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予知能力~堂々巡り①~

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 世の中、成り行きに任せて生きるというのが「平穏」に繋がるということであり、平穏こそが、今一番自分が求めていることだと思っていた。
 先のことを知りたいと思っていた時期があったなんて、今では信じられない。冷静に考えれば、先のことを知ってしまうと、せっかく見えない道が目の前に広がっているところを、無意識に間違えることなく進んでいるのに、身構えてしまって、進む道を間違えてしまうことになりかねないかが心配だった。
 予知能力などというものが、本当に存在するなど、考えてもいなかった。もし、あるとしても、自分とは関係のない遠いところでのお話だと思っていた。
 遠いところというのは、距離的な遠さだけではなく、時間的な遠さもあり、誰か相手として比較するのであれば、年齢的な遠さというものも考えられる。
――意外と私の近くには、予知能力を持った人がたくさんいるようだわ――
 と、感じたことにより、超能力というものが、身近に感じられるようになってきた。
 だが、逆の考え方もあった。
――予知能力というものは、元々身近なものであって、超能力とは違うものなんだわ――
 という考えも生まれてきた。
 どちらかというと、最初は前者の方の考え方が強く、途中から後者の方の考え方が強くなってきた。
 今は後者の考え方を普通に受け入れるようになり、近い将来への予知能力くらいであれば、それほど驚かなくなってきた。
「予知夢」という言葉を聞いたことがある。将来に起きることを夢に見るというものだが、予知能力が超能力でも何でもないと感じてくると、今度は、夢というものに対して今まで持っていた不思議な感覚は小さくなってきた。ただ夢に対しての神秘性は残っていて、不思議なものだという気持ちが少なくなってきた分、神秘性は高くなってきたように感じるのだ。
 予知能力を持っている人の映画を以前友達と見に行ったことがあった。
 その映画は、予知能力を持っていることに高校生になった時に気が付いた主人公が、最初は能力を持っていることを自慢のように思っていた。
 彼はバカではない。他の人に、
「俺には予知能力がある」
 などというと、きっとバカにされることは分かっていた。さらに下手に話して、どこかの組織に狙われないとも限らない。そこまで分かっているので、まわりになるべく悟られないようにしていた。
 しかし、隠そうとすればするほど、ストレスが溜まってくるもので、本当は人に言いたくてウズウズしていた。
 彼は普段は冷静な性格なのだが、自分に特殊能力があることを知ると、次第に有頂天になってくる。今までになかった興奮に、我を忘れそうになるのを堪えていたのだ。
 しかも、予知することができるのは、いいことばかりではない。嫌なこと、見たくないことまで見えてくるのは、想像以上に辛いことだった。
「こんなに苦しいなんて」
 と思うようになると、今度はどこで彼の能力を嗅ぎつけたのか、目には見えないが確かに存在しているどこかの組織に、付き纏われるようになった。
 その組織は、彼の能力を必要とした。
 彼をつけ狙うのは、実は国家の秘密機構であり、彼の能力を使って、反社会勢力を壊滅に追い込もうとしていた。
 次第に彼にも組織の正体が分かってくるようになると、悪の組織ではないことに、ホッと胸を撫で下ろしたが、それは少しの間だけだった。
 すぐに彼は自分の置かれている立場が、自分が考えてるよりも、かなり厳しいものであることに気付かされる。
 相手は国家の秘密組織である。まずそのことが大きな問題だった。
 要するに「国家ぐるみ」、相手が本気になれば、逃れようとしても逃れられない。一歩間違えれば、自分の存在を消されてしまう。
「ネズミ一匹がいなくなったくらい、痛くも痒くもないわ!」
 と言って笑っている男の姿が思い浮かんだ。顔はシルエットになっていて、口には葉巻が咥えられている。そんな想像をする自分が、恐ろしくなってくる。
 急に「孤立」という言葉が頭を擡げた。
「孤独」という言葉はいつも感じていたが、「孤立」となるとまた違ってくる。「孤独」は自分一人の中だけで完結するものだが、「孤立」はまわりの環境から作り上げられた自分が一人であるということ、それだけではなく、追いつめられる感覚を味わうのも、「孤立」であった。
 追いつめられる感覚は、決して「孤独」から生まれるものではない。それは「孤独」が自分の中だけで完結するものだからである。
 さらに「孤立」の下に「無縁」という言葉がついてくると、自分の立場をいやが上にも思い知らされることになるだろう。
 主人公の「孤立」の下に「無縁」という言葉がついていれば、物語にはならなかったかも知れない。彼には仲間がいた。それは、彼をつけ狙う国家の秘密組織の中にいたのだ。
 主人公を助けるべく、彼は秘密組織を裏切ることになる。もちろん、彼の中には組織を裏切ることに葛藤があったのは当然だった。
「俺だって、信念を持ってこの組織に入ったんだ」
 という自負もある。
 この組織の設立理念は、
「警察や法律が手出しできない悪の組織を秘密裏に壊滅に追い込む」
 ということだった。
 映画やドラマでは、お決まりの設定だが、彼らも他の映画やドラマの同じように、組織内の結束は絶対だった。
 もちろん、彼もそれを覚悟で入ったのだ。
 彼の両親は、悪の組織に抹殺され、結局、警察も法律も何もしてくれなかった。それこそ両親は、
「闇に葬られた」
 ということになり、言いたくはないが、
「犬死した」
 ということで、終わってしまった。
 そんな時、秘密結社が彼を誘いに来た。
「警察や法律ではどうにもならない理不尽なことは、世の中にはいっぱいある。君のような悲惨な目に遭った人も、それ以上の数に及ぶんだ。一緒に、親の敵を討とうじゃないか」
 と言われた。
 その時の彼には、他に自分のような悲惨な人がいようがいまいが関係なかった。今の苦しさや、やるせなさからいかにして逃れるかというのが、その時の最大の問題だった。
――敵を討ったところで、死んだ人間が帰ってくるわけではない――
 という思いもちろんあった。
 だが、そんなことはどうでもいいほど、自分を制御することができないところまで来ていたのも事実だった。
「頭では分かっているつもりなのに、冷静になろうとすればするほど、自分が嫌で嫌でたまらなくなるんです」
「分かる気がするよ。その気持ちが、ジレンマというものなんだよ」
「ジレンマですか? 何とのジレンマなんですか?」