
 ということを漠然と感じた。それが、次第に予知能力に繋がっていくことを、香澄は分かっていなかった。沙織の中にある予知能力とは違うものだが、二人が一緒になってから今まで、ずっと描いてきた平行線が、次第に近づいてきた。そのことを強く感じていたのは沙織よりも香澄の方だったのだ。
 香澄は、義之サイボーグと一緒にいる時も、
「近い将来、自分に関係が深くなる女性と知り合うことになると思うの」
 と、話をしていた。