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交わることのない平行線~堂々巡り③~

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「猫など、自分の死が近づいた時、人知れず、一人で死んでいくっていうけど、あの人もそんな感じだったのかしら?」
 と、彼の親戚は話していた。
 彼は自殺だという話だったが、自殺しなくとも、彼はすでに余命が決まっていたという。
 通夜の時、出席した香澄の耳にもいろいろな噂が飛び込んできた。それは、今まで彼と一緒にいて、彼からだけしか話を聞けなかったことで、彼の一部分しか知らなかったことを思い知らされた。
 だが、香澄はそれでもよかった。
「あなたたちの知らない彼を、私だけが知っている。それは、私だけが知らない皆が知っていることよりも、ずっと貴重なことなんだわ」
 と、自分に言い聞かせていた。
 彼が自殺したという話を聞いた時よりも、彼の余命が決まっていたという話を聞かされた時の方が、ショックが大きかった。
「自分の死を知っていたのかしらね?」
「医者からは、告知されていなかったはずよ。でも、自殺するほど思い詰めていたようにはとても見えなかったけどね」
「彼女ができた」
 と言っていたその彼女は、通夜にも葬儀にも出席していなかった。
 彼女というのは、彼とはすぐに別れ、しばらくすると、遠くに引っ越して行ったようだ。なぜ二人が別れたのかというのは分からない。彼からは一切話を聞かされなかったし、まわりからも、その話が伝わってくることはなかった。どうやら、彼と彼女の話はタブーだということが暗黙の了解のようになっていたようだ。
 後から伝わってきた話だったが、彼が自殺を思い立ったのは、彼女の影響があったようだ。
 彼女も以前、自殺を試みたことがあり、その話を彼にしたことがあったという。その話があまりにもリアルで、恐怖を感じた彼は、彼女との別れを決意したということだが、ひょっとすると、その時、彼女は何か彼の余命について、気が付いたところがあったのかも知れない。
 そのことを彼女に聞かされたことで自殺にまで発展したとは、俄かには信じられないが、それが引き金になったのかも知れない。
 ただ、彼が一人静かに、誰にも気付かれないところで死のうと思った気持ちは分からなくもない。
「私も、何だかおかしな気分になってくるわ。『死』というのは、怖くないんだ」
 という気分にさせられたような気がした。感覚がマヒしてしまったとでもいうのだろうか。
「死にたいという気持ちは伝染するのかしら?」
 そういえば、彼と話をした時、そんな本を読んだことがあると言っていたっけ。
 あれは確か、自殺には連鎖反応があり、誰かが自殺すると、まわりの人から、また自殺者が出る。それはまるで伝染病のように、病原菌のようなものがあるからだという話だったように思う。その時香澄は、笑って聞いていたが、本心から笑っていたわけではない。心の中で、
――私は、絶対にそんなことはない――
 と、自問自答していたような気がする。その答えは出てくるわけもなく、気が付けば、堂々巡りを繰り返していた……。

                 第二章 進化する堂々巡り

 義之サイボーグは、図書館で秘蔵の歴史書を見て、大体のことは理解できた。しかし、理解できない部分も少なからずあった。その部分がどうしても繋がってくれないことで、過去に戻る気がしなかった。
 家に戻ってみると、そこに義之自身がいないことを不思議には感じていたが、あまり気にはならなかった。
 義之は、その頃沙織のところに行っていたが、沙織に予知能力が備わっていることは知っていたが、彼女がロボットに興味を持つことまでは想像していなかった。
――これも、一種の予知能力なんだろうか?
 と感じていた。
 香澄先生のことも気にしていたが、香澄先生が死んだことに対して、それほどショックを受けていないように見えたが、それも、沙織の性格なのかも知れない。
 義之本人は、沙織の前から一旦姿を消した。そして、さらに過去に遡り、香澄に会いに行った。その時代は、自分のサイボーグが消えてしばらくした時代で、香澄の彼氏が自殺を図る前だった。
 義之には、香澄の付き合っている男性が、余命いくばくもなく、自殺に追い込まれることは分かっていた。一度だけ香澄に会うことで、香澄の様子を伺いたかった。
「自分が姿を消しても、サイボーグが戻ってくる」
 という計算があったからだ。
 香澄はその頃、彼氏の様子に違和感を感じていた。何がおかしいというのは分からなかったが、ただ、急にソワソワして、何かに怯えている様子が伺えたのだが、何に怯えているのか、想像もつかなかった。
 自分の気になっている相手が、怯えている。しかも、それが何に対してなのか分からない状況に対して、香澄は彼が怯えていることに不安を感じているわけではなく、
――何に怯えているのか?
 ということの方が怖さを感じた。
 相手が何者なのか分からないということほど恐ろしいことはない。それは、自分の未来の人間だからだろう。香澄の時代の人間なら、まずは相手が怯えていることに対して気になってしまう。それだけ、感情移入しやすいからなのだろうが、だからと言って、相手のことを真剣に考えているわけではない。自分に置き換えて考えるのは、香澄の時代の人間も義之の時代の人間も同じなのだが、感情移入してしまうと、冷静さを失ってしまい、
――まずは自分――
 という意識が強くなる。
 しかも、自分が冷静さを失っていることを潜在意識は感じているのだろうが、表に出したくないという思いから、殻に閉じこもってしまう。それが香澄の時代の人間には頻繁に行われている。
 だが、その力は、義之の時代の人間に比べれば微力なものである。隠そうとしても結局、表から見ると丸見えなのだ。自分にも同じようなところがあるにも関わらず、他人のこととなれば、分かってしまう。それは、義之の時代の人間も同じなのだが、それを自分に置き換えて活用できないのが香澄の時代の人間だった。
 香澄の時代の人間は、ロボットを意識することはない。想像はできても、存在しないのだから、意識する必要がないのは無理のないことだ。
――彼らは人間だけを意識していればいいんだ――
 この気持ちは、一人っ子や長男のイメージに似ている。意識するのは同じ人間だという意識があるせいか、
――人間ほど複雑で難しいものはない――
 という意識を持っていない。
 義之の時代の人間は、過去の大戦争を経験しての生き残りなので、人間の恐ろしさを実感している。世代は変わってもその意識は変わらない。
 だから、学校で教える必要もなく、戦争を題材にした書物の検閲もきついのだ。それぞれ潜在意識で嫌というほど意識の中に埋め込まれている。しかも、
「人を傷つけてはいけない」
 などというチップまでもが、人間に埋め込まれているのだ。
 人間の体内にチップなど、普通なら考えられないことだった。「基本的人権」などという言葉は、有名無実となってしまったのだ。
 香澄の時代の人間は、基本的人権はあるが、その安全性という意味では「紙一重」のところがあった。
「いつ、爆発するか分からない」