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予知能力~堂々巡り①~

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 その頃までは、自分に予知能力があるかも知れないということを、ウスウス感じてはいたが、自分だけのことであって、まわりに一切影響を及ぼさないものだと思っていた。
 少し物足りなくもあったが、
「これでいい」
 と思うようにもなっていた。
「予知能力なんて、そんな大それたものが自分にあるなんて信じられない」
 という思いが、中途半端に頭の中に燻っていたため、以前見た映画の感想として浮かんできた、
「余計な能力など、持ちあわせていない方がよほど幸せだ」
 と思っていたはずなのに、心の底に、どこか特殊能力に対しての憧れのようなものがあることを思い知らされた。
 最初は、恋の告白でもされるのかと思った。それまでに付き合った男性はいたが、実際に告白されて付き合ったことは一度もなかったので、胸の鼓動は高鳴っていた。
 しかし、実際には彼から恋の告白をされるわけではなかったが。友達として終わることのない関係であることを、彼の口から聞かされたのは事実で、どちらにしても、違う意味での胸の高鳴りを感じたのだった。
「どうやら君にも予知能力があるようだね」
 といきなり話し始めた。しかも、その言葉には確信めいたものがあった。そもそも、こんなことを話すのに、確信がなければ話せるはずもないだろう。
「『君にも』ということは、あなたにも同じ能力があるというの?」
「同じ能力というわけではないと思うんだけど、でも、先を見通す能力があると自分では思っているんだ」
「予知能力にも種類があるということなの?」
「そうだね、予知能力にもランクのようなものがあって、たとえば、どれだけ先が見通せるかというランクもあれば、見通せる内容が限られた範囲である場合もあるよね。たとえば、自分のことだけなのか、それとも、自分の見える範囲に限られるのか、それとも、未来のことを全体的に見ることができるのかということだね。全体が見えれば、それこそ、予言者になれるんだろうけど、まあそれも、まわりがどれだけ信じてくれるかということが問題になる。範囲が広がれば広がるほど、信憑性が薄れてくるだろうからね」
「そうですね」
「あまり見えすぎるというのも困ったもので、誰も信じてくれない可能性は大きく、過去の大予言者と呼ばれた人たちが、まわりから嘘つき呼ばわりされたり、それどころか、投獄されたりした歴史があるだろう。それを思うと、見えすぎることで、見たくないものまで見えてしまうことと、まわりから信じてもらえず、ウソつき呼ばわりされるジレンマとで、かなり苦しい精神状態に追い込まれてしまうこともあると思う」
「でも、私に予知能力があるということがよく分かりましたね?」
「自分も最初から予知能力が備わっていることに気付いたわけではなく、そのことに気付いてから、次第に予知能力に対しての確信が深まってくると、今日も自分のように、話しかけてくれる人がいたんですよ。やはりその人も予知能力を持っていると言っていましたね」
「じゃあ、予知能力者は自分に確信が持てるようになると、同じ能力を持った人を引き寄せるということなんでしょうか?」
「そういうことだね」
「私は、今はまだそこまで確信めいたものはないんですが、あなたが現れたことで、逆に確信を持てる要素を手に入れたような感じなんでしょうか?」
「今は、自信がなくても、まわりから固めてくれる自信というのもあるものなんだよ。特に特殊能力の場合は、まわりが敏感になることで、本人に意識を植え付けることもある。それが昔の暗黒の時代を乗り越えるためには必要なことなのかも知れない」
 その人の話は、どうしても漠然としたものであったが、冷静に聞いてみると、辻褄が合っている気がする。普段から絶えず何かを考えている沙織は、時々奇抜な発想をしているのではないかと思うことがあったが、次第に合ってきた辻褄の溝を埋めたのは、彼の冷静な話し方によるもののような気がして仕方がなかった。
「私が思っているよりも、予知能力を持っている人って、結構いるのかも知れないわ」
 と、言うと、
「それは、君だけに限ったことではない。たいていの人が思っている人数とは、けた外れに違っているものだよ。それは、予知能力を、超能力だと思っていることで感じる人数だからなんだよ。特殊能力ではあるが、いわゆる超能力と呼ばれるものではないだ。特殊能力だと思って人数を想像したとしても、さらに実際に予知能力を持っている人はたくさんいる」
 そういうと、彼はゆっくりとタバコに火をつけ始めた。
 彼が付けたタバコの火は、真っ赤な色を浮かべていた。彼と話をしている店が少し薄暗い店内なので、余計に赤みを帯びているようだ。
 声を掛けられてから、最初は喫茶店で話をしていたが、特殊能力と超能力の違いの話に入ったあたりから、
「この近くに知ってるバーがあるんだけど、場所変えないかい?」
 と言われた。
 喫茶店は思ったよりも客が多く、さらに、こういう話をするのは、喫茶店という雰囲気ではないと思うことで、余計な意識が表に向いてしまい、喧騒とした雰囲気に包まれた気がしていた。
 バーに移動するなら、そちらの方が沙織にも好都合に感じられた。
 バーの雰囲気なら、超能力や特殊能力のような話をしていて、まわりの人に聞かれても、さほど意識しないような気がしたからだ。以前からバーには興味を持っていたが、こういう話のできる人がいれば、きっと一緒に行ったに違いないと思っていたこともあって、彼の誘いに、二つ返事で乗ったのである。
 彼も、喜びを前面に押し出すわけではないが、満足そうな笑顔を見せてくれたが、沙織にはそれだけで十分だった。
「分かりました。いいですよ。ご一緒しましょう」
 自分で言いながら、今までに感じたことのないような大人のオンナを自分が演じているのを感じていた。あくまでも演じているのであって、自分の本性がそこにあるという気はしなかったのだ。
 バーは、カウンターがメインだったが、テーブル席もいくつかあった。入った時間は、ちょうど開店すぐだったようで、客は誰もいなかった。マスターが一人、カウンターの向こうでせわしなく動き回っていた。
「マスター、久しぶり」
「やあ、シンちゃん。久しぶりだね。忙しかったのかい?」
「ええ、バイトがね。学校にも顔を出さなければいけなかったりしたので、それなりに忙しい毎日だったよ」
 と、常連の会話を聞きながら、少々羨ましい気持ちと、二人の微笑ましさを感じていた。さっきまでの難しい話をするには、こういう店の雰囲気の方がやはり喫茶店よりも、数倍いい。喫茶店が場違いだったことを、今さらながらに感じていた。
「さっきの続きだけど」
 と言いながら彼はさっきよりも身を乗り出して話をしてきた。店内の照明もさっきに比べて格段に暗い、顔もシルエットになっていて、声だけが響いているようだ。
 しばらく話をしているうちに、彼の顔を忘れてしまいそうになっていて、もし覚えていたとしても、かなり前の記憶ではないかと思うほどになっているような気がした。
 店の中は紫が基調だった。沙織の感じる「色のランク」からすれば、かなり優先順位の高い方だ。
 紫という色は、いろいろなイメージを与えてくれる。