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予知能力~堂々巡り①~

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「この基本基準には、優先順位が存在するということです。一条が一番高く、その次に二条、そして、その次が三条。なるほど、うまく作られている基本基準でしょう?」
「ええ」
「でも、これに第零法則というのも存在するらしいんです。考えてみれば、あって当然のものなんですけどね」
「というのは?」
「第一条は人を傷つけてはいけないということですよね? それは絶対条件であって、疑う余地がないものに見えますが、考えてみれば、人を殺そうとしている人が目の前にいた時、殺そうとしている人を傷つけないと、殺される人を見殺しにすると考えた場合、どうなります? SF小説では、殺されそうになっている人を、人類全体だという発想にしてしまっていたようですけどね。考え方は変わりませんね」
「それって?」
「そうです。堂々巡りを繰り返しているように思うでしょう? そこが難しいところであり、面白いところでもあると思うんですよ。それはロボットと人間に限ったことではない。差別化されているものすべてに言えることではないかと思うんですよね」
「本当に難しいですわね」
「ええ、それにさっきあなたが、ロボットの側から考えているって言ってたけど、今の基本基準を聞いても、ロボットの側から考えていると言えますか?」
 沙織は絶句してしまった。
 自分ではロボットの側から考えているつもりだったが、ここまで差別化されている世界のことを、容易に発想できるはずもない。
――私が甘かったんだわ――
 としか考えられないではないか。
 ロボットに対して同情というものが存在しえるかどうか、沙織には分からない。同情したとしても、その感情が伝わるとは限らない。
 もし、ロボットに意志があったとしても、人間の気持ちがどこまで分かるというのだろう。ロボットは人間に奉仕するために開発され、作られたのだ。それ以外に彼らの生きる道はなく、下手に感情や意志などを持ってしまうことは、却って彼らを苦しめることになるだけだ。
 そんなテーマで作られたアニメやドラマが、きっとロボットものでは主流になっていることだろう。
「ロボットって、本当にそんなに悲しいものなんでしょうか?」
「俺もそれについては考えたことはある。だけど、しょせん、人間の側からしか考えることができない俺たちには、悲しいものとしてしか映らないんだ。ロボットについては、かなり昔から、開発は別にしても、小説やドラマになっているんだけど、ロボット工学基本基準が考案される前は、人間に危害を加えることをテーマにしたものが多かったようですよ」
「ということは、ロボット基本基準というのは、ある意味で、人間に対しての安全装置のような働きがあるんでしょうか?」
「まさしくその通りだよ。開発した人間が自分の身を守るために、ロボットの電子頭脳に対して、基本基準を埋め込むことで、ロボットの安全性を確立させようとしたんだろうね。そうでなければ、ロボットは力が強力なだけに、利益よりも危険の方が数倍も強くなるでしょう」
 沙織は、また考え込んでしまった。
 人間と同じように、ロボットも悩むというのだろうか。ただ、それも、電子頭脳が埋め込まれたロボットにのみ言えることで、人間が中に入ったり、遠隔装置を使って操作するものは、この限りではないだろう。
 ただ、それにしても、どこからこんな難しい話になったというのだろう。
 義之とは、さっき会ったばかりだったはずだ。会ったその日に、ここまでの話を本当にしたのだろうか?
 確かに何年も経ってから思い出すことであり、初対面のインパクトはかなりのものだったに違いないだけに、記憶が交錯していたとしても、それは仕方のないことではないかと思っている。
――それから、どんな話になったんだっけ?
 と、さらに思い出してみた。
「結局、ロボットは自分の意志を下手に持たない方がいいんじゃないかって発想が生まれてくるわけでしょう? だから、一般の人が、ロボットと聞いて、何も考えずに最初に思うことというのは、『感情や意志を持たない人間の役に立つもの』だという意識が強いわけですよ。それって、ある意味、ロボット工学基本基準に準じていると思いませんか?」
「そうですね、紆余曲折を繰り返して、ここに戻ってきたって感じですよね」
「ロボットに限らず、人間は紆余曲折を繰り返して、堂々巡りを繰り返すものなんですよ。だから、ロボットは人間の鏡のように感じている人もいるようです。ロボットが感情や意志を持つこともありえると……」
「そうなると、また堂々巡りを繰り返してしまうことになりますよ」
「そうなんだよ。結局繰り返すことになる堂々巡りなんだけど、それこそ、永遠のテーマですよね」
「というのは?」
「『タマゴが先かニワトリが先か』というテーマに通じるものがある。そこまで発想が進展してくると、先が見えてくるというよりも、迷走してしまっているということに気付かされた気がしますね」
「ところで、義之さんは、どうして私にロボットの話をしたんですか? それにさっき何か言いかけたことがあったようですが、それとロボットのお話は繋がりがあるんでしょうか?」
 と、思い切って聞いてみた。
 義之は、また少し考え込んでいたようだが、
「関係はあるよ。俺の話をする前に、ロボットというものがどういうものなのかということを知っておいてほしかったというのが、今の本音だね」
「ロボット工学というのは、現在いろいろな国で研究は薦められているんだろうけど、限界がありそうな気がする。そこで考えられたのが、発想の分散というものなんだ。国家が一つの重大プロジェクトを立ち上げるというよりも、いろいろなところで、水面下での研究が続けられているんだ」
「それは、大学とか、個人の研究所とかいう意味でですか?」
「そうだね。極秘裏に進められていると言っていいだろうね」
「アメリカには、国営ではなく、民営というには少し異色の組織も結構存在します。それは、沙織さんが想像しているよりも、多いかも知れませんね」
「義之さんはいくつかご存じなんですか?」
「実は、私はそのうちの一つに少し関わっていたんですよ。それぞれの研究所では、セキュリティも万全だったので、その存在を知る人は、ほとんどいないと思います」
――そんなにセキュリティがしっかりしていて、存在を明かしてはいけないものであるなら、この男はどうしてこんな話を私にするのだろう?
 沙織は矛盾を感じた。
 話していて、義之は頭が切れるのは間違いない。あまりにも唐突で、ロボット工学などまったく意識したこともない沙織にいきなりこんな話を聞かせて、一体どういうつもりなのかと考えてみたが、最初は全然繋がっていなかった話だったにも関わらず、わずか数時間程度の話で、完全に理解できないまでも、興味を持たせて、漠然としてではあるが、共感できるところもあると感じるまでに話を持って行ったことは、さすがというべきではないだろうか。
 彼の話術には、一定の法則があるように感じるが、その法則がどういうものなのか、考えれば考えるほど、ぼやけてくる。それが彼の話術の真髄なのかも知れないが、必ずその一つ一つには緻密な計算が含まれているように思える。