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安全装置~堂々巡り②~

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 女性の場合、外出する時は、頭からかぶるフードのように、髪の毛や耳も隠れる形のスーツを身につけているため、なかなか、表を歩いている人が誰なのか、判断が付きにくい。特に人の顔を覚えるのが苦手な義之には、まったく誰だか分からない。
 建物の中にいる時は、フードを外しているので、個性がよく分かる。義之の時代は、香澄の時代と違って社内恋愛が圧倒的に多いのは、そういう理由からだった。
 香澄の時代には、社内恋愛というと、
「破局を迎えると、自分の居場所がなくなる」
 ということもあって、敬遠されがちだった。
 事情を知らない香澄の時代の人が、社内恋愛の多い義之の時代を見れば、羨ましいと思うかも知れない。最初に見た時、
「恋愛に関して、社会は寛大なんだ」
 と、感じるからだ。
 しかし、実際は未曾有の大戦争の時に減少してしまった人口、つまりは労働力の確保が第一だった。確かにロボット研究は進んではいたが、大量生産ができるほど進んではいない。特にロボットやサイボーグに関しては、どうしても、人間のように、
「越えられない壁」
 があるからだった。人間に対しての抑止力が絶対でない限り、ロボットの大量生産は、絶対に無理だった。
 まずは、
「意志を持っても安全なロボットの開発」
 が急務だったのだ。
 社内恋愛が頻繁に行われるようになると、同僚に対しての嫉妬心をあらわにする人も現れる。特に人口比率は男性の方が圧倒的に多いと、女性が優位に感じられるが、そうも行かないところが面白い。
 確かにモテる女性は男性から引っ張りだこなのだろうが、どんなに比率が広がろうとも、モテない女の子は、男性から相手にされないのは変わらない。
「私は、世の中がどうなろうとも、孤立してしまうんだわ」
 という思いが次第に嫉妬心を煽る。
 自分を相手にしてくれない男性に対して、そして、男性をまわりに従える女性に対して、嫉妬心という憎悪を持ってしか見ることのできない自分を最初こそ、浅ましい感覚になっていたが、逃れられない現実や、世の中を斜めに見てしまうと、
「悪いのは自分ではない」
 と思えてくる。
 自分をどのように正当化しようかと考えてしまう。どのように表現しても正当化などできるわけないのだが、最後は男女の比率がすべてであることに行きつくだけだった。
 サイボーグの数は、女性の方が圧倒的に多いのは、仕方がないかも知れない。しかも、サイボーグは人間に従順である。結婚はできるわけではないが、彼女として付き合うことができるだけのサイボーグの開発を望まれているのも事実だった。
 かなり高価なものなので、そう簡単に普通の男性に購入できるものではない。それでも、開発が急がれるのは、サイボーグを風俗に使おうという動きもあるからだ。
 性処理の相手としてサイボーグを利用するというのは、開発者としては気が引けるものだ。だが、一方では、サイボーグを兵器として使用するよりもいいだろうという考えもある。
「それに比べれば、まだマシだ。これも人助けのための開発なのだと思って、自分を納得させよう」
 と義之は考えていた。
 義之は女性のサイボーグばかり作っていたので、義之サイボーグは、今まで開発した中でもレアなタイプであった。しかも、若い頃とは言え、自分のコピーを作ろうというのだから、正直勇気がいることだった。
「もしも、サイボーグが意志を持ったら、俺のことをどう感じるんだろうな」
 と感じた。
 また、それ以上に、ロボットに対して自分がどういう目で見ることになるかということも、まったく想像できることではなかった。
 女性のサイボーグをたくさん作ってきたので、男性から女性を見る目というよりも、女性から男性をどのように見るかということを念頭に置いて開発してきた。
 もちろん、そんな目を簡単に持てるはずもなく、女性ロボットの中に組み込んだ記憶装置から、ありのままを映し出した自分の姿だけを見つめることのできるチップを開発することで、そこから女性の心理を垣間見れるような形が一番いいと思い、実際にロボットが自分を見た目を研究した時、
「これは無意味なことだ」
 と、考えるに至った。
 自分が開発したロボットに自分を見させるということは、ロボットにとって生みの親を評価するようなものだ。本当は従順でなければいけない相手である。ロボットは苦悩を繰り返すことになるのだが、そのことを人間には分からない。
 いや、相手がロボットだから難しいわけではない。
「ロボットであっても、相手は女性だ」
 という意識を持てなかったことが、義之にとって、行き詰った証拠だった。
 創造主が行き詰ったのだから、サイボーグも責任を感じてしまう。
「私が、ご主人様を苦しめている」
 その時、サイボーグが意志を持ったと言えるのかどうか、ハッキリとは分からない。だが、その時、一番近くにいた自分が分かってあげなければいけない時、義之の頭の中は自分のことしかなかったのだ。
 その女性サイボーグは、最後まで義之のそばにいた。サイボーグを「女性ロボット」として見てはいたが、「女性」として見ることはできなかった。
 だが、研究を重ねるごとに、そのサイボーグが、
「人を好きになれる要素を備えている」
 ということに気が付いた。
 しかもその相手は自分である。自分を好きになってくれたロボットとはいえ、女性である。そんなロボットを相手に、研究を続けなければいけない自分に対し、次第にやるせない気持ちが襲ってくる。
「ロボットが人を好きになるなどありえない」
 という思いがあることで、ロボットの気持ちを気のせいだということで自分を納得させようとしている自分を見ていると、
「どっちがロボットなのか、分からなくなってきた」
 と、感じるのだった。
 そんなことがあってから、義之は女性のサイボーグをあまり作らなくなった。一時期女性恐怖症になった時があり、女性を見る目が人間に対してのものなのか、ロボットに対してのものなのか分からなくなった。感覚がマヒしてきたというよりも、まるで女性をバーチャルでしか感じなくなっていた。
「これって数世代前の感覚なのかな?」
 本当の女性を相手にすることができなくなってきていた男性が、ゲームやアニメのキャラクターしか相手にできなくなる現象で、生身の人間よりも、フィギアなどのような人形しか相手にできなくなってしまい、社会問題になったということである。
 女性もそんな男性が増えたことで、男性を偏見の目でしか見なくなる。そんな状態で、純愛などなかなかありえるはずもなく、純愛などという言葉自体が死語になっていた。
 義之の先祖にもそんな時代を乗り越えてきたが、その頃から、
「自分の中にもう一つの人格が存在しているのかも知れない」
 という意識を持った人が現れた。
「俺の人格は、その人から始まったんだ」
 と、ずっと思ってきたが、どうやらそうではなかったようだ。
 それは、沙織の日記を解析した時に分かったもので、過去を何とかしないといけないと思ったのも、その日記のおかげだった。
 その日記に出てきた香澄先生の元に、三十代の自分を送りこもうと思ったことは、今でも間違っていないと思う。