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予知能力~堂々巡り①~

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「あなたが言ったロボットの性質なんですけど、どうも『点』でしか捉えていないように思うんですよ。ロボット開発は一旦始まると、途中停滞する時期があっても、先に進むと思うんですよね。問題は基本基準を超えられるかどうかなんだけど、今の時代の人で、想像だけしているのなら、きっとロボットの進化を考えると、さっきのように、基本基準が埋め込まれる前の発想は、説得力に欠けるのではないかって思う気がしたんです。気のせいかも知れませんが」
「沙織さんは、なかなか鋭いですね。確かにおっしゃる通りですね。やっぱり、俺が思ったように、冷静なところが、香澄先生の血を引いているんだね」
 と言って、自分が未来から来たのかどうかという話を明確に否定も肯定もしなかったが、その代わり、まるで沙織の中に香澄先生がいるかのような口調で話をしたのが印象的だった。
 ただ、どうしても、言葉の意味が分からない。確証どころか、自分で納得できる内容だとは思えない。
 沙織は義之の話を本当は、最近まで忘れていた。
 彼の存在すら、
――あれは夢だったのかも知れないわ。それにしても、本当にリアルな夢だったわ――
 沙織の頭の中は、少し混乱していた。だが、この混乱が収まると、それまで見えてこなかったことが見えてくるようになった。それも、ゆっくりとゆっくりと……。
 それでも、急速な変化を望んでいないはずなのに、時間が経つのは早いもの。気が付けば三十歳になっていた。
 三十歳という年齢は、一つの節目でもあった。
――そういえば、私が最初に沙織先生と出会った時、それがちょうど、義之さんが私の目の前に現れた時だったような気がするわ――
 それを偶然と考えるなら、今三十歳になった自分の年齢は、香澄先生が亡くなった時の年齢になっているのを、偶然という一言で言い表してもいいのだろうか? それを思うと、沙織は今、義之と最初に出会った時のことを思い出すのも、無理のないことだった。
 義之とは最初に出会ってから、何度か会った。しかし、急に、
「俺、少し旅に出るので、また会うことがあったら、その時はよろしく」
 と言って、沙織の前からいなくなった。
 彼から連絡が今のところないということで、彼がまだ旅の途中であると思っていたが、今考えると、彼にとって沙織に対して、
「用は済んだ」
 ということなのかも知れない。
 その用が問題なのかも知れないが、彼がいなくなったことで、最初は彼に出会ってから、少し自分の回りの空気が変わっていたことに気が付くまで、少し時間が掛かった。しかし、その時間がやってきた時、義之がいなくなっても、それほど気にならない、そして、
――本当に彼は存在したのかしら?
 とまで感じさせるほどになっていた。

 沙織は自分が他の人と違うと感じるようになったのはいつ頃からだったのだろうか?
 最初に義之と出会った時。確かにあの頃だった。
 何が違うといって、口で説明できるものではない。ただ、義之を見ていると、他人のようではない。
――どこか、私のことを探るようなところがあったのは分かっていたけど、まさか、身体の方を気にしていたとは思わなかったわ――
 確かに義之は、沙織の身体のことを気にしていたのが伺えた。彼は自分の話から、沙織の精神状態を探っていたのは分かった。精神状態に関しては。さほど気にしていなかったようだ。
「俺と似た考えだよね」
 と言って、満面の笑みを浮かべていた。
 普通であれば、同じ考えでいてほしいと思うのは好きになった人だろうと思うのは当然のことである。ただ、彼が話をしていたことは、普通の人なら突拍子もないことであり、想像を逸脱した話にどこまでついてこれたのだろうかと思うが、沙織の場合は、それほど苦もなくついてこれた。それを、沙織は自分の中だけで満足していた。誰かに自慢しなくても、自己満足を得られるようになった最初だったかも知れない。
 それまでの沙織は、どうしてもまわりの人を意識してしまうところがあった。だが、今の沙織にはそんなところはない。
――人は人、自分は自分――
 どうしてそんなことが分からなかったのかと思うほど、今では簡単な理屈になっている。
 まわりに誰かいないと寂しかったとは思っていなかったはずなのに、なぜか人を意識してしまう性格。そこか中途半端なようで、自分の中で一番くらいな性格だった。
 それを感じるようになってから、沙織は自分で何かを悟った気がした。その悟りを与えてくれたのは義之であった。だが、義之が与えてくれたのは「きっかけ」だけだったと感じている。
――私は自分の中にもう一人の自分を感じている――
 と思っていたが、実はそれも違っていたことを、最近になって分かってきた。
 自分の中にいる「もう一人の自分」、確かに自分に違いないと思っていたのだが、「もう一人の自分」が最初から自分の中にいたようにはどうしても思えない。そう思うと、途中から入ってきたその人は、自分でありながら、自分ではないのである。
――では、一体誰なのか?
 そのヒントを与えてくれたのも、義之だった。
 義之が、
「旅に出る」
 と言ったその時、沙織は別にビックリしなかった。なぜなら、義之は自分と同じ次元の人間ではないような気がしたからだった。
 それには根拠があった。
「沙織さんの中には、もう一人沙織さんの人格を作っている人がいる。でも、その人は『もう一人の自分』じゃないんだよ。たぶん、沙織さんも分かっているのではないかと思うんだけど、その細工に一役買ったのは、他ならぬ僕なんだよ。もちろん、そのことであなたに危害が加わることもなければ、あなたが心配することもないんだ。でも、ウスウス感じているもう一人の自分の正体が分かる前に、俺がそのことを話してあげないといけないと思ってね。詳細を最後まで話すわけにはいかないが、今のモヤモヤした気持ちをスッキリさせないといけないと思い、俺はこの機会に話をさせてもらった」
 その時の義之の顔は、寂しそうだったのが印象的だった。その表情を見て、
――彼は私の前から姿を消す覚悟をした――
 と感じた。
 それは予知能力ではない。予知能力は、何かを予知するための何かと偶然であっても、必然であっても出会う能力のこと、決して、すべてが見えているわけではないということを今では分かっている。
――彼は未来から来たんだ。そして彼は、自分の子孫なんだ――
 と、いうことに気付いた。
 彼が未来からきて、沙織の運命にどのような影響を与えたというのか、沙織はそのことまでは分からなかったが、義之が、
「旅に出る」
 と言ったのは、
――自分の居場所に戻った――
 ということを理解した。
 これは予知能力ではない。義之の気持ちが分かって必然的に感じたことだ。義之が自分の子孫だと思ったのもそのせいで、子孫が今の自分に会いに来たなどという事実、そう簡単には信じられない事柄を、素直に受け入れることができたのも、自分の中にいる、
――自分だと思っていた「もう一人の自分」――
 のせいだろう。
 では、もう一人の自分とは誰なのだろう?
 沙織はそれを、香澄先生だと思っている。