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予知能力~堂々巡り①~

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 ただし、ロボットは完全に停止したわけではない。きっと、第一条、二条とそれ以上の命令があれば、作動しなくてはならない。それが、人間の不利益になろうことでも、人間に危害が加わる危険を察知した場合、
「その危険を看過することによって、人間に危害を及ぼしてはならない」
 という第一条に忠実に従うに違いない。
 ロボット工学基本基準というのは、人間への「安全装置」でありながら、時として、その「安全装置」が裏目に出ることもある、いわゆる「諸刃の剣」でもあるのだ。
 そんなロボット工学基本基準も、解釈の仕方によっては、そのほとんどの可能性の中に「矛盾」が含まれているのかも知れない。そのおかげでSF小説のネタとしては、不自由することはない。だが、それを現実社会に生かそうとすると、あまりにもその道が遠いことは、今までの研究結果で明らかにされているだろう。
 ロボットの考え方など、百年前くらいからあったのかも知れない。
 いや、もっと前のからくり人形をロボットの元祖と考えれば、もっと昔からだ。
 だが、ロボット基本基準に関しては「からくり人形」には当てはまらない。ロボット基本基準は、あくまでも、自分の中に思考能力を有し、行動するための「電子頭脳」を必要とするものに適用されるからである。
 ロボット工学基本基準に含まれる作用を応用してロボットは行動するが、思考回路が堂々巡りを繰り返すと思考が停止してしまうというのは、最初からロボットに組み込まれているのだろうか?
 本を見る限りではそこに明記はない。
 沙織はそこが知りたかった。
 最初から組み込まれているのであれば、
――やっぱりロボットは内臓の頭脳によってしか動かないんだ――
 という思いである。
 だが、停止するという行動が埋め込まれていない場合はどうだろう? その場合はロボットが、
――自分で考え、判断した――
 ということになる。
 これは、ロボットの革命的なことではないだろうか。
 ロボット開発の進化が、ロボットの自律的な発想を生み出せるようになった。しかし、それは人間の本意であろうか?
 ロボットはあくまで第二条にあるように、
「人間の与えた命令に服従しなければならない」
 つまりは、勝手な行動を自分で判断させては、まだまだ危険ということになる。
 だが、果たしてそうなのだろうか?
 ロボットが自分で意志を持たないと、単純に第一条が絶対条件になるように、
――少々の危害が加わる程度であれば、その時の状況から判断して、危害が加わることで自分に利益が出ることを人間は選ぶんじゃないかな?
 と思うのだが、ロボットにそんな融通が利くはずもない。
「やめろ、俺の意志はお前に助けてほしいわけではない」
 と、ロボットに命令しても、ロボットの中に埋め込まれたロボット工学基本基準の発想は、
「いくらご主人様の命令でも、命令を規定している第二条にあるように、第一条、つまり
『その危険を看過することによって、人間に危害を及ぼしてはならない』という絶対前提の項目によって、助けなければいけない」
 と考えるのだ。
 この場合のロボットと、人間側の、
「助けなければいけない」
 という考えに絶対的な隔たりがあるのだ。
 絶対に交わることのない平行線なのだ。
 どうして、沙織は今になってまでも、義之が話題にしなくなったロボット工学基本基準を心の奥に深く刻んでいるのか分からない。
 今まで夢というのは、目が覚めれば覚えていることはほとんどなかったはずなのに、ロボット基本基準のことを意識するようになってから、夢を覚えていることが多くなった。その夢は、ほとんどが、ロボット基本基準を意識させるもので、
――だから余計にロボット基本基準を記憶の奥に封印できないということで、忘れることができなくなってしまったのかも知れない――
 うなされることもあった。きっと怖い夢を見ているのだろうが、目が覚めてから思い出すと、
「怖い夢を見た」
 という感覚はない。
 むしろ、最近見た怖い夢というのは、
――夢を見ている自分を夢に見た――
 というものだった。
 それは、自分を中心に、鏡を左右反対側か、前後ろに置いた時に自分が映っている姿を想像させる。
「いわゆる無限ループの発想なのだが、この発想は、ロボットにおける堂々巡りと似ているのかも知れない」
 だが、人間はそこで思考回路が停止するということはない。元々思考回路という意識はないし、
――心臓のように停止してしまえば、死んでしまうのかも知れない――
 という意識が働いているのだろう。
 人間とロボットの思考能力の大きな違いは、やはり
「停止するか、しないか」
 というところに落ち着いてくるのかも知れない。
 そこで一つ感じた疑問は、
「ロボットの記憶装置の中に、『忘れる』という概念があるのだろうか?」
 ということであった。
 人間は、忘れることで、怖いことから逃れようとする。実際に忘れられる忘れられないは別にして、忘れようとする意識は、覚えておくことと同じように重要なことだ。
「でも、人間の場合の忘れようとすることと、覚えておくようにしようとすることではどちらが難しいことなのだろう?」
 と、考えるようになった。
 沙織は、こういう発想をずっと抱いていたように思う。考え方がいつも堂々巡りを繰り返していたが、最近は、
――それでもいいのではないか――
 と思うようになっていた。
――堂々巡りを繰り返すのも人間だ――
 という考えで、思考が停止するよりもマシだと思っているからだった。
 沙織は、自分が、
「ロボットではないのか?」
 という意識を持つようになってきた。
「そういえば、義之さんが、面白いことを言っていたわ」
 と、義之の言葉を思い出していたが、その言葉というのが、
「ロボットというのは、なかなか自分をロボットだという意識を持っていないんだよ」
「どうしてなの? ロボットって、さっき言ったあなたの言葉の基本基準を埋め込んであるんでしょう? あの基本基準は、明らかの人への『安全装置』だって言ったわよね? それなら、自分が人間とは違うということを意識してしかるべきなんじゃないの?」
 というと、
「確かにそうなんだけど、ロボットを作る際に、そこまで明確にはしていない。ただ、人間ということに対して、他のロボットとは、見分けがつくようにしているのさ。そうしないと、ロボット工学基本基準を守ることができないでしょう?」
「確かにそうですね。でも、あなたとこういう話をしていると、まるであなたが未来から来た人みたいに思えて仕方がないわ」
「それは、君の『予知能力』が、そう教えるのかな? でも、きっとそれだけの根拠じゃないんでしょう? 『予知能力』というのは、あくまでも感覚の問題。あなたは、感覚だけで口から感じたことを出す人ではないと思うんですよ」
「私は、前からそうだったけど?」
「いや、今の君は自分で気付いてはいないけど、しっかりした性格になっているんだよ」
「じゃあ、感覚以外では何があるというの?」
「確証に至るために、自分が納得できるだけの意識があると思うんだ」
 そう言われて、少し考えて、沙織は言葉を選ぶように話し始めた。