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安全装置~堂々巡り②~

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 ただ、それは近い過去だったりする場合を考えてのことだった。もし、過去に戻って自分に出会った時、どれだけのリスクがあるかということだった。いくら違う時間だとはいえ、同じ次元の自分に会うのだから、何が起こるか分からないと思ったからだ。
「時間が一瞬でも違えば、それは次元が違う世界」
 とも言える。
 むしろ義之は次元が違うという発想の方をかなり大きく持っている。だが、百パーセントではない。そんな不確かな状態で明言できるほど、義之は自分の研究を信じていなかった。
「科学者は孤独だって言われるけど、その通りだよね」
 研究している時は確かに孤独だが、それ以上に、
「百パーセントでなければ、自分の研究を信じられないという発想を持っている限り、自分を信じられないという思いは拭えない。そんな感情は自分のことを孤独だと思っていなければ感じることはないだろう」
 というのが、義之の基本的な考え方だった。
 義之が孤独だと思っていると、必然的に生まれてくるロボットは孤独感を前面に押し出した性格で形成されるものとなってしまう。そんなロボットが大量生産されると思うとゾッとしてしまう。
 義之はロボット研究を個人で行っている。幸いにも、ご先祖からの遺産が、その考えを許すだけ残っていた。もちろん、香澄や沙織の時代には、そんな財産など欠片もなかったが、それだけ時間が経っているということだし、社会的変革も激しかったことを意味している。
 義之には、いろいろ企業から、
「大量生産できるロボットの開発を」
 と、いうオファーがいくつもあった。
「意志を持たないロボットであればいいです」
 という話をしたが、企業側が、
「それでは困る」
 と言ってきた。
 企業側からすれば、管理者と労働者を一緒にしたロボットを運用し、コストを抑えるのがロボット導入の意義なので、意志を持たないというのは承服できなかった。
「じゃあ、この話はなかったことに」
 と、アッサリ答えるその時の義之の表情は冷徹そのものだっただろう。依頼に来た人も、それ以上は何も言えなくなり、すごすごと帰っていくしかなかったのである。
「大量生産なんかしてしまったら、どんな環境になるか、考えただけでも恐ろしい。ここは少々冷徹にしても、相手に引きさがってもらうしかない」
 というのが、義之の考え方だった。
「時間が一瞬でも違えば、そこは次元が違う世界」
 という考えは、ロボット開発を考える前からあった。
 実際には中学時代からあったものであり、SF小説を見て感じたことだったが、そのSF小説には、
「事実なのだが、誰も信じてはもらえないだろう」
 と、最後に書かれていた。他の人ならスルーしてしまうのだろうが、義之にはどうしてもスルーできなかった。むしろ、その言葉があったので、印象深く残っていたと言ってもいいだろう。
 その小説は、先祖のことが書かれていた。
 ご先祖様が病気で亡くなるのだが、ちょうど、その時に脳死した人がいて、その人から、いくつかの臓器移植を受けるという話だった。普通考えられることとしては、拒絶反応の問題があり、適応できるかどうかが大きな問題になるが、恐ろしいくらいに適応した。
 そこで研究者の方が二人に興味を持って、本来なら個人情報として守られるはずの、提供する側とされる側とのプライバシーに入り込むかどうかが問題になった。
 研究者としては、
「医学の発展のためにどうしても」
 というが、しかし、当事者や世間の意見は、
「プライバシーは守られるべき」
 と言って、断固として譲らない。
 この問題は、社会問題になった。
 実際に、未来の教科書に載ったくらいだった。
 小説では、その問題を「科学や医学の進歩のためを重視する」と考え、研究は続けられた。
 もちろん、反対論者の抵抗も激しかった。研究を妨害しようとして、あの手この手を繰り出してくる。
 ここまで読んでくると、普通の小説であれば、善悪がどちらにあるか、そして、誰が主人公なのかということが明らかになってきて、その観点から、小説を読みこんでいくのだが、善悪の所在を考えて読んでしまうと、嫌な気分にさせられる。
 義之は、続きは読みたいが、嫌な気分になるのは嫌だと思い、考え方を変えることにした。
 そこで生まれてきた発想が「パラレルワールド」だったのだ。
「今同じであっても、次の瞬間には、可能性は無限に広がっているんだ」
 という発想、つまりは、中心の点から、四方八方に放射状に広がっていく形が円を描いているように見える。まるで傘を開いた時のような感覚だ。
 この発想が、まさかパラドックスの世界で、
「過去に戻った時、そこにいる自分と出会うことで、パラドックスの問題が発生しないだろうか?」
 という危険性は、パラレルワールドの発想をすることにより解消させることができる。つまりは、
「次元が違うので、出会うことはない。もし出会ったとしても、決して交わることのない平行線上のニアミスでしかない」
 という考え方である。
 それでも、あくまで仮設でしかない。もし、それが違っていて、過去に戻って、自分と鉢合わせしてしまえばどうなるのか、発想はそれこそ無限にあるかも知れない。その中の一つだけが本当に真実なのではないかも知れないが、
「真実が複数あるのだとすれば、それこそ、パラレルワールドの信条ではないのだろうか?」
 と考えられた。
 その本を読んだ時、
「俺はロボット工学の勉強がしたくなった」
 と初めて感じた。その本が自分の人生の最初の「バイブル」になったといえなくもないだろう。
 ロボット工学の勉強は、最初から機械としてロボットを見ていなかったことから、続いているのかも知れない。最初にロボットに興味を持ったのは、タイムマシンやパラレルワールドというSFの世界からの発想が伴っていたことから発したものだったのだ。
 他のロボット工学の研究者に話を聞いていると、ほとんどは、ロボットの形状や、役割についての興味を持ってからの人ばかりであった。義之のように、SF小説の発想から入った人はあまりいない。そんな義之を他の人は、
「純粋な動機で始めたわけではないようだ」
 と思っているかも知れない。
 それはそれで仕方がないと思った。もし義之が逆の立場なら、同じことを考えたに違いないと思うからだ。
 ロボット研究をしていることで、今度は自分がかなり過去のご先祖様を探ることで、今の自分を「助ける」ことになるなど、想像もしていなかったことだった。
 実際には、ロボットを送り出すことにも一抹の心配がある。しかし、自分が赴くことで、本当に冷静な判断ができないのではないかと思うのも事実であって、一番いいのは、最初の固定観念を持つ前に、ある程度の情報収集にアンドロイドを使い、その後は、その時に考えればいいという考えだったが、現時点では一番いい考え方だった。
 義之は、ロボット開発に対して、甘い認識でいたことを、今さらながらに思い知らされた。それは、「恋愛感情」というものを、まったく考えていなかったことだった。
 義之自身、自分が恋愛感情を他の人に抱いたことがなかったからで、それが「ウブ」と考える一番の理由でもあった。