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安全装置~堂々巡り②~

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 歴史の勉強をしていると、どうしても、派手なところに目が行きがちで、義之もすっかり歴史の勉強では、戦争や騒乱、王朝の興亡などの方にしか目がいかず、「男女」の好みに関しての勉強を怠っていた。
 逆に香澄であれば、美術を志していることで、「美」に対しては敏感だった。
 義之も、古典や歴史の勉強をした時に、紫式部や清少納言などの活躍した平安時代や、浮世絵が一世を風靡した江戸時代などの「写し絵」を見ると、
「今の時代と、好みが違うんだな」
 と、感じることだろう。
 だが、香澄の時代になると、映像で残っている。
 アイドルや女優などは、「動画」として残っているので、写し絵や写真などのように、一瞬の美しさを映し出す、いわゆる「芸術」として見ているわけではない。そのために、今の時代に動いている人と比較して見るという意識が、写し絵に対してほど、持っていないことになる。
 そのことを差し引いても、頭の中に、
「今の時代と昔とでは、男女の好みに対して違いがある」
 という意識が皆無だったことは、失態だったと言ってもいいだろう。
 だが、まさか、後から考えても、
「たったそれだけのこと」
 と思うようなことが、大きな影響を与えることになるなど、送りこんですぐに気付くことはなかった。
 しかも、送りこんで義之サイボーグと、香澄が知り合っていく段階でも、まだそのことに気付かない。やはりサイボーグに女性に対しての感情を正確に持たせることは無理だったのだろう。
 もっとも、ロボット開発の時点で、そこまで重要な問題を孕んでいるなど、考えたことはなかった。人間型ロボット、つまりは意志を持ったロボットを開発しようと思った時点で、そこまで考えられなかったのは、義之自身の性格にあるのかも知れない。
 義之は、自分の性格を「真面目」だと思っている。「堅物」と言ってもいいくらいで、本人としても、まわりから「堅物」と言われることを嫌だとは思わなかった。
「それも俺の性格なんだ」
 と思うのは、開き直りというわけではない。開き直りというのは、
「自分では完全に納得できないが、勢いでなら納得させることができる」
 というものであり、「堅物」という発想には、勢いがなくとも納得させられると思っていた。
 真面目で堅物な義之は、香澄の時代でも同じことなのだが、
「女性に対して感情を持つのは、恥かしいこと」
 と考えていた。
 要するに「ウブ」なのだが、香澄の時代には結構いた「ウブ」な人間も、義之の時代には、「国宝級」に少なくなっていた。
 だが、それは間違いで、それには但し書きがある、
「但し、目に見えている部分だけであるが」
 というのだが、要するに、
「隠れウブ」
 が結構いるのだ。
 ウブな人というのは、
「まわりに、自分のことを見られたくない」
 という気持ちが一番強い人たちだ。それは今も昔も変わらない。それだけ、義之の時代には、まわりに自分のことを知られたくないと思っている人が増えたということなのか、あるいは、人が増えたわけではなく、知られたくないという思いが、昔の人に比べて強い人が多くなったのかのどちらかなのであろう。
 義之は、そんな自分を分析していた。理解していたと言ってもいい。
 それでも、その性格を変えようとは思わなかった。結構嫌いなわけではないからだ。
 ただ、この思いには若干の開き直りがあったのも事実だった。
「勢いがなければ納得させられることではないからな。理解はできても納得はできない。理解と納得は別のものなんだ」
 と、自分に言い聞かせていた。
 それは、
「納得できれば、理解できている証拠であるが、理解できていなければ、納得はできない」
 という考えに基づいていた。
「勢いというのは大切なんだな」
 誰に聞いてもらうわけでもなく、義之はひとりごちた。
 その思いを感じたのは一度や二度のことではない。しょっちゅうだと言ってもいいだろう。特にロボット工学の研究を始めて考えるようになった。
 ロボット工学の研究は、人間の発想だけに留まるものではない。だから、本当は自分だけの発想では片手落ちになってしまうのだろうが、義之はそれでもいいと思った。
「ロボットにだって個性があってもいいだろう」
 要するに、義之の個性の元に作られたロボットがいるというだけである。
 他の人が同じようにロボット研究をしていれば、その人の個性を持ったロボットができあがる。だが、これは非常に怖い現象でもあるのだ。
 ロボットの数が増えれば増えるほど、同じ性格のロボットが増えてしまう。人間の世界では、
「俺の性格は少数派だ」
 と思っている義之だ。それだからこそ、希少価値であることを「個性」として意識して、自分の中では、
「いいことだ」
 と思っている。
 しかし、逆にロボットの世界では、少数派どころが、主流になってしまう。それを果たして義之はよしとできるだろうか?
 心のどこかでは、
「俺の考えが主流になってくれれば嬉しいが」
 と、感じているが、実現するはずもなかったので、
「少数派は個性なんだ」
 ということで、自分の気持ちをごまかしていたのかも知れない。
 だが、主流になるのはロボット世界であれば問題ないが、人間世界では困ったものだと思っている。
 元々の考え方が、
「自分は他の人とは違う」
 という思いを含んだ「現実主義」であり、さらに女性に対してウブな性格など、普通考えれば、到底他の人に受け入れられる性格であるはずなどない。
 義之は、香澄のことを調べた時、
「俺の性格は、彼女から受け継がれたものだ」
 と感じた。
 つまりは、香澄の血がどこかで交わらなければ、義之の今はない。それが気に入っている気に入っていない、どちらとも言えない性格であったとしてもである。
 義之が調べた中では、香澄が義之の先祖であったという証拠はどこにもない。しかも香澄は若くして亡くなっているという事実があった。
 お骨から調べた遺伝子と、自分の遺伝子を比較する限り、疑う余地もないほど、香澄は自分の先祖であることは確定している。
「一体どこで変わってしまったのだろう?」
 義之は香澄が死んでから、今までの時代をいろいろ調べてみたが、そのどこにも自分と香澄を結びつける過去はない。
「歴史がどこかで変わってしまった?」
 存在しないはずの自分が存在しているということ、そして、そのことを知ってしまった自分がいるということは、考えられることは一つしかない。
「俺に歴史を変えさせようとしているんだ」
 今まで言われていたことというのは、
「歴史を変えることはできない」
 ということであるが、ここまでお膳立てが整っていて、それを黙っているわけにはいかないという性格である義之に、敢えて分かるようにさせたということは、
「歴史が義之に変えさせようとしているとしか思えないじゃないか」
 と考えた。
 義之は、元々義之サイボーグを開発したのも、過去を視野に入れて見ていたからだった。