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予知能力~堂々巡り①~

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 それは、その場所に対して感じている胸騒ぎであって、その時にきっと沙織自身、
――自分の性格は、他の人から比べて変わっているものなのかも知れない――
 と感じたのだろう。
 その中には、色というものに対しての感情も含まれていた。
 色というものを意識したことは、実はその時が最初ではなかった。
 中学生になって、学校から「美術鑑賞」と称して、美術館での課外授業があったが、その時に見た絵の中に、
「色のコントラストが、この絵の命なんだわ」
 と感じさせるものがあったのを思い出した。
――自分にもそんな絵を描けるような才能があればいいのに――
 と感じていたが、絵を描くために大切なものが自分には欠けていることに、一番最初に気が付いた。
 それはバランス感覚であり、真っ白いキャンバスのどこに、筆の第一投を投入するかが分からない。色というよりも、まずは、構成のバランスから分からないのだ。
「絵を描くのに、構成のバランスと、色のバランスと、どっちが重要なんですか?」
 と、美術の先生に聞いてみたが、
「何とも言えないけど、どちらにも言えることは、『適度な距離を保つ』ということが大切だということです」
 と先生は話してくれた。
「私は、そのどちらも苦手です。それは先生のおっしゃる『適度な距離を保てないから』なんでしょうか?」
「それは言えることだとは思うんですけど、まだ君は中学生なので、早急に答えを出す必要はないと思うよ。別に絵描きを目指しているわけではないんでしょう?」
「ええ、もちろん、絵描きを目指すなんて大それたことは思っていません。でも、絵に限らず、一生に一度くらいは『自分が生きてきた証』として、何かを残したいと思っています」
「その気持ち分かります。一生懸命に何かを目指しているというのは、プロとしてさらに高いところを目指している気持ちも分かりますが、人から認められないことで、ショックを受けるくらいなら、自己満足でもいいから、何かを残したいという気持ちは私にもあります」
「ちょっと矛盾しているようなんですが、自己満足という意志は、他の人と同じでは嫌だという気持ちから生まれる場合もあります。ただ、それって、プロとして頂点に立ちたい人というのも、結果的に、他の人と同じでは成立しないものですよね。どこか人よりも特化していないと、物まねになってしまいますからね」
「結局は、目指すところは同じだということでしょうか?」
「そうですね。でも、人と同じでは嫌だという考えにも程度がありますから、その人がどこまで考えるかによって、自己満足では嫌だと思うと、先を目指すようになる。でも、その時に必ず壁にぶつかる時がある。それが、自我流ではダメだと本人が思い知ることなんでしょうね」
「やっぱりプロになるには、誰もが認めるものでないといけない。そこには、自分の信念を少なからず歪める気持ちがないと越えられない壁が横たわっているのかも知れないですね」
 先生とそんな話をしていると、時間が経つのを忘れてしまう。
「私は、沙織さんが他の人と違うと感じているのは、何かあなたには、他の人にはない、色に対しての思い入れのようなものがあるのではないかと思っているんですよ。それは他の人も感じているかも知れないですが、きっと漠然としてしか感じることはないと思っています」
「それはどういうことですか?」
「どうやら、沙織さんも自分で意識しているわけではないようですね」
「ええ、どういうことなんでしょう?」
「言い方は悪いかも知れませんが、沙織さんは、色にランクを付けているように思えてならないんですよ。それは好きな色、嫌いな色というわけではなく、絵を描いていく上で、どの色とどの色が目立つのかということであったり、絵の中でのインパクトであったり、私には、それがあなたの絵に対しての、バランス感覚なんではないかと思っています」
 先生の話は、半分分かった気がしたが、分からない部分があと半分というわけではない。分かっている部分が半分なら、分からない部分が、三分の二くらいになっているのではないかと思っている。そう言われると、分かっている部分と分からない部分が重なっているように思えるのかも知れない。
「確かに先生のおっしゃることも分かるような気がします。自分では確かに漠然としていますが、絵を描く時に限らず、その色を見ていると、色のランク付けというよりも、優先順位のようなものが自分の中に存在しているように思えるんです」
「でも、好きな色と優先順位とは若干違っているでしょう?」
「ええ、確かにそうです。好きな色に関しては自分で分かるんですけど、気になる色というのは、自分でも分かりません」
「そのことで悩んだりしたことあった?」
「悩むということはありませんが、どうしてこの色が優先順位の高いところにあるのかっていうのは感じたことがありますね。しかも普通に目立つ色からだったり、暗い色からだったりというような規則性があるわけでもないんです。かといって、まったく規則性がないと言えない自分がいるのも事実なんですよね」
「色に対しての優先順位、それはあなたの中でのそれこそ最優先の優先順位に当たるんでしょうね。でも、他の人には、色とは違う優先順位が別に存在しているのも確かなんです。ただ、そのことを誰もが意識しているというわけではないと、私は思っています」
「ところで、先生は、絵をいつ頃から描いているんですか?」
「私は小学生の頃から描き始めたかしら。描き始めは不純で、近所のお兄さんが、時々絵を描いているのを見て、ステキだなって思ったのよ」
「それって、先生の初恋?」
「そうだったのかも知れないわね。本当に好きだったのかどうか分からないけど、絵を描いている後ろ姿を見て、格好いいと思ったのは、事実なのよ」
「好きな人がしているのを見て、自分もしてみたくなるというのもありなんでしょうけど、逆に、その人がしている姿に格好良さを感じて、その人が好きになった。前後して、絵も一緒に好きになったのだとすれば、時間が経ってから思い出す時は、好きだった人が絵を描いていたからだということになるのかも知れないですね」
 年上の先生に向かって、まだ中学生で男性と付き合ったこともほとんどない沙織が、よくここまで言えたものだと思うのだが、考えてみれば、まだ恋愛経験のほとんどない沙織だからこそ、好き勝手な意見が言えたのかも知れない。
 先生もそのことがよく分かっていて、
「恋愛経験のない人の意見は、どこか怖いもの知らずなところがあり、貴重な意見として聞けることがありますね。でも、参考程度に聞いておかないと、自分の意見が迷走してしまうようになるから気を付けないとね」
 と言っていた。
「その人の絵に関してはどうだったんですか?」
「私も小学生だったので、どれほどの才能があったのかというのは、判断できたわけではないわ。ただ、少なくともプロとしてやっているわけではないような気がしているわ」
「どうして分かるんですか?」