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安全装置~堂々巡り②~

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 という考えが無意識な中ではあったが、本能的に働いたのかも知れない。
 三十歳代の自分は、まだまだ血気盛んで、女性に対しても普通に好きになれた。もちろんそれはロボットに対してではなく、
「人間の女性」
 に対してであった。
 自分のサイボーグを作るのは、他のサイボーグを作るのとでは、おのずと思い入れも違ってくる。
「他とは違うんだ」
 これは、他人とは違うという感覚と似てはいるが、若干違っていた。ただ、
「他人とは違う自分を作ろうとすると、必然的に人間の自分となるべく同じに作ってしまわなければいけない」
 という思いが頭の中にあった。義之サイボーグは、そういう意味では、
「実によくできたサイボーグ」
 だった。
 だが、
「自分のこととは、自分が一番よく分かっているようで、実は一番知らないところが多い」
 という考えもあった。
 それは、分かっているところが多い反面、分かっているだけに、嫌なところは認めたくないという思いから、本能的に「自己否定」に入ってしまう。
「自己否定」は、元々スポット的な一部分に集中するはずだが、その一点を否定して自分の中から削除すると、悪いなりに、それまで保たれていた均衡が崩れてくる。そうなると、一か所から空いてしまった綻びから、いろいろな場所も否定しないといけない感覚に陥ってしまう。
 そこで、一旦立ち止まることができればいいのだが、悪循環に気付かずに「自己否定」を繰り返していくと、自分のすべてを否定する方向に向かっていることにいずれは気付くだろう。
 しかし、気付いた時にはすでに遅く、自分の何も信じられなくなる。そんな「心の病」が義之の中にもあった。
 ただ、義之は自分の中にもう一つの人格があることを自覚していた。そのもう一つの人格が救ってくれたおかげで、寸でのところで、「心の病」に落ち込まずに済んだのだ。
 だが、もう一つの人格が、その時すぐに表に出てきてくれたわけではなかった。入院までしなければいけない状態になる一歩手前で自分が救われたのだ。
「どうして、すぐに出てきてくれなかったんだ?」
 ともう一つの人格に問い詰めてみた。しかし、もう一つの人格は答えない。もう一つの人格は意識することができても、自分が表にいる以上、彼が表に出てくることはなかった。
「そんなことはないはずだが」
 と、義之には疑問だった。
 そう思って、先祖の日記を見たことを思い出した。
 再度日記を読み返すことで、
「この時代に行って、何とかしないといけないんだ」
 と思った。
 もう一つの人格が最初から出てきてくれなかった原因がそこにあると悟ったのは、日記からだというのが一番の理由だが、
「何かが狂い始めているのかも知れない」
 と、感じたからだ。
 自分が過去に行くことで、さらに狂いを生じさせる危険性があると思った。
「それならば」
 と、自分のサイボーグを作った。
 そのサイボーグには、
「決して誰かを好きになってはいけない」
 という、「スタディ・ダイオード」を組み込んでいた。ロボット工学基本基準に匹敵するくらいの強さにするつもりだったが、どうしてもそこまではできなかった。
 理論的には可能なはずなのに、どうしても義之にはそれを埋め込むことができなかったのだ。
 それでも、かなり強力な「スタディ・ダイオード」なので、サイボーグが人を好きになるとすれば、
「未完成のダイオード」
 だったとしか思えない。
「だが、逆に三十歳代の自分の意識が、『ダイオード』に優先しているのかも知れない」
 と思うと、分からないことない。ミイラ取りがミイラになるのも、無理のないことだった。
「自分のサイボーグが、女性を好きになった」
 という事実にばかり目が行っていたが、実際にはそれだけではなかった。
 一番ビックリしたのは、
「サイボーグの性格が変わってしまった」
 ということだったのだ……。


                 第三章 「人間」と「人類」


「特別症候群」
 という言葉は、昔は言われていた言葉だったようだが、義之の時代では存在しない言葉だった。
 表現を変えて、存在しているのかも知れないが、過去の言葉と今の言葉の変換を掛けても、
「特別症候群」
 という言葉は、義之の時代の言葉とはヒットしなかった。
――ひょっとすると、一回消滅して、再度復活しているのかも知れないな――
 と思った。
 元々、過去に言われていた時も、一部の研究者や学者にしか浸透していなかった言葉だというではないか。義之は、この言葉を沙織の日記の中から発見した。そして、その言葉が何度も出てきたことで、
「この人たちにとって重要な言葉の一つなんだ」
 と、感じていた。
 その言葉の意味を調べるうちに、自分の中にある性格と酷似しているのを感じた。それまでは、
「自分は他の人とは違う」
 という性格が存在していることは分かっていたが、あまり意識しないようにしていた。意識してしまうと、
「どちらが本当の自分なんだ」
 ということを考え始めて、結局、堂々巡りを繰り返すしかないということをウスウス分かっていたからである。
「特別症候群」
 日記に書かれていたこの言葉を示す性格を持っている女性が香澄であるということは、日記を読んでいるうちに分かってきた。
 日記には、香澄が自殺したということ。
 それに対して言い知れぬ不安と、後悔の念が襲い掛かり、堂々巡りを繰り返してしまっている自分に苦悩しているということ。
 堂々巡りを繰り返していたのは、香澄が死んでしまったことを知ってからだと思っていたが、実はそうではなく、もっと以前から感じていたということ。
 それがいつのことなのか分からない。それが自分に対して言い知れぬ不安と、後悔の念となって襲い掛かってくること。
 それがすべて繋がって、結局は堂々巡りになってしまったこと……。
 義之が、日記の中で気にしていた部分はそこだったのだ。
 自分が過去に戻って、自分の先祖に関わることがまずいからと言って、サイボーグだったらいいという根拠はどこにもないが、義之自身が過去に戻って先祖に会うことがまずいという根拠もあるわけではない。
 義之が香澄を見た時、
――自分が香澄と出会ってしまったら、恋愛感情を抱いてしまうのは間違いない――
 と、感じたからだ。
 恋愛感情を抱いてしまえば、過去に留まりたくなる気持ちになるだろう。そうなると、間違いなく歴史は変わってしまう。それだけは避けなければならなかった。
――自分と先祖との間に子供ができたら、一体どうなるのだろう?
 義之が先祖と関わってまずいと思うのは、子供が関わってくる時の思いだった。
――サイボーグなら、恋愛感情を抱くことはない――
 というのが前提だが、もし抱いてしまうと、サイボーグといえども、意志を持てるように設計しているので、なるべく人間に近い形で作られている。恋愛感情を抱かないようには設計してあるので、生殖機能は持っていても、感情がないため、働かないはずである。
――それなのに、恋愛感情を持ってしまった――