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予知能力~堂々巡り①~

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 自分を納得させることができなくても、意識がそう感じていることであれば、それに従わなければいけない。この感覚は高校を卒業してから感じるようになった。それを教えてくれたとすれば、香澄先生だったのかも知れない。
 香澄先生とは夢について話をしたことはなかったが、一緒に出掛けたデッサンで、そのことを教えられたような気がした。
 香澄先生には直接的に教わったことも多かったが、間接的に教わったことが決して少なくはなかったことを感じたのは、香澄先生と一緒にデッサンに行くことがなくなって久しい時期からだった。
 香澄先生が、いなくなったのは、沙織の大学進学が決まってからすぐだった。試験勉強のため、香澄先生とは、半年以上会っていなかった。
 連絡は取っていたのだが、先生も気を遣ってくれていて、余計なことは一切しなかった。
 元々香澄先生は冷静なところがあり、会わないとなれば、一切先生の方から連絡をしてくることもなく、沙織が連絡を入れても、形式的なことしか返ってこなかった。そんな先生を分かっているので、電話で話すこともなく、一人での試験勉強に孤独感と寂しさで押し潰されそうになったこともあったが、先生に連絡しても、結局は冷静に見られるのであれば、
「連絡なんか取らなければよかった」
 と感じるだけである。
 それなら、一人で乗り越える方がマシだと思っていた。
 そのおかげなのか、沙織は孤独と寂しさを分けて考えることができるようになった。
 孤独を嫌なものではなく、冷静に見ることができるようになった自分が怖くもあったが、その時になって、夢を思い出そうとした時に、襲ってきた頭痛の理由が、何となくだが分かってきたような気がした。
「孤独も、自分を納得させるものではないけど、意識として感じることなんだ」
 と思うようになっていた。
 甘んじて受け入れようという気持ちになると、気分的にアッサリしてくるのを感じていた。
――私は、冷静な人間だったんだ――
 と、感じるようになった。
 元から激情家ではないと思っていたが、冷静な香澄先生を見ていると、自分がその反対のように思えていた。
 それは、
――冷静な人だ――
 と分かっていても香澄先生を慕っているのを感じている自分がいるのを分かっているので、慕っているという気持ちが、甘えているということに繋がることをいつの間にか理解できるようになっていた。
 沙織は大学に入ると、冷静さが表に出てきた。
 まわりの大学生に軽い連中が多いことで、余計に冷静な沙織が目立ったのかも知れない。沙織は、友達はそれなりにいたが、決して表に出ようとせずに、いつも冷静にまわりから見ていた。
「沙織って、どうしてそんなに冷静になれるの?」
 と言われるが、
「自分では分からないわ。でも、自分の中で納得のいかないことは、どうしても客観的にしか見ることができないくなるの。そういう意味では、自分で納得の行かないことって、思っていたよりも多いのかも知れないわね」
 と、話したことがあったが、質問した方には、どこまで伝わったかどうか、ハッキリと分からない。
「でも、納得いかないからって、逃げているわけにはいかないもんね」
 と言われて、
――逃げるという言葉が出てくる時点で、私のことを分かっていない証拠だわ――
 と感じると、それ以上、自分の気持ちを話しても伝わらないことが分かった。適当に話をいなしていることで、話題をやり過ごしたのだった。
 ただ、沙織にいろいろ聞いてくる友達も少なくはなかった。
「沙織の冷静な目で見て、いろいろ話してくれるとありがたい」
 と言ってくる人には、遠慮なく考えを述べたものだ。
 かなりきついことを言ったこともあったが、
「ありがとう。何となくだけど、目からうろこが落ちた気がする」
 と言っていた。
 その時から、
――ハッキリと言ってほしい相手には、下手なオブラートの包み方なんかしなくてもいいんだ――
 と思うようになっていた。
――オブラートに包むということは、真剣に聞いてきている人に対して、自分が逃げていることになる。相手に失礼だというよりも、自分が納得できない。それは、自分の主旨ではない――
 と思うようになっていた。
 沙織が、最近色をまた気にするようになったが、それは会社で、色を気にする女性がいて、その人との話の中で、
「色を気にする人というのは、私なんかそうなんだけど、色を何かに当て嵌めて、そこから感じられるものを先読みすることなんじゃないかって思うんですよ」
「あなたは、色に何を想像するんですか?」
「私は食べ物ですね。色で食べ物を想像して、味を先読みする感覚で、『色を感じる』という気分になりますね。食べるということは食欲であり、欲の一つなので、余計に想像力が豊かになります」
「色で想像力を先読みするというのもいいことですね」
 そういうと、その人は、それまで楽しそうに話していたのだが、次第に表情が硬くなり、真剣な面持ちに変わってきた。
「それがですね。色から食べ物を想像して、味の先読みをするようになると、今度は自分に予知能力のようなあるんじゃないかって感じるようになったんです」
 話の展開が読めない。
「えっ、どういうことですか? 気のせいではなくって?」
「ええ、予知能力と言っても、大したことはないんですが、何か嫌なものを見るんじゃないかって思ってたら、事故の現場を目撃したり、会社に来るのが嫌だと思った時は、前の日にどうやら自分が何か失敗していたようで、上司に怒られたりするのが、事前に分かるんです。ただ、漠然としてなので、予知能力と言えるかどうか分からないんですけど、味の先読みを意識するようになってから、予知能力を感じるようになりました」
「私は、好きな色と嫌いな色の差が激しいんですけど、色にどうしても優先順位を付けないと気がすまなくなってしまったんです」
 そう言って、以前先生に話した「色のランク」の話をした。学生時代から絵を描いていて、色に関して、少しコンプレックスを持っていることも話した。
 しかも色のランク付けは、その日の感情や波乱を予感させるものだった。彼女との話に重複するところもあるが、色のランクというのは、その日の自分の運勢のようなものだった。ランクが高くなるにつれて、その日一日が波乱万丈であり、それがいい方に転ぶのか、悪い方に転ぶのかが決まってくる。朝起きてすぐに感じる時もあれば、学校に着いてから感じることもある。どちらにしても、
「その日一日は、自分が想像した運命から逃れることはできない」
 と、思うようになっていた。
 さすがに、予知能力を感じる人には敵わないが、私は中学時代に色で感じる自分の運勢を、楽しんでいたところがあった。波乱万丈の一日であっても、その日一日限りのことであって、翌日以降も引っ張る話であっても、それ以上の想像はできなかった。
 学生時代は、
「もっと先のことが分かればいいのに」
 と思っていたが、三十歳を超える頃になると、平穏な毎日を望むようになり、
「こんな想像なんて、できないに越したことはないのよ」
 と感じるようになった。