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予知能力~堂々巡り①~

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「確かに成長するにしたがって作風が変わってくるのかも知れないけど、私には、彼の小学生の頃の絵には、それこそ怖いもの知らずのところがあって、きっと、審査されると、一発で弾かれてしまうようなところがあるような気がするんですよ」
「そこが先生には魅力だったのかしらね?」
「そうだったのかも知れないわ」
「絵を描くにも、それなりに法則があると思うんですけど、その人はどうだったんですか?」
「バランス感覚とすれば、法則には敵っていなかったような気がするわ。でも、法則に適わないまでも、何か発展性を感じることができた。きっと、最後のところで辻褄が合っているんじゃないかって思うところがあったんですよね」
「私も自分で描く絵をそんな風に思っています。きっと専門家の人たちが見ると、治したくなるか、あるいは、最初から相手にされないかのどっちかでしょうね」
「芸術というのは、絵に限らず、そんなところありますよね。だから楽しいんだと私は思っていますよ」
「先生は、芸術は、『楽しむ』という形から考えるんですね」
「そうね、あなたは違うの?」
「私もそうですよ。でも、今まで芸術に携わっているって人に対しての感覚は、変わり者が多いというイメージですね。その変わり者というイメージは、芸術には法則があって、それに逆らうようなやり方で芸術に親しんでいる人を毛嫌いする雰囲気を感じていましたね」
「そういう意味で、沙織さんは自分の中で、色に対して他の人との違いを、少しコンプレックスに感じていませんか?」
「ええ、コンプレックスを感じてはいけないという思いを持っているにも関わらず、気が付けば感じています。どうして自問自答を繰り返すのか、どうすれば、自問自答を繰り返さないで済むようになるのか、そのことを考えている時間が多かったです。そんな時間をもったいないと思うようになってから、コンプレックスという言葉が嫌いになりました」
「私は、沙織さんがイメージしている色のランクというのは、一番低いところから、青、黄色、緑、赤だと大雑把ですが思っています。違いますか?」
「ええ、まさしくその通りなんです。しかも、そのすべてが原色であることが必須条件になりますね」
「その色に何か由来があると思うんですが、自分では意識がないんでしょう?」
「ええ、ありません」
「そうですか……」
 と言って先生は、少し考え込んでいた。その様子を見ていると、
――本当は、何かに気付いているんじゃないかしら?
 と思うようになっていた。
 分かっているかも知れないと思うのは、話を聞きながら、相槌を打つかのように、ちょうどのタイミングで頷いていることである。何かを感じていないと、頷くことのできないタイミングで頷いているように思えて、沙織には先生に話をした自分の気持ちが、その時分かった気がした。
――他の人には言えないことでも、先生には聞いてもらいたいと思うようになったからなのかも知れない――
 沙織は、先生を見ているつもりで、少し視線を逸らし、先生の背後を見つめているようであった。
 先生は名前を、大森香澄と言った。皆からは普通に大森先生と呼ばれていたが、沙織だけは「香澄先生」と呼んだ。
 香澄先生は、学校でも数少ない女の先生で、三年前にも教育実習で、この学校に来たということだった。
「実は私もこの学校の卒業生なの」
 と、話していた。
「初恋もこの学校で、その時に好きだった人が、先輩だったんだけど美術部で、私もその影響で美術部に入ったんだけど、まさか、それがそのまま美術の先生を志すことになるなんて、思ってもいなかったわ」
 と言っていた。
――何を言いたいのだろう?
 と感じた。
「中学時代というのは、これからの自分の進路を決める時期として、一番可能性が高いということを言いたいんですか?」
「それはないとは言えないけど、そんなにかしこまって聞く必要はないわ。あなたには、そういうこともあるということだけを感じてほしいだけのこと。将来のことは分からなくて当然なんだから、私は必要以上に意識する必要はないと思っています」
 先生は冷静だった。
 少しだけ、冷静な先生に対し、苛立ちもあったが、今まで慕いたいと思った人がいなかった沙織にとっての先生は、初めて慕いたいと思った人だったことには違いない。
――私にとっての初恋なのかしら?
 男性に対して、その頃好きになった相手はいなかったのに、いきなり女の人を好きになるというのもおかしなものだと思った。
 しかし、男性に興味が湧かないことで、女性を慕いたいと思ったというのは、別に不自然ではない。ノーマルではないのかも知れないが、
「ノーマルじゃないといけないなんて、誰が決めたんだろう?」
 と、開き直りの気持ちにもなっていた時期があった。
 人を好きになるきっかけには、二つが考えられる。
 一つは、自分から好きになる時と、もう一つは、相手が好きになってくれたので、自分も好きになる時である。
 普通は前者なのだろうが、後者もありだと沙織は思っている。しかし、友達の中には、後者を否定する人もいて、
「相手から好きになられたから好きになるなんていうのは、私からすれば、錯覚にしか思えないわ」
 と言っている人がいた。その人は、いつも自分が輪の中心にいないと我慢できないような性格の人で、自分に反対意見を述べる人を否定する人だった。
 そういう意味で、彼女には敵が多かったように思うが、なぜか同じ意見の人も結構いた。意見が同じではない、考える姿勢が同じだった。つまり彼女は自分と同じ意見の人だけしか認めないわけではなく、自分が納得できない人を認めないという考えだったのだ。
 自分が納得できない人を認めないというのも、結構乱暴な考え方なのだが、それでも、意見が違う人を認めないという考えには遠く及ばない。それを一緒に考えてしまっては、彼女に対して失礼だということに気が付いた。
 先生のことを、女性でありながら、意識してしまったなど、誰にも言えるはずもない。自分がおかしいのだということで、一人気持ちの中に抱えていくしか、その時は考えられなかった。ただ一つ言えることは、
「自分が納得できるい人を好きになる」
 という点で、先生と似ているということだけは分かった気がした。先生には、相手が男性であっても、美術であっても、同じことだった。沙織も先生を見ていて、
――私も同じところがあるんだ――
 と感じるようになったことが、先生を意識するようになったきっかけではないかと思うようになっていた。
 香澄が沙織を意識するようになったのは、色に対しての感覚からだった。
 それは感性だと言ってもいいだろう。美術をしていると、一番大切なのか、バランス感覚と、遠近感、つまりは、
「光と影」
 だと、香澄は感じていた。その思いは隠すことなく、友達にも生徒にも話をしていた。だが、理屈は分かっても、自分で取り入れようとしてくれる人は少なかった。
――理屈は分かっても、納得できないからなのかも知れない――
 と、香澄は思っていた。
 香澄先生とそんな話をするようになってから、沙織は美術部の中でも、他の人とは少し違った意味で絵を描くようになった。