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予知能力~堂々巡り①~

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 沙織は、そんなパターンが大嫌いだった。
 パターンに嵌った話など、説得力も何もない。最初に一度だけされたのであれば、教訓として意識することもできるが、それもしつこくなってしまうと、煩わしさしかなくなり、話をしてくる人に対して、胡散臭さを感じるようになった。
 まずは、言葉に重みを感じない。言っていることに間違いはなくとも、
――何も考えていないんだ――
 と思ったことをただ口にしているだけである。
 人間臭い人も、思ったことを口にしているだけなのだが、同じ表現でも、その重さはまったく違う。
 胡散臭さを感じる人の言葉は、
――他人の受け売り――
 である。
 人から聞いて、
「これは使える」
 と思った言葉を右から左である。
 言葉を少しでも変えるならいざ知らず、そのまま使っているだけで能がない。しかも、そんな人は、
――自分はいいことを言っているんだ――
 と思っていて、相手のためにしているという意識を前面に出している。
 その様子が見て取れると、そこには胡散臭さしか映らず、言葉に信憑性の欠片も感じなくなるのだった。
 言葉に罪があるわけではないが、あまりしつこいと、自己否定が始まる。
 以前に信じてしまった言葉を、
――どうして、こんなに安直に信じたのだろう?
 と思ってしまうのだ。
 本当は、目からうろこが落ちるくらいの気持ちで最初は聞いたはずである。それなのに、あまりしつこくされることで、薄れてくる言葉の「重み」に対し、自分ではどうすることもできない心境に陥ったことが、どんどん辛くなってくるのだった。
 香澄先生には、それはなかった。
 それまでに誰も話してくれなかったような話を最初にしてくれたのが香澄先生だったし、他の人から以前言われたことを、再度反復して言われるようなことは、香澄先生に限ってはなかったのである。
「香澄先生は、超能力者?」
 と、軽い気持ちで香澄先生に訊ねたことがあった。
 すると、少し微笑んでから、
「どうして、そう思うの?」
「だって、香澄先生は、私が嫌なことは絶対にしないでしょう? 言葉だって、選んでいるようには思えないのに、私が言ってほしいと思っているような話を、すかさずしてくれる」
「それで、超能力者だと思ったのね?」
「ええ」
「そうね。そういう意味では超能力者なのかも知れないわね。でも、超能力という言葉は適切ではないかも知れないわ」
「どういうこと?」
「一般的に言われている超能力というのは、誰もが持っている能力で、人の中に潜在しているものだって言う話でしょう? 潜在している能力というのは、きっと、誰にでも適用するものだと私は思うのよ」
「ええ」
 香澄先生の話は分かるようで分からない。それだけに、しっかり聞いていないと、聞き逃してしまうし、聞き逃してしまうと、分からなくなってしまう。聞き逃したら、もう一度説明を求めないといけないことは、沙織には分かっていた。
 だが、この時は、しっかり聞けていたし、分からないまでも、理解できそうな気がしていた。
「でもね、私は能力があるのだとすれば、それは一定の相手にしか効力のないものだって思うのよ。たとえば、今なら沙織さんあなたとかね」
 と、香澄先生は言った時、少し考え込んでいた。
 その時に、「一定の相手」という言い方をしたのは、相手を沙織だと限定したくなかったからなのか、それとも、他にも「一定の相手」がいたのか、沙織には分からない。だが、もしその時、沙織に香澄先生の気持ちが分かったのなら、今の沙織はなかったということを、分かるはずもなかったのである……。
「先生の話、何となくですが分かります」
 正直に答えた。
「よく分かります」
 などと言えば、香澄先生がせっかく、オブラートに包みながらでも話してくれたことを踏みにじることになる。そのことはおぼろげながらに、沙織には分かっていた。
 香澄先生も、沙織の気持ちが分かったのか、いつもの笑顔を浮かべていた。
――香澄先生の笑顔って、他にないのかしら?
 という疑問を感じたことがあった。
 だが、いろいろ考えているうちに、
――笑顔に種類がある人の方が信用できない――
 と思うようになった。
 それまでの沙織は、表情が豊かな人ほど品行方正で、信用できるのではないかと思っていたが。香澄先生と話をするようになって考え方が変わってきた。
――表情がたくさんある人の方が、品行方正なのではなく、八方美人なんだ――
 と思えてきた。
「まるでコウモリだわ」
 香澄先生に表情が豊かな人は信用できないという話をした時、先生が一言言った言葉である。
「コウモリ?」
「コウモリというのは、その生態系状、鳥にも見えるし、獣にも見えるでしょう?」
「ええ」
「だから、危なくなった時、相手が鳥の時には、自分は鳥だといい、相手が獣の時には、自分は獣だという。八方美人という言い方とは少し違っているのかも知れないけど、表現としては、そうも言えるのかも知れないわね」
「何となく分かる気がします」
「確かにコウモリは目が見えなかったり、不気味だったりすることで、嫌われたりするけど、そうやって詭弁を使うのも、生きていく上での本能というべき知恵が作り出したものなのでしょうね」
 と、香澄先生は話してくれた。
 さすがに香澄先生の笑顔に種類があることの話はしなかったが、コウモリの話をしてくれたことが、沙織が求めていた答えだったような気がして、それだけでも、香澄先生を尊敬するに値する人だということを再認識したような気がした。
 沙織は、そんな香澄先生と自然消滅した時のことを思い出していた。
 あれは、沙織が高校二年生の頃だっただろうか。それまでは、どちらからともなく連絡を取っていたのだが、急に香澄先生の方からの連絡が途絶えた。
 沙織の方から連絡を取ればよかったのだろうが、その時、ふと考えた。
「私から連絡を取る時というのは、前に香澄先生から連絡を取ってくれたことで、自分の中に香澄先生を作り上げて、次の時に自分から連絡を取っていたんだわ」
 つまりは、香澄先生を作り上げることができなければ、沙織の方から連絡を取ることができなくなってしまっていた。
「別に気にしなくてもいいじゃない」
 と、他の人なら言うかも知れない。
 しかし、そうではないのだ。香澄先生と沙織の間には、他の人には分からない「距離」があった。沙織は、それまでそのことに気付かなかったが、その「距離」があることで、お互いに結界を作ることをしなくとも、お互いのプライバシーを守ることができたのだ。
 他の人はいくら親友や恋人、ひいては肉親であっても、
――距離を作らないことが親近感を湧かせる最大の力なのだ――
 と思っているとすれば、相手との間には、必ず結界が存在するのだ。
 結界は、見えないものであり、意識するものでもない。もし、それを意識してしまうと、自分だけではなく相手にも意識させる必要がある。もし、それができなければ、
――距離が離れていくだけで、二度と戻ることはない――
 と思っていた。
 沙織は、香澄先生と自然消滅した時、それまで感じたことのないはずだった結界を感じてしまった。
――どうしたらいいの?
 さすがに沙織は戸惑った。