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予知能力~堂々巡り①~

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「気分が悪いわ」
 と、感じたのだ。
 それまでの話が普通に受け入れられ、共感していた部分が多かっただけに、たった一言で、ここまで気分が悪くなるなど、沙織はビックリさせられた。
 露骨に嫌な表情になったが、それも彼には分かったようだ。彼はにこりともせず、沙織を見つめた。
「その発想って、まるで聖書のようですね」
 沙織は、反論なのか、いきなり聖書の話を持ち出した。
「どういうことなんだい?」
「聖書では、人間を作ったのは神だということになっていますが、その物語の根源は、神が作ったはずの人間が、神の考えていることと違ったことをすれば、必ず一度世の中を滅ぼしていますよね。そして、そのテーマは『神は絶対で、人間には逆らうことができない』ということだと思うんですよ」
 というと、すかさず、義之が反論してきた。
「でもね、聖書と同じような神の話を書いている神話というものは、神は確かに全知全能なんだけど、わがままで、自分の思うようにならないと、人間相手に容赦ないのも事実なんだ。でも、全知全能なくせに、神の世界でも階級があって、ゼウスには絶対に逆らえないとかあるんですよね。そういう意味ではロボットの世界では、人間が神に当たり、ロボットは、人間に当たるんだよね」
「でも、決定的な違いもありますよね」
 沙織はそれについて義之が自分が考えているのと同じ回答を返してくれると思って疑わなかった。
「そう、その通り。決定的な違いというのは、『力』なんだよね。でも、それは人間のエゴが作り出した諸刃の剣、つまりは自業自得とも言えるんだよね」
「確かにそうですね。人間には、ロボットが心を持って襲って来ればそれに対抗する術はありませんものね。『自分たちが利用するために作り出した』、それがロボットなんですよね」
「神がなぜ人間を作ったのか、その真意は分からないけど、決して人間を『利用しよう』とは思っていない。だから、人間に善悪の判断や、そこから派生する考える力を与えたのかも知れませんね」
「でも、それも、ロボットを自分たちが利用するために作り出したのと変わらないんじゃないですか?」
「いや、もっと罪作りかも知れないね。感情を持った人間を、自分たちの思い通りにならないからと言って滅ぼすんだからね。確かに道徳的に滅ぼされても仕方がないのかも知れないけど、その中には、善人もいたかも知れない。数人だけを助けたとしても、それは神が勝手に選んだ人間だけでしょう? それを思うと、『神も仏もないものか』って感じますよね」
「でも、ロボットだって、中には人間よりも、優れた精神を持っている人だっているんじゃないですか?」
 沙織は、今自分の口からロボットのことを、「人」と言ってしまったことで、思わず口元に手をやってしまった。思わず、
「キャッ」
 と声を出しそうになるのを堪えた。
 そのことに義之が分かったのかどうか分からないが、気付いていないかのように、会話の腰を折ることはなかった。
「確かに優れたやつもいるだろうね。でも、それは、彼の精神を深く抉ることに他ならないんだよ。苦しめるだけになってしまう。精神の強さというのは、人間を中心にするから出てくる発想で、人間もロボットも同じように、袋小路に入り込んで、堂々巡りを繰り返す。人間だったら、他の人に聞いてもらったり相談できたりするんだろうけど、そのロボットは、精神面の強さという意味では一番強いわけだよね。誰に相談するというんだい? 
まさか人間に相談できるわけはないよね? だから、禅問答だというんだよ。きっとそのロボットにだって、自分が一番精神が強いロボットだということは分かっているはずなんだ。なぜなら、作った人間がそこまで計算して作っているはずだからね。そうでもなければ、精神の強いロボットなど作れるはずがないからさ」
「……」
 沙織には、もう反論することができなかった。
「ロボットは聖書や神話の中に出てくる人間とは違うんだよ。明らかに人間の意志が働いている。何しろ自分たちが利用するために作っているわけだから、性能面などは、使用用途に従ったものに作り上げられているに違いない。そして、一番大きなことは、『個性がない』ということだ」
「個性がない?」
「うん、だって、使用用途がしっかりしているわけだから、第一号が出来上がれば、二号から先は大量生産によって作られる。設計図に基づいて、決められた数だけ同じものが作られるんだよ。そんな彼らがもし『精神を持ったら』なんて考えると、どうなるんだろうね? 同じ考えのロボットが出来上がって、どんな世界になるというのか、俺には想像もできないし、したくないんだ」
 義之の熱弁は最高潮に達しているかのように思う。
「私には、少し考えられるような気がしますね。だって、人間社会だって、そんなに変わらないんじゃないですか? 人間臭いって、そういうことなんじゃないかって私は思うんですよ」
「じゃあ、沙織さんは、人間もロボットもそれほど大差はないとお考えですか?」
「ロボットが感情を持てば、変わりがないロボットも出てくるかも知れませんね。でも、いくら人間に限りなく近づいたと言っても、人間になれるわけではない。非常に近い距離に見えて、本当は果てしなく遠いものなのかも知れない。それは人間に近づいているロボットにしか分からないものなんでしょうね。そういう意味では、どうしても想像の域を出ないということになります」
「う〜ん」
 義之は唸った。
 その唸りが、自分の想像を超えた発想を沙織がしたからなのか、沙織がそんな発想をするなど、最初から考えていなかったことへの唸りなのか、自分でもよく分かっていないのかも知れない。
「私はロボットの側から見てみたいと思っただけなんです。生意気なことを言ってしまったようですけど」
 今度は、義之が笑みを浮かべた。
「そうなんですね。僕も、沙織さんにロボットの側から考えてほしいと思っていたんですよ」
「そう思っていただければ嬉しいですね。私はただ、義之さんが人間の側からのお話ばかりだったので、ロボットの側から話す人がいなければ、会話にならないと思ったからなんです。それ以上の他意はありません」
「なるほど、そういう意味ですね。では、俺もロボットの側から話をしてみましょうか?」
「というと?」
「『ロボット工学基本基準』というのが存在するのはご存じですか?」
「いえ、知りません」
「これは、あるSF作家が、ロボットの従いべき命令として定めたものらしいんですがね。まず、『第一条は、ロボットは人間に危害を加えてはいけない』とあります。これは普通、当然のことですね」
「ええ」
「第二条は、『ロボットは人間に与えられた命令に服従しなければいけない。ただ、第一条に反する場合は、この限りではない』とあります」
「はい」
「第三条は、『一条、二条に関わらないことを原則に、自己を守らなければならない』とあります。どう思われますか?」
「非常に人間にとって都合のいい基本基準ですよね。これを聞いた上でさっきのお話をすると、また違った議論になるような気がしますね」
「そうですよね。でも、私の発想は少し違いますね」
「どういうことですか?」