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予知能力~堂々巡り①~

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 今、秘密結社に話が移った時、いきなり彼がセキュリティも話をしたのも、何かの計算に違いない。
 今までの彼から考えれば、いきなり相手に疑問を感じさせるような話し方をするはずはない。
――私が疑問を抱かないとでも思ったのかしら?
 と感じたが、そうでもないようだ。
 その証拠に言葉が途切れた瞬間に、彼の口元が怪しく歪んだ気がした。その表情は、それまでの会話の中にも随所に見られたが、その時の笑みには、今までにない確信めいたものを感じた。
 してやったりの表情というところであろうか。
 少し間があったが、義之が話を続け始めた。
「アトランタの奥深くに大学があると言ったけど、本当は大学の中にある秘密結社の研究所が、奥深くにあったのさ。雑木林に囲まれて、人の入り込むこともないその場所は、伝統的に大学が秘密研究をするために、人工的な要塞として、昔からあったものらしい。俺が大学で尊敬していた教授が、その研究所の所長をしていて、気が付けば手伝うようになっていたんですよ」
「そんな簡単に手伝えるものなんですか?」
「最初は、研究所側にも抵抗があったみたいだけど、何度か話を進めて、この俺が相手の条件を飲むことで、成立した補佐役だったんだけどね」
「そこで、ロボット工学の研究でもしていたんですか?」
「それに近いものを研究していたのは事実だね。特に問題になったのは、例の『ロボット工学基本基準』だったんだよ」
「本当にそんなものがあったんですか?」
「ええ、実際にはロボットと言っても、すべてのロボットに適用されるものではない。特に、機械に近いロボット、つまりは、人が中に入って操縦したり、外からリモートコントロールされるものは、その限りではないですからね」
「それは、『意志を持たない』という観点からですか?」
「そうですね。操縦されてその通りに動くロボットには、基本基準は元々存在しませんからね。何と言っても、ロボット工学基本基準は、人間に対しての安全装置ですからね」
 確かに彼の言う通りだった。人間に危害を加えず、きちんということを聞く相手に、安全装置の意味がないからである。
「アンドロイドのような感じですかね?」
「最初に話した、人間型ロボットはアンドロイドと言えるでしょうね。でも、そこから戦闘用に変身したりした場合、そこから先はアンドロイドとは言えないような気がしますね」
「でも、戦闘用のロボットが存在するということは、人に危害を加えないという条項に違反しませんか?」
「そうでもないでしょう? 第三条には、自己は自分で守らなければいけないとある。しかも、戦闘型と言っても、戦うのは人間とは限らない。相手もロボットを使ってくれば、ロボット同士の戦いになりますよね。しかも、それは、自分の主を守ることになる。逆にそこで何もしなければ、主を見捨てたことになり、結局は第一条に違反することになりますよね」
「でも、そんな難しいことを、ロボットに判断できますか? しかも、緊急時には、一瞬にして判断しなければいけないですよね?」
「そこなんですよ。ロボット工学基本基準を忠実に守るロボットを開発しようとすれば、今言ったような緊急時にパニックを起こしてしまいかねない。絶対条件の基本基準を電子頭脳に埋め込まれているわけだから、従わなければいけないという絶対命令、目の前で目まぐるしく移り変わる状況に、さらには、その時に先を見通さなければいけない能力を、ロボットは備えていないと、ジレンマからパニックに陥るんですよ」
「先を見通す……」
「そう、一瞬の判断だけではなく、そこから先を予知できる能力が備わっていなければいけない。それが、ロボット工学基本基準と一緒になって、初めて人間への安全装置としての機能を果たすことになるんですよ」
――予知能力――
 沙織は、自分に備わっている能力を、目の前にいる今日初めて出会ったばかりの男性に、看破されてしまったような気がした。
――この人は、一体どんな能力を持っているというのだろう?
 沙織は、義之に対して、何でも見透かされてしまうことで、気持ち悪いという気持ちよりも、頼もしいという気持ちの方が強くなっていた。
――本当に、今日初めて会ったのかしら?
 と疑いたくなる。
 そう考えてみれば、最初の出会いも印象的だ。話を聞いてみれば、あれは偶然ではなく、出会いのきっかけとして作られた演出だったんじゃないかと思うと、次第にその信憑性に疑う余地はなくなってきた。
「もっと、ロボット工学基本基準について知りたいですね」
 本当はロボット工学基本基準だけではなく、もっといろいろ知りたいのだが、話の根幹になっているのが、ロボット基本基準だということを自分が分かっているというつもりで、義之に告げた。
 義之の表情は相変わらずだったが。またしても、唇が怪しく歪んだ。
 同じ怪しく歪んだ唇だが、その雰囲気は微妙に違っている。
 最初は、不気味さを感じ、次に頼もしさを感じた。そして、今度はそれに加えて、優しさを感じたのだ。
「ロボット工学基本基準は、限られたロボットだけに言えることではあるんだけど、その幅は結構広い。実際に公に研究されているロボットの中にも基本基準を埋め込まれたものも存在します。市販されているのも中にはあるかも知れませんね」
「でも、私にはまだ架空の話で、SF小説や、特撮やアニメでしか想像はできません」
「特に女性は、SF関係は苦手でしょう?」
「そうでもないですよ。私はSF小説を読むのは好きですし、結構私のまわりには、女性でもSF小説が好きな人がいたりします」
「『類は友を呼ぶ』と言いますからね。それももっともなことだと思います」
 また一息あって、さらに義之が続けた。
「ロボット工学基本基準は、結構矛盾を孕んでいるところがあります。その解釈はいろいろ分かれていて、ロボットを作る側でも、統一化されていないんですから、埋め込まれたロボットからすれば、溜まったものではないですよね」
「たとえば?」
「第一条にある、人間に危害を加えてはいけないという項目ですが、もし、自分の主が他の人間から殺されそうになっていて、相手に危害を加えなくても守れる時、主はロボットに対して、『絶対に私を守りなさい。相手を殺しても構わない』という命令を下したとして、その命令は、第二条に当たりますよね。このロボットは、主を守るという警護ロボットだったとしましょうか」
「ええ」
「でも、第二条は、人間に危害を加えることに対しては、人間の命令を守ることはその限りではないと謳っていますよね」
「……」
「ということは、優先順位からすれば、主の命令は聞くことができないということになる。でも実際には、主が危険に晒されることになるわけですよね。主からすれば、ロボットは自分の命令に従わなかったと思うでしょう。いくらロボットが、相手を傷つけなくても守れる自信があっても、本人には分からない。そこで関わってくるのが、第三条の条文です」
「第三条というと、確か、自分の身は自分で守るということですよね」